それなりの学力の、それなりの高校。成績がいい人は皆が名前を聞いたことのある大学に行くし、頭が悪い人は就職するなり大卒の資格を取るためにしかないような大学に行く。そういう高校。要するに、普通の公立高校。
三年四組。出席番号一番、赤間悠悟は大学に行く気など毛頭ない生徒であった。一緒のクラスだな、と言ってくる近隣の友達や一年二年の時に同じクラスだった顔ぶれに適当にあしらって、その後は担任の先生が来るまで携帯をいじっていた。家のバーを継ぐというつもりでいるし、それに母は特に反論しなかった。アンタがいいならいい、と言ってそれっきりだ。常連客の彼等、いや彼女等も悠ちゃんがこのお店継ぐならまだまだ通っちゃうわ、と言っていた。店を継ぐという選択肢があるからいいものの、もしそれがない時にどうしたいかと言われたら、行きたい大学なんてあるわけがない。言ってしまえば、進路における望みがないのだ。そこまでよくない成績を上げてまで大学にまで行き学びたいこともない。就職するにしても、どういう業種がいいとかそういう希望もない。これから進路指導も多くなる。嫌になるなぁ、と常連たちやかっこいいアパレルブランドの投稿をぼんやり流し見していた。
(後ろ、誰なんだ)
真後ろの席にはまだ生徒は来ていない。他の生徒に捕まってるとかそういうことなのか、と思いながらもすぐに携帯に視線を戻そうとする、その時。
教室の後ろの扉が勢いよく開き、ばたばたと駆けこんでくる。学校指定のリュックサックの片方が肩から外れていながらいそいそと自分の隣に座る男。目元は、髪でよく見えない。よほど急いでいたのか、肩が激しく上下している。一年の時に同じクラスになったはいいが、間に春夏冬あきなしという奴が必要最低限以外話したことがない。ついお節介が働き、赤間は椅子を引いて身体を乗り出す。
「ねぇ、あなた秋口くん?」
「はーっ、へ?……あ、うん。秋口紫峰。たしか、あ、あ……」
「赤間。赤間悠悟。好きに呼んでちょうだい。あとこの口調は趣味だから気にしないで。最後一年、よろしく」
よろしく、と秋口は頭を下げる。しっかりした目つきは真っ直ぐと赤間を捉える。
「ねぇ、なんで慌ててきたの?」
「……皆、もう来てるかなって。ほら。四組は担任、このままなら深山だろ」
「あーね、あの人遅刻厳しいもんね」
この口調は今に始まったことではない。これで話していると、コミュニケーションをするときに人を怒らせることが少なかったり距離感がすぐに縮まったりと、それなりに楽になれるのだ。人と話すことが億劫なわけではないが、楽に話せることに損はない。秋口もそれに上手く乗せられているのか、笑顔を見せたり湿った目つきが時折柔くなるのが赤間からもわかった。しかし、教室の外から整列しろと呼ぶ声で立ち上がる。
「あ、そろそろみたいね。行きましょ」
「……うん」
時折言葉に詰まっていることもあるが、話す分には特に問題なさそうだな、と赤間はひとまず安心していた。
席替えをするまでしばらく話しているうちに、赤間は秋口について色々なことを知った。
例えば、関西からやってきたということ。進学のためにと彼は母方の祖父母と一緒に暮らしているらしい。弁当の味つけが西のものと違って好きじゃないのと和食ばかりだからという理由でおかずをよく赤間にあげて、彼は白飯をどうにか胃の中に収めている様相であった。引退したとはいえ柔道部で燃費が良すぎる赤間としては嬉しいばかりであったが、あまりにも何も食べない様子は心配を誘った。
カット
Latest / 73:23
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
創作芸人
初公開日: 2021年11月02日
最終更新日: 2021年11月02日
ブックマーク
スキ!
コメント
フリーお題のワパレをついでに消化出来たらいいな