「侑、一緒に帰ろ」
 いつもの声。いつもの言葉。いつもの表情。
「はい」
 だけど、先輩のそれはどんどんと輝いていて。
 一方のわたしは、どうなんだろう。いつものように振る舞えてるだろうか。
 夕陽が落ちていくのがめっきり早くなってきた秋の空。中間考査が終わって、行事も委員会もなんの予定もない空白の時期。
 ただ生徒会室でのんべんだらりと過ごしているだけなのに。
 先輩は変わって、どんどんと前へと歩き始めて。
 変わってしまったわたしは、まるでタイミングを計ってるかのように身動きが取れないでいた。
 いける? いけない?
 打ち上げの帰りに零れてしまいそうになった言葉が、じりじりと胸の底を焦がしている。
 先輩の内面に踏み込んだ時でさえ、こんなに怖くなかったのに。
 ここまでくると、わたしは先輩を見てるのか、わたしの心の内を見てるのか、分からなくなる。
「――侑」
 不意に、ぐい、と肩を引っ張られた。
 は、と視界が開ける。眼前には、子供たちが仮装をして列をなしていた。
「あ、わ、すいません」
「いやこっちこそごめんね。危なかったから」
 変に謝り合うわたしたちの横を、引率の大人の先導に従って子供たちがぞろぞろ連れ立っていく。
 その様子を目で追っていた先輩が、ふと笑みを零した。
「懐かしいなぁ。町内会のだよね、あれ。侑もやった?」
「はい」
 町内会でのハロウィン行事は、会に入ってる子供たちが家々を回っていって大人たちに「トリック・オア・トリート」と言ってお菓子をもらうイベントだった。子供は当然即物的なお菓子に喜んでたけど、町の人も、特にお年寄りの人からの喜びの声も根強いらしい。きっとあとでウチにも来るんだと思う。
「私はカボチャの被り物してたな。あれジャックオーランタンって言うんだって。侑はなんだった?」
「わたしは……魔法使いでしたかね」
 確か当時流行ってた児童文学小説の影響だったと思う。嬉々として杖を振ってた気がする。
「いいなー。かわいいだろうなー。見たいなー」
「期待されるようなものじゃないと思いますけど」
「えー、どんな侑だってかわいいよ」
 そう言って笑う先輩の顔は、わたしには、眩しくて。
 ……本当に? 好きって言っても、先輩はそう言ってくれるの?
 零れそうになるわがままを、まだだと必死に呑み込んだ。
 早送りみたいに流れる景色。曖昧な会話。
 気付けばもう、いつもの別れ道で。
「じゃあね、侑。また明日」
 いつものように、先輩は笑って手を振った。
「……はい、また、明日」
 わたしが応えると、前を向いた先輩はもうわたしを振り返らない。
 熱を分けてもらえなかった手が、虚しく空を切る。
「……訊かれなかったな。結局」
 ぽつり。言葉が零れる唇は、ずっと渇いてて。
 ……お菓子を入れてこなかったポケットの中が、やけに冷たかった。
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やが君ワンライ㉓
初公開日: 2021年10月31日
最終更新日: 2021年10月31日
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