第三回、松/萩ワンドロワンライ次のお題、
お題:中秋の名月
日にち:10月9日 (21:00~22:00)
現在時刻は10月10日の午前9時11分です。
いや遅刻ってレベルじゃないですが まあ せっかくなので
中秋の名月
お月見ですね
松田がWPSで警察学校の屋上に寝転がってるの好きなんですが ああいうイメージかな
高いところが好きだってことらしいですが
月って身近だけど手が届かなくて でもめちゃくちゃ頑張れば手が届く(人類は月に行っているので)っていうイメージですが。
松田にとっての月 とは
月が満ちている。
一般的な感覚は知らないが、松田自身は空を見上げる機会が多い。教師の目を盗んで所かまわず寝転ぶせいだが、ごろんと身体を横たえればまず目に入るのは空の色だ。昼休みの澄んだ青空、放課後のオレンジ色。吹く風もすっかり涼やかになった今日日、旧校舎の屋上は気持ち良く眠れる格好のスポットだった。
固いコンクリートに身体を預け、真ん丸に太った月を見上げていると、逆に見下ろされているような不思議な気持ちになる。毎日そこにあり、誰でも知っている身近なものなのに、実は遠いところにいて、はるか高くから地上を見下ろしている……そんな存在だ。
手を伸ばしてみる。黄色く輝く月明りを手のひらで遮り、その影の頼りなさに舌打ちする。
『馬鹿みたいなこと言ってんじゃねえ』
昨晩、父から投げつけられた言葉が頭の中に反響する。進路希望調査票。松田は進学するつもりで希望先を書いて、父に『お前勉強なんかして、将来なんになるつもりなんだ?』と何気なく聞かれ、考えていることを正直に言った。
それはもう、現役選手も真っ青な渾身の右ストレートが飛んできた。
「……くそ」
拳を握る。反射的に殴り返し、さらに殴られ、翌朝ひどい顔で登校した松田に、クラスメイトも教師も深くは詮索して来なかった。唯一、親友の萩原だけは『うわなにその顔』と初見で驚き、事情を聞いて『似たもの親子だな~』と呑気に笑っていたが、それきりだ。
父とはあれから一言も会話していない。家に帰ってまた殴り合いになるくらいなら、しばらく学校で寝泊まりするのも一興だ。一人息子に家出されて少しくらい焦ればいい。互いに頭を冷やす期間は必要だろう。
「最初に『月に行く』なんて決めた奴は酔狂だと言われたろうよ」
それでも人類は月に行った。それに比べれば松田の野望なんて、なんてことない現実的な話に思える。握った拳を再び開き、月に向かって手を伸ばす。今はつかめない。だが、いつか、必ず。
不意に、その手に暗い影が重なった。
「何してんだ? 松田」
「……萩」
手のひらが重なる。松田よりも長い指が、松田の手の甲をそっと握った。考え事に没頭しすぎたのだろうか。上から見下ろしてくる萩原に、手を握られるまで気づかなかった。掴まれた手を反射で握り返すと血の通った温度が伝わる。さらりとした皮膚の感触、わずかに触れた爪の固さ。無意識に指の力を強めた松田に、萩原はおかしそうに笑った。
「なんだなんだ、力比べか?」
「いや……こんな時間にどうした? お前」
「陣平ちゃんの親父さんからウチに連絡あったんだよ。ケンカしたって聞いてたからさぁ、どうせ寝床スポットのどっかにいるだろうと思って。猫みてぇだよなお前」
「うるせえ」
今度は明確に、嫌がらせのつもりで握力を強めた。痛い痛い、と笑う萩原を、離す気になれず捕まえる。もう片方の手で肩に腕を回し、体重をかけ、抱きかかえるようにして萩原を隣に転がした。
「松田!?」
「静かにしろよ。ちょうど寝袋くらい持ってくりゃ良かったと思ってたとこだ」
「えー、もしかして湯たんぽ? 俺まで消えたらあとで姉ちゃんにぶん殴られそう」
「月見に出たとでも言っとけ」
「おー、なるほど? そういや月見の日だってニュースで言ってたな」
それ採用、と軽々しく頷き、萩原はケータイを取り出した。軽やかな指さばきでメールを打ち、誰かに送信する。親か姉か、いずれにせよ今晩は松田と一緒にいてくれるのだろう。
果てしない妄想を追いかけるような、空虚な気持ちが霧散する。腕の中の温度が、楽し気に笑う声が、確かな現実感とともに松田の心を満たしていく。
月に手は届かない。だが、いつかは、きっと。
「団子買ってくりゃ良かったなあ」
「あとでコンビニ行くか」
「陣平ちゃん金持ってんの?」
「……二百円くらい?」
だったら団子は買えるな、と。声を弾ませた萩原の手を、金輪際、夜が明けても離さないようしっかりと握りしめた。