(自分のための誕生日会だなんて……言われた時はそんなの必要ないって思ったっすけど……終わってみると、楽しかったっすね〜)
なんとなく離れ難くて、会場の撤収の手伝いまでしてしまった。
今日は主役なんだから、そんなことしなくてもいいと言われたけど、会場に漂う幸せな名残のようなものを残さず、お腹に入れたかったのだ。
(……僕が作ったものを喜んでくれる人が集まってくれて、おめでとうって口々にお祝いして貰えたっす。
ケータリングまだ用意して貰えて、お腹いっぱいなんすけど……それだけじゃなくって……)
満たされてる。
胃袋だけじゃなくて、心まで。
たぶんいまどこを切っても「幸せ」って実感が詰まっていて、慣れないことをしたから疲れているはずなのに、そのだるさまで愛おしかった。
誰もいない会場は、さっきまでは多くの人で狭く感じたのに、いまはがらんとして見えた。
(……本当、幸せな日だったっすね)
たくさんのプレゼントが詰まった紙袋を両手に持って、まだあたたかな記憶と料理の香りの名残が残る会場の電気を消した。
入り口のドアの鍵を明日返すように言われている鍵で閉め、帰路につこうと振り向いた時だった。
「ひぃいっ!?」
「……あれ、マヨちゃん。
まだ残ってたんすか?」
さっき会場でも見かけて、お祝いの言葉をくれたはずの人。
「忘れものして取りに帰ったって訳じゃないっすよね。
そこにずっと立って待ってたって感じだし……」
待ち伏せしたのはマヨイのはずなのに、いざ見つかると驚くのもマヨイの方だった。
未だ言葉を探して、どこか焦りが見えるマヨイにニキは再度問いかけた。
「僕に何か用っすか?
……用があるなら、もっと早く声かけてくれてもよかったっすよ?
さっきからずっと一人だったし……」
「……よ、用という訳では……!
あの……っ!
あぁ…っ!やはり私には無理ですぅ。
見なかったことにしていただけますかぁ!?」
「……なんなんっすか?
急に……」
意を決したかと思えば、青ざめたりして、いまは逃げ出そうとしている。
不思議に思いつつも、さっきからマヨイの目が何度も自分の手元を見ていることに気がついた。
マヨイの手元にも紙袋が握られていることにも。
「……もしかして、マヨちゃん。
僕にプレゼント用意してくれたっすか?」
あのマヨイがわざわざ、自発的に自分へのプレゼントを用意してくれたという事実に、顔がにやけるのが止まらない。
そんな顔してることがマヨイにバレたら、今度こそ逃げられるに決まってるから、緩みそうな口角を無理やり落ち着かせる。
「……い、いえっ!これは……その……っ!!」
「僕へのプレゼントじゃないって……ことっすか?」
わざと悲しげにそう聞くと、マヨイは慌てて訂正をした。
「椎名さんへのプレゼントですよぉ!
す、すみませぇん……あの……私なんかが選んだものなので……その……お渡しするのも……どうかと思い……」
また段々と言葉尻が弱くなり、最後には俯いてしまった。
その顔を伺い見るように、下から無理やり視線を合わせると、同じようにできる限り可愛らしく聞いてみる。
マヨイが可愛いものに弱いなんてこと、とうにバレている。
「……それでも、渡したくて待っててくれたっすよね?
それ、くれないんすか?
僕、欲しいっすよぉ?」
「うぅ……で、でも、もうたくさん……お持ちじゃないですかぁ」
かわいさで訴えるのは割と効果があったようで、わかりやすくたじろいているマヨイに向かってニキはにっこりと微笑んだ。
「……マヨちゃん、別腹って言葉が知ってるっすか?
どんなにお腹いっぱいでも、大好きなものだけは入っちゃうんすよね〜」
じっと見つめるとマヨイはさっと視線を逸らした。
そんなに自信がないなら、待たなければよかったのに。
それか初めから用意しなければよかったのだ。
それでも、待ってしまうマヨイの不器用さや、自分を思い選んでくれる善性が、どうしようもなく。
「……マヨちゃんのその袋、欲しい」
大好き だ。
もうここまでくれば奪ってしまってもいいのかもしれないけれど、手渡されることに意味がある。
未だ最後の一歩が踏み出せないマヨイに、可愛いだけじゃいけないよなぁと悪い笑みを浮かべてしまった。
「マヨちゃん、出し惜しみしたほうがハードル上がっちゃうっすよぉ?」
「……は、はいっ!!」
咄嗟に手渡されたものを手早く受け取る。
マヨイが今更しまったという表情を浮かべても遅いのだ。
「……あのっ!本当に!大したものは入っていませんので!
要らなければ、返品も受け付けますしぃ……期待しないでくださぁあい」
「……返さないっすよ♪」
上機嫌なニキをマヨイはどこか恨みがましい目で見ていたが、ようやく渡せてほっともしていた。
用意した日からずっとどうやって渡そうか、気が気ではなかったからだ。
同じユニットでもない相手に自分からプレゼントを用意するなんて、ニキ相手でなければ考えもしなかった。
渡したら渡したで、あれでよかったのか悩みは尽きないのだが、それでも自分の包みを見て、目を細めて喜んでいるニキを見ていると渡せないよりずっといい。
「マヨちゃん」
「……なんでしょうか?」
「やっぱり好きなものは我慢しないに限るっすね」
ニキに満面の意味で向けられた言葉の意味がマヨイにはいまいちピンとこなかったが言い忘れていた言葉を思いだした。
「椎名さん、お誕生日おめでとうございます」