今日は流星群が観れるらしい。
 頭上にあるこんなにたくさんの星が流れ、落ちるなら。
 一つくらい願いを叶えてくれる星もあるに違いない。
「……椎名さん」
 名前を呼ばれて目を開けると、ニキの目の前には自分を覗き込むマヨイの姿があった。
 後ろには星空を背負っている。
 紫色の髪がニキの方に流れ、落ちる。
 いつのまにか耳から外れていたイヤホンからは、直前まで聴いていた今日のセットリストが流れていた。
「……遅くなってしまいましたね。
 お疲れでしたか?」
「そういうわけじゃないと思うんすけど……」
 待っている間に目を閉じていたら、寝落ちしていたのだから信憑性に欠ける言葉だ。
 ニキは照れ笑いを浮かべるとマヨイに並んだ。
「もしかして、お腹が空いて電池切れてました?」
「……そうかも」
 さっきまでのライブの興奮で頭はまだ浮かれていたが、改めて聞かれるとそうなのかもしれなかった。
 マヨイは自分の鞄の中から、携帯食のビスケットを取り出すとニキに渡した。
「そういうこともあろうかと」
「……ありがとう。
 恩にきるっす!」
 並んで歩いて、建物か、出ると夜の風の匂いがした。
 マヨイの方から吹く風は、ライブの名残を残す汗の匂いとマヨイ自身の匂いが混ざる。
 流星群が降る時間まではまだ少し余裕があって、一緒に見ようとかわした約束は無事に果たせそうだ。
 どこかから若草の香る、春の匂いもした。
「……他の人たちは?」
「スタッフさんは打ち上げに行かれたみたいですよ」
「うちも燐音くんは行ってるはずっす」
 未成年を拘束するには遅く、そして子供として眠るには早い僕たちの時間。
 漠然とした輝かしい未来を夢見ることができない程度には大人で。
 決められた将来を受け入れることができない程度には子供だった。
 この興奮のまま寮に帰るには味気ないと思い、外泊許可をとってニキの家に向かう途中。
 二人だけの打ち上げだと、口に出さなくても、それが共通の認識だった。
 マヨイにもらったビスケットを噛むと全粒粉のざりっとした感触が口の中に広がる。
「マヨちゃんお腹減ってるっすか?
 うちついたら、何かつくる?」
「……いまはまだ食べ物のことは考えられませんが……きっと椎名さんのご飯なら食べられるかと」
「さっきまであんなに動いてたから、ちゃんと食べなきゃダメっすよ」
 口の中で食べ物を咀嚼しながらニキはもごもごとそう言った。
 それを見てマヨイはくすくすと笑った。
「さっきまで、あんなにかっこよかったのに……同じ人と思えませんね」
「マヨちゃんこそ」
 身体の奧まで響く音。
 リズムに合わせて動き、踊る。
 照らされる照明はそれに彩りを加えて。
 歓声に包まれ、喉を震わせ歌を紡いだ。
 興奮と興奮が合わさって、自分たちを見て喜ぶ観客を見た時、ここにいてよかったと思った。
 アンコールでお互いのユニットが一緒に並んで歌った時、目と目が合って、通じ合えたと思えた瞬間、ここで並べてよかったと思った。
 ここにいるべき存在ではないと自分が一番わかっているし、本来の居場所に帰るべきと頭でわかっていても、ココにいなければ見れなかった景色、存在、時間。
 それを繰り返すうちに、離れるのが惜しくなってしまった。
「……次、一緒にやれるのっていつなんすかねぇ。
 最近、別々の仕事ばっかりっす!
 せめて事務所が一緒ならもう少し機会もあった気がするのに……」
「そうですねぇ。
 あまり大きな催しなると今度は接点もなくなってしまいますし、お互いだけというのはなかなか難しいのかも」
「っすよね〜」
 もっと。
 もっと見たい。
 もっと聞きたい。
 もっと一緒に歌いたい。
 そんな欲求が心の中にあったけれど、口に出したらもっと単純な欲求になりそうで言葉にできなかった。
 隣に。
「……あっ、マヨちゃん。
 あそこ」
 先を歩いていたニキがマヨイの方を振り返ると頭上で一筋、星が落ちた。
 マヨイが振り返ると、また一つ星が落ちていく。
「願いごと!
 考えてなかったっす!!えっと……ッ、また合同ライブができますように!」
 胸の前で手を組んで、急いでそう願った。
 マヨイはニキを見て、そして少し考え込んだ。
 星が一つ、また一つと軌跡を残して落ちていく。
「……アイドルを続ける椎名さんをたくさん見れますように」
「それ僕もみたいんすけど!?
 マヨちゃんの歌もダンスも好きなんすよ!!
 だから、マヨちゃんをこれからも見れますように!!ずっと!!」
 願うよりも先に流れおちる星たち。
 墨を流し込んだような深く暗い空に、キラキラと流れる星は幻想的で綺麗だった。
 マヨイはニキを正面から見ると、照れたように笑った。
「ずっと隣にいれますように」
「……それって」
 心臓が跳ねた。
 続きを口にしたら、何かが壊れてしまうような気がして言葉にできなくなっているニキに、マヨイは困ったように言った。
「椎名さん流に言えば、毎朝僕のつくる味噌汁を飲んで欲しいというのでしょうか」
「あぁー!!それ言うなら僕からって思ってたのに!!」
 不確かな約束を交わして。
 星に願いを。
 一つくらいは叶えてくれてもいいと思うし、自分たちで叶えられる願いもあるはずだ。
「では……いつか、別の言葉で。
 ……確実に叶えられると思った時に」
 消えそうな声でそういうマヨイに、ニキは何度も頷いた。
 いまも流れ続ける流星群が祝福として、他に落ちていくようだった。
 少なくともいまこの瞬間くらいは、そう思っても許されるはず。
「……あーっ、マヨちゃん。
 えっと、何食べたいっすか?」
 何も出てこないのに、何か話さなきゃと思ったあげく、出た言葉がそれだった。
「……椎名さんがつくるものなら、なんでも」
 マヨイはそういうと少しだけニキの方に手を伸ばしたので、ニキはそれに指を絡めた。
「……はぁ。
 僕の方が胸がいっぱいかも」
 
 
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ニキマヨ「プロポーズ」
初公開日: 2022年04月09日
最終更新日: 2022年04月09日
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ワンドロ書くよ