隣で眠る人よりも先に起きた時間が好きだ。
 朝に強くてよかったと思うし、彼が朝に弱くて少しだけよかったと思う。
 柔らかな毛布に包まれて、やすらかな表情を浮かべている彼を見て、自然に表情がほころぶ。
 普段困り眉を見ることが多いから尚更。
 ゆるむ眉間の真ん中を人差し指で軽く押した。
 朝のまだ寒い冬の部屋。
 この大きな毛布の中には、二人の体温が溶けて快適だった。
 柔らかな手触りも、同じものに包まれている安心も。
 寒いからと同じ布団の中に入ってくるのだからと、大きな毛布を買ったのはこの冬の始まりのころだった。
 寝顔をみるハードルがまた一つ下がったことは嬉しい誤算だった。
(……もう少し寝かせててあげたいっすけど)
 白いシーツの上に長い髪が散らばる。
 これを結って整えて、だんだん他の人が知る彼になっていく。
 いつものきちんとした姿が好きなのに、少し物寂しくなるのはなんでだろう。
(……マヨちゃんの目、みたいな)
 マヨイの綺麗な目が好きだった。
 それを正面から受け止めるということも。
 こうやって気を許してくれている事実がたまらなく嬉しいのに、同じくらい一緒に笑い合える時間を望んでしまう。
 指先で前髪を払って、形のよい額を撫でて、瞼を軽く持ち上げたあたりで、なんとなく面白くなって少し笑った。
(また怒られるっすかねぇ)
 いつもの反応を思い出す。
 驚いた顔もふくれた顔もかわいいと思ってしまうから、つい。
 悪戯な指先が好きにしてしまうのだ。
「マヨちゃん……そろそろ起きないと……」
「……ん…っ」
 問いかけても起きないことは想定済みで、次の言葉を続ける。
「起きないと……こうっすよ?」
 お揃いのスエットのすそをまくって、外に出て冷えていた指先をあたたかな背中にぴたりとつけた。
「……ッ!ひぃッ!?
 し、椎名さんッ!それはやめて欲しいと……」
「呼んでも起きないマヨちゃんが悪いんすよ」
 文字通り飛び起きてベッドの上で正座して抗議する。
 自分もそれにならう。
 祝福のベールのように、冷たい外気から守るためにお互いを毛布で包んだ。
「……もうしませんか?」
「どうっすかねぇ。
 マヨちゃんがかわいい反応しないなら」
 唇を突き出してキスをねだる。
「……ずるい」
 柔らかな唇が触れ合って、舌と舌が絡まる。
 二人だけの。
 やぶることを許される約束は、キスで交わす習慣ができた。
 「指なくなっちゃうなんて嫌っすよ」と言ってから、指切りの代わりに。
 曖昧な約束を何度も交わして、何度も破って、そのたびにもうしないと約束をする。
 予定調和なお約束をきちんと明らかにしたら終わってしまう気がするから、これより先は言葉にしない。
 
 わざとちゅっと音をたてて唇を離すと、彼はあいかわらず怒った顔をしているつもりらしい。
 しかし、開いた青い瞳が、自分をみて喜びに満ちるので、そうではないことは明白だ。
「……椎名さんのそういう顔……本当、ずるい」
 マヨイはそういうと顔を赤らめて、目を細めて笑った。
「……もうしないでくださいね」
 照れた顔でもう一度キスをねだる。
(……本当、ずるいんだよなぁ。
 マヨちゃんも)
「……約束っす」
 今日の始まりには、この毛布から出なくては。
 でも、いまは。
 時間が許す限り、この中で。
 
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