淡い昼の日差し、小春日和。江ノ島の海沿いをゆっくりと、何かを踏みしめてるかのごとく足取りで、純太の背を見ながら歩いていた。遊びに来た、散策。海の近くを歩きたいと言う純太に付いて、もちろん異論はなく、ただ付いてきた。同じ景色を眺めるのも良いものだから、いつまでもこの時間で止まった中を歩きたいとさえ思った。
低い堤防から下を眺めると思ったよりも底に砂地があって、そのまま海に続いている。溢れてしまわないかと最初思った。十分な高さがあって心配するほどではなかった。
純太は時々振り返って何か話している。俺は不思議なほどふわふわしていて、それは緊張からだが、うまく話が頭に入らない。楽しそうなのは表情でわかるから、俺も頷いて返す。心が洗われるんだと言った。
以前に、海を眺めているのは何か理由があるのかと聞いた時、話を少し引っ張りながら結論、心が洗われるんだ、と言った。
そういうものなのかと思ってそのままだったが、純太のことだ。実際には、海から何かを感じ取っているんだろうと、不確かな確信があった。純太はそういうところがある。俺の気付かない、違ったフレームから覗いてる、世界を。
そんな彼に惹かれて自分はここまでずっと付いてきた。しれば知るほど面白い男だと思ったし、端から見ても俺が友人以上に慕っていることは明白だっただろう。
今日は話せれば、俺の確かなことを伝えるつもりだった。卒業が近い。節目のタイミングに勇気をもらいたかった。焦りも少し。進学してから新しく誰かと出会ってしまうよりも先にと、少し思ってしまった。
確かなことなんて本当にはない。ただ俺が今、純太を好きでいるというだけで、返ってくるものが何なのかはわからない。だが、願望をそのままにしておくのは良いとは思えなく、確かめたかった。
海を見る理由すら、本当にはわからないのに、そんな人間からの応えを求めるなんて馬鹿みたいだ。
砂浜におりて、靴に砂が入るのを互いに理不尽だと怒るフリしながら歩いた。機会をうかがうことに気を取られて、歩みが遅れる俺は度々駆けて追いつき、ついにマフラーの端を、次にウインドブレーカーの袖を握った。
波の音が近くで聞こえる。寒さで固い波打ち際周辺の砂を踏み砕き、隣で顔を上げた。髪の先が風にあおられてこちらの頬をくすぐった。今しかない。
だからすぐに、もう言ってから後悔すればいいと己を殴って、好きだと一言、叫んだ。
あとは驚いてる顔だ。二、三歩先に進んでいた純太が立ち止まってしばらく。やっと振り返った顔は驚きを貼り付けたままだった。
失敗だったかと急に冷や水を浴びた気分になった。膝の力が抜けそうに、ショックを受けていた。
ずっと考えていた。驚かせただけでなく、過去の自分たちのことまで全て否定しやしないかと。そんな奴じゃないと分かっていても、俺の言葉ひとつで変わってしまうかもしれない恐怖はどこかにあった。それでも確かめたかった。隠しているのは裏切ってるのと同じだと思えたからだ。
だからすぐに、叫んだ。伝えるほうが、絶対に良いんだと信じた。
後悔なんて、するものか。
大きく見開いた目でじっと俺の表情を読み取ろうとして、純太が近付いてくるその間に、この寒さなのに、こんなに風が強いのに頬が、口元がほどけてゆるむのを、俺は確かに見た。
多分お互いに、安堵を得たんだと思う。確かなこたえを見た。