超能力。この単語を耳にして思い浮かぶ現象は幾つもあるけれど、一番最初に思い浮かぶのは薄い緑色の光。次いでテレビで流れているようなテレパシーや千里眼、超聴力といった五感の延長線上にあるものも想像してみる。一般的には珍しい事、凄い事だとされるそれらもサブスタンスと日常を共にしていると「それ程のことだろうか?」なんて考えてしまう。一体いつからこういった価値観が変化してしまったのだろうかと考えてみても俺は記憶のある人生の中でサブスタンスがいないことはなかった。だから、世間的に普通といった形容詞は俺には不釣りあいだったよなぁ、なんて過ぎた事へ思いを巡らせる。
「……あ」
 突然、暗い室内をぼんやりと照らしていたテレビの電源が落とされると同時、淡い光が俺の手元で生まれてリモコンは宙に浮かんでいく。それを視線で追っていくと、辿り着いたのはキースのベッドだった。パッと力を無くしたように光が切れたが、キースの瞳が眠たげな色を含ませてじっと俺を見ている。
「ディノ。お前またテレビショッピングでも見てるな?」
「ちっ、違う違う! 今日はまだ違うぞキース!」
「……まだ?」
「あっ、」
 慌てて素直に答えてしまっては向けられる視線がジトリと細められた。
 バラエティだったりニュースだったり日によって違ったものが放送されている深夜のテレビショッピングの三十分。今日は前者で超能力といったものを特集していた。戦闘中だけでなく常日頃から光に包まれては物が動いているのを目にしているからサイコキネシスといった分類は特に驚きもなくみていたが、それとテレパシー以外のものは案外面白いと思いながら見ていた。それも途中までだったけど。
 数時間前に眠りについても、この時間になるとやけに早い音を心臓が立てた状態で目を覚ます。どんな夢を見ていたかは忘れてしまっているが、あまり良いものじゃないことだけは分かる。そんな夢から逃げたくて、けれど静かな夜はもっと嫌でテレビをつける。元々好きだった通販を衝動のままにしては楽しみだと胸を膨らませてようやく眠りにつく。そんなルーティーンをしっかりとは話していないが多分キースも気が付いていて。キースの瞳が呆れや心配、そしてもどかしさの色を俺に向けているのが暗闇の中でもよく分かって思わず苦笑した。
「お前今日もよく分からないもの届いてたじゃねぇか。いい加減にしろ」
「よく分からない物じゃないぞキース。あれはちゃんとした使い道があってだな」
「この時間から熱弁は勘弁してくれ~」
 大きな欠伸をしながら俺の言葉を遮ったキースは体をベッドへと戻らせる。その手元には俺のテレビのリモコンもあって、あと少しで始まる番組が見れなくなってしまいそうだ。立ち上がって音を立てないようにキースのベッドの端に寄る。目を瞑っているけれどまだ眠っていないようで、瞼がピクリと動いたのを見逃さない。
「なぁキース」
「ダメだっつーの」
「まだ何も言ってないんだけど」
「大抵想像つく」
「ええ~」
 要望は声にする前に却下されて肩を落とす。今日はいったいどんなものが紹介されるのだろう、とワクワクしていた気持ちは一気に萎んでいくが、別のしたいことが顔を覗かせてくる。
「キース」
「……ん」
 今度は名前を呼んだだけで短く了承を得るように片腕が上げられて一人分のスペースがキースのベッドの上にできた。まだ何も言ってないんだけどなぁ、心の中で呟いてはなんだか照れ臭くなって不器用な笑みを浮かべると「お邪魔します」と口にしてからそのスペースに収まった。無音の空間でいることが苦手なだけで、何か、別の音を耳にしていれば落ち着くことが出来る。それが一人の時はテレビに落ち着くことが多いけれど、キースが承諾してくれるならその心音でも十分眠りにつけれる。
 言葉にしていなくても俺の考えてることが分かるなんて、キースはテレパシーも使えるのかもしれない。そう考えるとなんだか面白くて口元を緩ませていると「何バカなこと考えてんだよ」なんて言ってくるものだから、耐え切れずに小さく笑った。
カット
Latest / 63:58
カットモードOFF
文字サイズ
向き
チャットコメント通知
20211002キスディノドロライ
初公開日: 2021年10月01日
最終更新日: 2021年10月01日
ブックマーク
スキ!
コメント
第29回 「庇う/超能力」