「地球がおわるときって、どんな光になるんだろうね」
「……は?」
 いきなり何言ってんだこいつは。郁也から発せられたその言葉はあまりにも場違いすぎて、わたしは鋭い声でそう訊き返した。
 真っ暗な夜。人気のない公園のベンチ、街灯の下。秋になりかけた温度は少し涼しく、そして彼のことをベンチに座って待ち続けたわたしにとって、拷問のような苦しい冷たさだった。そんななか現れた郁也は、1時間以上も待たせたのに待った~? と朗らかに現れたのだ。そしてしまいにはこんな発言をしたのである。
 郁也と付き合い始めてはや1年になるのだろうか。それでもうこんなにも飽き飽きしているのだから本当に悲しい。こんなことになるのなら、誕生日にあげたマフラーも、一緒に行った遊園地の時間も、全部全部返してほしい。……まぁ、そんなことは言わないでいてあげるから、わたしから切り出された別れ話を受託してさっさと赤の他人に戻ってほしい。早くわたしの前から消えてくれ。
 それが? なに? 『地球がおわるとき』??? はぁ????? わたしは、すぐにでも沸点に到達しようとする自分の怒りを一生懸命なだめた。けれど、わからない。なぜ別れ話を切り出されて、世界の終末の話になるのだろうか。ポエマーか何かなのだろうか。やっぱり理解不能だ。
 そう思っていると、郁也はだからぁ、と言って、わたしの前でくるくると回って見せた。22歳だというのに、どこまでも子供っぽい仕草だ。
「地球がこわれるときだよ。チュウセイシバクハツ? だっけ? 爆発して圧縮してブラックホールになんの。光も吸い込まれちゃうっていうんだからどんな色になるのかなって」
「……光も吸い込まれるんだったら、色なんてないんじゃないの」
「とうめい、ってこと?」
 適当に相槌するんじゃなかった、と返ってきた言葉を聞いて後悔する。郁也は別れ話を切り出されたのにも関わらず、悲しい顔つきも、怒った顔つきもしていない。ただただいつも通りの郁也だった。それがなんだか腹立たしくて、同時になぜか好きになった頃を思い出してしまった。
 わたしは昔こんな子供っぽい郁也が可愛くて仕方なかったのだ。変なことばかり言って、けれどなぜか納得させられてしまうポエミーでドリーマーなところ。他人からはなんでそんなところが好きなの? と言われるのが怖くて、なんとなく訊かれてもはぐらかしていた自分。というかイマイチ、郁也との関係を周りの友人に伝えていなかった。そんなところがカッコ悪いと思っていたのだろう。今更、わたしは強烈に自覚した。わたしは、郁也の彼女であることに恥ずかしさがあったのだ。
「おれは何色?」
「え?」
 郁也は、ウルフカットにした自分の後ろ髪をちりちりと指でもてあそんでいる。わたしから目をそらして、再度問い直す。
「……おれたちの別れも、とうめい?」
 透明。そんなんじゃない。けれど、だったら何色なのかが分からず、なぜか無性に悲しくなる。
 別れようとしたきっかけ。一か月前、彼を見かけたのだ。混雑した駅で。知らない女の子に手を振られる郁也を。
 わたしは、反対のホームにいた。屋内のホームは混雑時のアナウンスや人の声、雑踏の音を反響し、彼らの声までは聞かせてくれなかった。けれど、どうやら別れ際だったらしい。じゃあね、ばいばい。そう言いあっているように見えた二人だったけれど、郁也が女の子の腕を優しくつかんだ。そして、そのまま唇を二人で重ね合った。大衆の面前でなにをやっているんだ、とか。浮気だ、とか。そんな言葉も頭の中で膨れ上がったけれど、なによりショックだったのはその流れる様な動作と空気感だった。
 自然な流れだったのだ、美しいと思うくらいに。わたしの好きな子供っぽい郁也はどこにもいなかった。洗練された大人の導き方だった。あんなキス、わたしはされたことがない。わたしは無意識のうちに自分の唇をつまんでいた。それは今日のベンチみたいに、冷え切っていたのを覚えている。
 わたしは、嫉妬でも怒りでもなく、ただただ自分の勝手な理由で別れようとしているのだった。あの女は誰、と問いただせばいい。裏切者、と頬を張ってやればいい。そう思っても、記憶の中の二人の空気感に圧倒されてただただ涙を流すのだ。わたしは、郁也に好かれていないのだと。そう自覚して。
 郁也は黙りこくったまま泣くわたしを見て、困ったように頭をかいた。それから、業務的なことを言うように口を開く。
「じゃあ、別れよう。なにか、傷つけたみたいだし」
 わたしは持てる限りの気力と意地で一つ頷いた。それから送ろうか、という言葉に首を横に振る。
郁也は心配そうにしばらく立っていたが、やがてその場から離れることを決心したらしい。
「楽しかったよ、ありがとう」
 その言葉と同時に彼が離れていく足音が聞こえる。わたしは彼の背中を追うことが出来ない。やがてすべての音が消えて、あたりには夜の静けさが戻ってくる。わたしはのろのろとそばにある街灯を見上げる。この苦しさはしばらく続くのだろう。それこそ、最初に待っていた時間の比にもならないほどに、拷問を受け続けるように、苦しむのだろう。
 街灯は、どこか暗い光を放っている。
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あかいこんくり
スマホなら下、PCなら右(かな?)チャットできるよ
01:06
あかいこんくり
スマホなら下、PCなら右(かな?)チャットできるよ
04:57
あかいこんくり
彼氏の名前なににしよう
28:05
あかいこんくり
うーん なやむ
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くらいひかりをはなつ
初公開日: 2021年09月24日
最終更新日: 2021年09月24日
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コメント
「終末」「拷問」「別れ」がお題で短編を書きます。
0時回っちゃったから1時までにはなんとかしたい。。。
冷たい孤独と暖かい車
あけましておめでとうございますワードパレットから「寂しい」「鼻歌」「遠雷」で書く
あかいこんくり
三メートルのリードの中で
Twitterでフォロワーさんから募集したワードパレットのお題で書いていきます。今回は「口げんか」「…
あかいこんくり
ストーリーブック
鬼滅の刃見てたから遅れたぜ今日もやっていくね~ 「6月」「読書」「背徳感」がテーマ
あかいこんくり
文也くんInツイステ
題名の通りですハイ
アオイ