途中まで一緒に帰りましょう、と言われて、断らず帰るようになったのはいつからだろうか。
門番の当番を終えた帰り道。いつものように錠前と歩く帰り道に、夕闇が迫る。
「ホント、日が暮れるの早くなりましたねぇ」
「そうだね」
特性の所為か、彼はめっぽう天気や気温に敏感だ。だとしても、そんなこといつもなら言わない。それにいつも不自然なほどに見つめてくるのに、今日は私を見ないようにしている。向こうを向いた口から吐く息が、小さな煙となってふわり、と浮かぶ。
なんだからしくない言動に、らしくないな、とそのまま思っていると、彼は少しもごついた口調で切り出してくる。
「に、庭井さんは……、クリスマスとか予定あります……?」
「ない」
「そっすか……」
しばらく沈黙が流れるが、意を決したように錠前が大きな声をあげて前に立ちふさがった。そのまなざしは少し子供じみていて。それがあまりにもまっすぐすぎてなんだか滑稽だったけれど、笑うことはしない。人の本気は笑ってはいけない、と思うから。
「あの! 次のクリスマス!! 一緒にいませんか!!?」
「……構わないけれど」
他に予定がないか、少し逡巡した後そう答えると、錠前はすぐさまやったー! と声をあげて喜んだ。
少しうるさいぞ。そう思ったけれど、私は、はて、と疑問に思ったことを呟く。
「クリスマスって」
「なんです、庭井さん!?」
「……、クリスマスって基本的に何をするんだ?」
そう言うとそりゃあ、と錠前が手袋をはめた指で、数え始める。
「色々ありますよ! イルミネーション見に行ってもいいし、おいしい食べ物食べなきゃですし、ツリーやリース飾ったり……、それから……、パーティ! プレゼント交換!!」
プレゼント。その最後に出てきた案に私は少し迷った。何するか迷っちゃうな~、なんて言いながら浮かれる錠前を尻目に考え込む。プレゼント、贈り物。そういえば、クリスマスってプレゼントをもらう日だった。学生時代、友人とそれなりにクリスマスを過ごしたことはあるけれど、プレゼントを贈り合うまでのことはしなかった。すごく浅いわけでもないけれど、すごく深い付き合いでもなかったからかもしれない。しかも交換、だ。そうなれば自分も用意しなきゃいけないのか。
私は目の前の彼を見た。彼に贈り物をするとしたら。うーん、考えつかない。
「庭井さんは、なにしたい、とかあります?」
ふと彼がそう訊く。違う事柄に迷っていた私は、返答できずに少しの間錠前を見つめる。
その時、彼の背後に立っていた街灯に光が灯った。暗がりだったこの場所が途端に明るくなる。
「うお、びっくりした」
急に点いた電灯に驚いた彼は、その方向に目をやった。
「あ………」
ほの白い。彼の顔の表面に光の膜が張っている。私はそれを見つけた。
厳密に言うと、彼の乾燥し、ところどころめくりあがった皮膚に光が通っているのだ。それがまるで、ほの白く光る膜のように薄い膜のように彼の横顔を覆っている。街灯の光によって見つけたその光景はなんだか不思議で、そして彼らしい、とさえ思った。その肌の特性を気にして、さらに疎ましく思っている彼には口が裂けても言えないが。私から見てそれは綺麗で、なぜかすごく愛しかった。だからなのかもしれない。
「……、る」
「え?」
「いや、なんでもない」
口走ってしまったものをいったんしまい込み、そうごまかす。いつの間にか立ち止まっていた足を小走りに動かすと、彼もなんですか~? と言いながら私の顔を覗き込むようにしてついてくる。そのまなざしは戸惑いながらもいつもの通り、優しい。
―――キャンドルを贈ろう。そう自然に思いついた、プレゼント。なんだかあまりにもロマンに満ち溢れたアイテムで、選択が自分らしくないかもしれないけれど。思いついてしまったから、もうこれで決定にしよう。
思い浮かべる。キャンドルの火に照らされた彼の横顔。きっとさっきよりも綺麗だ。
「なんでもない、って言ってるでしょう?」
そう軽く嘘をついて、私は少し笑った。