私より早く朝食を終えた古今は、もう食卓から離れて自分の分の食器を洗っている。
近付くと、気づいた古今が私が持っていた食器を引き受けてまとめて洗ってくれて、それに密かにときめいたりなんかしてっていやいやいや私もあんまりのんびりはしていられないのだ。古今にいつまでもときめいていたいのは山々なんだけど!
「国士、そろそろ私たちも行こう」
「ん」
呼び掛ければ国士はちょうど最後の一口をコーヒーで流し込んだところだった。
海内は国士よりはゆっくりと食べているようだけど、それでももう食べ終わりそうな感じ。
その気になるとものすごい速さできっちり全部食べ切れるのって結構すごいよなぁ
古今はそもそも余裕を持って行動するタイプであまり一気にご飯を食べている印象がないけれど、前におにぎりを食べているのを見た時は3口かそこらで食べていたりしたので彼も、その気になれば相当早いのかもしれない。
「可憐、いかねーの」
「あっわっ行く行く!」
私に話しかけながらもうカバンまで持って玄関へと向かう国士を、慌てて追った。
それから特に何事もなく、初めて歩く通学路を通って国士と共に高校まで行き、案内板の通りに教室までたどり着いて、担任となる先生の自己紹介も終わり(なんとこの先生、国士のシャツ全開のほぼ半裸状態を一言、寒くない?で済ませて終わった。かなり自由な校風なんだろうか)、入学式の会場となる体育館まで来れた。
出席順だと私と国士はそこまで離れていないけれど、流石に隣同士とまでは行かずに席は離れてしまって、ちょっと心細い。
ソワソワとして落ち着きなく会場を見渡していると、ちょうど保護者席に座ったところらしい古今と目が合って、小さく笑ってこちらに手を振ってくれる。
その、あまり見慣れないスーツ姿と優しい笑みに鼓動が早まった気がして、なんとかこちらも小さく返して、慌てて前を向いた。
古今は会社勤めで、朝は私たち学生よりも早く夜も私たちよりも遅く帰ってくるし、帰ってきたらすぐに着替えてしまうのであんまりああいう……パリッとした服というか、真面目な服装というか、とにかくああいう姿は見慣れなくて、心臓に悪い。
家の中でも、基本はゆったりとした服を着る人なので、本当にああいう服装をしているのを見るのはレアなのだ。
私だって流石に10年近い付き合いをしているのだから彼の何にもでもときめいて顔を赤くしている訳ではない。のだ。
誰に向かっての言い訳なのかよく分からないけれど、心中でぐるぐるとそんなことを考えていると、いつの間にか私の名前が呼ばれる順番が来ていたらしく、ハッとして先生の声に返事をして席を立った。
2人で学校からの帰り道を歩く。古今は、入学式の途中で急な仕事が入ったとかで一緒に帰れなくなったらしく、私と無双家のグループLINEに事情の説明と詫びの言葉が届いていた。ちょっと残念だが、まぁそこは、仕方がない。
でも残念に思ってしまう気持ちも、仕方がない。
それを考えてため息をつくと、無言で春の風を浴びていた国士が口をひらいた。
「お前またコン兄に見惚れてたな」
「見てたの」
「たまたまな、わざと見るもんでもないだろ」
「……古今がかっこいいのがいけないんだもん」
「へー……お前さぁ」
「何」
「ずっとこのままでいる気なん?」
「どういうこと?」
「ずーっとこのまま、妹みたいに可愛い年下の幼馴染、で終わらせる気?」
「そ、れは」
それは、いやだ。と叫ぶ自分と、でもこのまま以上になろうとしてなれるものなのか、と囁く臆病な自分がせめぎ合って、なんと言えばいいのか分からなくなる。
いやだよ、そんなの。もしそういう関係になれるなら、なれる、自信があるのならとっくに。
「お前のそのふわっふわした態度イラつくんだよ。儚い初恋、で終わらせたいなら、さっさと諦めたら」
「こ、こんには、もっとふさわしい美人の人とかが、似合うんじゃないかな」
「あのさぁ、そういうのを置いといて、お前自身が、どうしたいのかって聞いてんの」
「私、私……は」
それ以上、なんだか口から言葉がうまく出てきてくれなくて、国士もそれ以上は何も言わなくて、残りの帰り道は、2人無言で歩いて帰って、それぞれの家へと入って行く直前、私は思い切って国士に話しかけた。
「っ国士!」
こちらを振り向いた国士は私の言葉を待っているようで、無言で私を見つめている。
「やっぱり、私、嫌だ。嫌、だから」
言葉が詰まる。こんなこと行っていいのか、望んでいいのか分からずにどくどくと鼓動が早まり、手が震える。
でも、言わなきゃ、背中を押そうとしてくれた、国士の優しさに、応えたい。
それよりも何よりも、
「私やっぱり好きだから、だから、頑張る。この高校三年間、頑張るよ。いっぱい頑張る。それでダメだったら、あ、諦める方向の努力、を、してみる」
それが、臆病な私とわがままな私の間でなんとか捻り出した、私の精一杯の覚悟だった。
その言葉を聞いていてくれた国士はにっと歯を見せて笑う。
「お前にしては頑張った方じゃないの」
じゃあな、と自分の家の中へと入っていった国士を見送って、私も自分の家へと向かった。
こうして、高校三年間、短いような長いような、よく分からない不思議な私の青春の日々が、始まりを告げた。
一区切り!終わります。
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原稿:現パロ古今夢
初公開日: 2021年09月18日
最終更新日: 2021年09月18日
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コメント
愛病世界オンリーに参加したいので頑張りたい。
かなり詰まっているので高頻度で止まる可能性あり
24時間原稿チャレンジ第一回
タイトル通り。頑張ります。
よもぎ
愛病原稿その3
いよいよ期限がやばくなってまいりましたが相変わらず詰まったり戻ったり
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