目が合ったのは、今日は残業で少し遅くなる、と国士相手に連絡が入っていたまさにその残業帰りであろう古今だ。
少し疲れたような顔をしていた彼は私が誰なのか認識してすぐに眉根を寄せて、こちらへ向かってくる。
対する私は想定外の出来事に逃げる事もできずに目の前に立った古今相手に小さくなるばかりで。
「可憐、」
「はい……」
「おれが何を言いたいかわかるか?」
「これから怒られるんだろうなってことは分かります……」
小さくなった私が思わず敬語で返すと、古今は小さく息を吐いて違う、と言う。
「怒っているんじゃない、心配しているんだ、こんな夜にそんな格好で1人で出かけてはダメだ。せめて海内か国士に連絡を取って一緒に行くとかだな」
「近いし、これぐらいならいいかなって……」
「良くない。次からは本当に気をつけてくれよ」
「うー……はい……」
ああもう本当に、海内とか国士に頼るかどうかはともかくこんな時間に1人で出かけるなというのはもう本当にその通り過ぎて、気まずさで顔を上げられない。
しかもアイスを食べたいとかいうそれ明日じゃだけだったの?みたいな用事でだし……
どんどん落ち込んでいく心に、古今が吐いたため息が深く突き刺さる。
どうしよう、幻滅されただろうか。
国士になら、そんな心配ないってすぐ思えるのに、古今に対してだけ妙に臆病になってしまう。
「……アイスを買いに来たのか?」
「えっあっう、うん」
ぐるぐると考えすぎて、どん底まで落ちそうになっていたタイミングで、古今が少し語調を和らげて私に問いかける。
私はこくこくとその言葉に頷いて、その間に微妙にパニクっていた脳内を落ち着かせることに成功した。
「俺もちょうど冷たい物が欲しくてここに寄ったんだ。買ってやるから一緒に帰ろう」
「えっい、いいよ自分で」
買う、という言葉は黙殺した古今はさっさとアイスボックスに目を向けて自分のものを選び始めてしまう。
(これは逃げようがないなー)
諦めて、私も自分のアイスを選び始めた。
流石に今このタイミングで家置き用の箱アイスも買おうと思っている、なんてことは言えなくて、すぐに食べる用のチアパックタイプのアイスを手に取って、古今に渡した。
古今は受け取るとここで待っているようにと私に言ってレジに向かい、電子マネーでサクッと会計を済ませてすぐに戻ってくる。
「じゃ、行くか。あんまり離れて歩かないように」
「はーい」
コンビニから出て古今はすぐにアイスの容器を開けて一口かぶりついて一息吐いて、私はよく冷えていて中々出てこないアイスにパック部分をグニグニと揉み解す。
そんな私に古今は優しく行くか、と声をかけて、私もそれに頷いて2人で歩き出した。
……なんか今日の古今、いつもと違う気がする。
残業終わりで疲れているからだろうか、なんていうかこう、ちょっと色気のようなものがあるというか、なんていうか、その、見慣れない姿すぎて落ち着かないというか。
古今、早く帰りたいよな、でも、ああでもなぁ、ちょっと、もうちょっとでいいから、一緒に居たいなぁ。
うろうろと忙しなく視線を彷徨わせていた私の目に、ふと街灯に照らされた公園が目に入る。
「ねえ古今」
「なんだ?」
「あそこの公園、行かない?」
「可憐……今何時だと」
「少しだけ!最近あんまり、その、会えなかったから、ちょっと寄り道して話したいなーと、か……思ったり……」
流石に急にすぎたかなとか素直に心情を出してしまったとかで恥ずかしくなってしまって語尾がどんどん小さくなっていくが、もう言ってしまって、古今の耳にもバッチリ届いているし、なんでもありませんは出来ない。
気まずくなって、最初は古今の顔に向けていた視線が泳ぎ始める。
少しの、沈黙。
ふ、と古今が息を吐く音が聞こえて、そこらを彷徨わせていた目線を恐る恐る古今の顔へと戻すと、古今は柔らかく笑っていて、その表情に胸が高鳴った。
「そうだな、お互い最近は忙しかったから」
「う……うん!そう、だよね、新年度だしねっ!」
「じゃあ、本当に少しだけだけど、行こうか」
公園へと歩き出した古今を一瞬見送りかけて、慌てて着いていきながら後ろでグッと拳を握った。
勇気出して言ってみてよかった、確か、この公園はさまざまな種類の桜が植えられていて、桜が好きな古今もお気に入りの場所だったはず。
毎年みんなで花見に来ていたけれど、今年は私と国士が忙しくてドタバタとしているうちに桜のピークがすぎてしまって、花見の予定もそれと一緒に流れてしまった。
桜の代名詞であるソメイヨシノ辺りは流石にもう散ってしまっているが、遅咲きの桜のいくつかは残っていたはず。
一回区切りー。お疲れ様でした。