俺は場違いだ。はじめて、そんなことを思った。
「理凰?」
かーん。
光がこっちを見ていて目をそらす。はずかしい。死ねるものなら死にたかった。
「あっ、箸、床に落としたよ。はい。どうしたの? さっきから上の空だね」
「なんでもない。ちょっとぼーっとしてて……ごめん、ありがと」
受け取ってテーブルを離れるとほっとする。蛇口をまわして、水に箸をさらした。さっき手に触れた光の指先のぬくもりが、きいんと上塗りされる。真冬の水道水はこんなに冷たい。
「光だけじゃない。夕凪くんもこの前トリプルルッツ-トリプルループの練習をはじめたよ」
「あら、あの子が? それじゃあ次に光と戦うときは、跳べるようになっているかもしれないのね」
「光の影響だろうな……がんばっている」
「それは楽しみだね。私ももっとアクセルを安定させて、夕凪ちゃんに追い抜かされないようにしなきゃ。……あ、そういえばこないだ学校でね――」
そこまで聞き届けて息を吐く。よかった。蛇口の栓を止めた。とっくにきれいになっていた箸をふいて戻る。
うちの座席はいつも決まってる。パーティ席に親父、庭に向かって右側に光と俺、左側に母さんと妹。
名港のリンクは6時に閉まるけど、親父はそのあとも仕事があるから、いつも夕飯は7時過ぎくらいになる。それでも絶対家族全員で食べるのは、光が来た5年前からずっと変わってない。家族のだれが言い出したかは忘れたけど、ひとりで食べる人がいるのはさみしいからって理由。
時計は8時半になるところだった。
「理凰、おなかすいてないの? 半分も食べられてないじゃない。もしかして、おいしくなかった?」
「そんなことない。母さんのムケッカ、今日もおいしいよ」
誤解されたくなくて、やっきになって否定する。ムケッカっていうのは母さんのふるさとの料理で、魚と野菜をスパイスとココナッツミルクで煮込んだ、日本のカレーみたいなもの。それを甘党の親父向けにやさしい味に仕上げた、我が家特製のムケッカ。いっぱいある好きな食べもののなかでも、俺がいちばん好きなもののひとつ。
「そう。ならいいんだけど……残してもいいからね。明日も食べられるんだから」
そう言うと、母さんは妹のべちゃべちゃになった口を、ティッシュでぬぐってやっていた。おいしい! もっとー! と大きな声。妹はよく食べる。
「おなかいっぱいにしないと元気出ないよ、理凰」
光はつられて笑う。親父もつづいて頷く。
「私たち、成長期なんだから、よく食べなきゃ」