授業が全て終わって固まっていた体を思いっきり伸ばす。今日は最後の授業がキースとブラッドとは別の物を選択していたからやけに一コマが長く感じた。机の上に広がったノートやペンケースを鞄に押し込んでいつもの場所へ向かうと、そこにはキースしかいなかった。
「あれ、ブラッドは?」
「女からの呼び出し」
「なるほど」
 きょろきょろと辺りを見渡してもブラッドの姿が見えない理由に納得して、大きな欠伸をしてるキースと一緒に歩き出す。ここでブラッドを待っていても良いのだが、校舎の中で待っているとまたブラッドは告白で呼び出されていると噂が立ってしまうから寮へと向かうことが最善だ。暫くしたら連絡だけ入れておこうと考えながらポケットの中に入れたスマホに触る。
「これで何回目だっけ。ブラッドって本当にモテるよな」
「あの堅物のどこがいいんだか」
「スポーツも出来て成績優秀、先生からも頼られる生徒会長なんだから当然だよ」
 入学した時から注目の的だったことに間違いはないが、学年が上がり後輩が出来れば憧れの対象になるのは必然で。それでもブラッドは全ての告白を断っている。曰く「今は恋愛に割く余裕はない」という彼らしい理由で、ヒーローになるためにアカデミーに通っているのだからそう言われれば頷くしかない。
 ブラッドが告白を断る度に、俺とキースの元へ戻って来る。何も変わらない関係が続くという事に安堵して、嬉しいと思ってしまう己に嫌気がさして乾いた笑いが出た。キースも俺も数える程度の告白は受けているからブラッドと同じ理由で断っているけれど俺は別の理由もあって。好きな人がいるんだ、と小さく付け足したら女の子たちは「ありがとう、応援してるから」と泣きそうな表情で言ってくれたことを思い出しては胸が痛む。俺は君たちみたいな勇気が、関係を変えること勇気が無いんだと、虚しさを感じながら謝ってばかりだった。
「なぁディノ」
「ん? どうかしたか?」
「……お前は好きな人、居るのか?」
「えっ」
 心臓を掴まれたような気がして、足の動きを一瞬止めた。突然どうして、と小さく震える足を何とか動かしてキースの隣へと戻っては彼の横顔に目を向ける。今日はキースの左側にきちゃったからまっすぐ前を見ているキースの表情は読み取れない。他の音が聞こえなくなるほどに心臓がバクバクと音を立てている。
「……俺にはいないよ。それよりも今はキースとブラッドと一緒に居たいし」
「そうかよ」
 嘘と本音を織り交ぜる。その声は平静を装えていただろうか。分からないけれど、声色はどこか安堵したもののように聞こえたから少しだけ俺と同じことを考えていたのだろうかと考えては地面に伸びた影に目を向ける。
 また一つ、キースへの嘘を積み重ねてしまった。本当は好きな人はいるよ、キースのことが好きだよ。なんて伝える日はきっと来ない。大切な友だちに嘘をついてる俺が、そんな告白を出来る勇気は持ち合わせていなかった。まだ大丈夫、まだ誤魔化せるはず。何度も頭の中でいい聞かせるように囁いては拳を作った手に力を籠める。寮に戻って、部屋で今日はゲームをする約束をしているからブラッドが戻って来るまではいつも通りにしなくちゃいけない。小さく息を整えるようにして、様子の伺えないキースから半歩だけ下がって隣を歩く。
 手の平に血が滲んでいたことに気が付いたのは寮に戻った後だった。
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20210828キスディノドロライ
初公開日: 2021年08月29日
最終更新日: 2021年08月29日
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コメント
第24回【お題:嘘/闇オークション】
20210918キスディノドロライ
第27回【お題:カクテル/夏の終わり】
みつき
トーン貼りばっかりやってる
コミティアに向けて、漫画を描いてる、その進捗
おフェム
ワンライ書くよ
# 鬼の始祖総受60分一本勝負お題 「終わり」「パートナー」「嬉し涙」 のいずれか
秋海棠