その時私は高3の夏を迎えていました。
いつもの通り夏期講習を終え、家路についている、その最中のことです。
「あっ、しまった……」
午前中にあった登校日のために持ち出したテキストを教室に置いてきたことを思い出しました。
この時期の予習復習は、体調管理を兼ねて、通常登校の日と変わらない日常を送るために夜に行うことにしていました。このまま帰宅しては二度手間になると思った私は、少し進路を変更して学校へ戻ることにしました。
幸い、夏時間のせいかそれほど暗くもなかったので、まだ残っていた守衛さんと警備員さんに事情を説明し、中へ入ることが出来ました。
とはいえ、放課後の校舎です。部活登校の人たちもすでに帰宅を済ませていたので、少し落ち着かない気持ちで無人の廊下を歩いていました。
職員室で校務員さんから鍵を受け取り、教室へ向かいました。
うちの学校は3階建てで、3階が2年生、2階が1年生、1階が3年生という並びでした。
職員室は2階にあったので、一旦上がった階段を下り、1階に向かうという形になります。
電気は、校舎に入った時点でつけていたので、廊下は明るかったです。
鍵を開け、教室に入り、自分の席で教科書を出す。鍵を閉めて、階段を上がり、鍵を返して校舎を出る――それだけのはずでした。
自分の席にたどり着き、テキストを取ろうとかがんだときです。
ふと、視界の端に白いものが映り込みました。
机の下から向こう側を覗く形で見える景色の中に、二本の足。白い裸足が見えたのです。
不思議と、そのときは何も感じませんでした。ああ、誰か私と同じように忘れ物でもしたんだな……そのくらいでした。
取り出した教科書や参考書を鞄に入れ、立ち上がったとき、ようやく私は「(あれ……?)」と思ったのです。足音などはしなかったはずなのに、自分以外、誰もいませんでした。
まあでも、私も鞄を整理したりがさごそしていたので、聞き逃したんだろうと思って、もう一度机の中を覗いて、今度こそ忘れ物の無いように確認してから教室を出ました。
電気を消してドアを閉め、鍵をかけて廊下を歩く。
廊下の真ん中で折れ、階段を上がり、ちょうど踊り場のところで鏡を見て、少し汗ばんでいた額に張り付く前髪を直して、また階段を上がり2階へ。
校務員さんに声をかけて鍵を返しお礼を言って、また、階段へ。
校務員さんが見届けてくれていたのか、階段へ入って少しすると、2階の廊下の電気が消えて、そこで初めて「(あ、結構暗い……)」と気づきました。
階段の踊り場は先程まで2階の電気を映して明るかったのですが、途端に鏡の上半分の景色が真っ暗になったことで、何故かそこを注視してはいけないような気持ちになり、私は少し足を早めました。
下足エリアで靴箱を開き、履き替えようとかがんだときに気がついたのです――あれ、……?
おかしいのは足音がしなかったことではなくて、どうしてこの時間に裸足で学校にいるのか?という点だったはずだということに。
私は急いで靴を履き替え、守衛さんと警備員さんにお礼を言って学校を出ました。
下足エリアの扉のガラスに、白い裸足が映り込んでいたことには気づかないふりをして。