わたしの名前はレイシア。平民だからファミリーネームはない。
先日、家庭の事情もろもろコミコミで冒険者になったわたしは、今日も今日とて依頼を受けるためにギルドホールに向かった。
「ミスフィアさん、今日はおすすめのクエストってありますか?」
「あら、レイシアちゃん、ちょっと待っててね」
受付のおねーさんのミスフィアさんは子供の頃うちの近所に住んでいて、ちょっとした顔見知り。
だけどなぜか実家には帰ってこないみたいで、小さい頃は街の市場で見かけたときなんかにかまってもらえるのがうれしかった。
「――んー、そうね……レイシアちゃんの腕前なら、これなんてどうかしら?」
「カガミ草をつむ……ですか」
「そう、カガミ草自体は知ってるわね? 森の生殖地周辺に、バニラトが出るようになったから、ギルド依頼になったの。お願いできる?」
「そっか、バニラトは怒らせるとこわいですもんね。子供だけで行かせるのは確かにこわいかも……そういうことでしたら、行きます!」
「よかった、受けてくれるのね。助かったわ」
「あれ、もしかしてこれ受けたの、わたしだけですか?」
「そうなのよ、誰も受けてくれなくって」
「でもミスフィアさん、バニラトは確かに初心者向けですけど、ギルド依頼になる規模で現れるとなると、他にも誰か受注する気がするんですけど……」
「――他のみんなは、ホッジスとかカーパーの方に行っちゃったから……」
「そうなんですね。じゃあ、今日は一人でかな。罠とバニラト避け用意していかないと……」
「そうね、何かあってからじゃ困るし、準備はしっかりしていってね」
「はい!」
ミスフィアさんお墨付きの笑顔を添えて、元気いっぱい返事した。
雑貨屋さんでトラップツールとバニラト避けを買って、わたしはカガミ草を探しにリシルの森に入った。
カガミ草はよくある薬草の一種で、おじいちゃんおばあちゃんみたいに腰を曲げてる形をしてる。
煮出した汁は表面がつやっつやで、鏡みたいで、しかもキラキラしたものを磨くとものすごくきれいになる。飲むのにちょっと勇気がいる見た目してるけど、喉にいいから需要は多いんだ。
リシルの森は街から一番近い森の一つで、子供でもお遣いに行ける距離のとこ。だいたいカガミ草とかの簡単な薬草や香草を集めるとなると、ここかタガレト山に行くことになる。リシルの森は街道にも近いから、本当に、お手軽なんだ。
「――でも」
そう、ギルドに依頼がくるくらいバニラトが出没するなら、街道の警備もちょっと強化しないといけないよね……道を行くのは行商の人たちや冒険者だけじゃない、礼拝のために街へ上ってくる近隣の村人たちもそこを通るんだから。
門番さんへ事情を説明して、警備隊の人たちへ伝えてもらえるようにお願いした。わたしも駆け出しで全然だけど、冒険者でもない人たちはもっと弱い。行商隊なんかは傭兵を雇ってたりもするけど、それだってなるべく怪我やアクシデントがないほうがお金がかからずにすむもんね。
道ですれ違う人たちに「バニラトに気をつけて!」って声をかけながら、私はリシルの森に向かった。
リシルの森は静かだった。まあ、いつもどおりって感じ。時々鳥の声が聞こえてきたり、葉ずれの音がするくらいで、動物やモンスターが荒れてるときみたいなザワザワした感じはしない。
ちょっと肩透かしを食らった気持ちになりながら、でも……と思い直して気を引き締める。だって、わたしは冒険者だ。ギルドの依頼を受けてここに来てる。なにかあったとき対処できないといけないし、冒険者じゃない人たちに迷惑がかかってもいけない。今日は一人だ、誰も頼れない。
改めて装備を確認して、あたりを見回す。確か子供の頃は、このあたりで草花つみをしたっけ……。
「えーっと……――あっ、……!」
数フェッチ移動して、ようやく見つけたカガミ草の群生地。うっかり勢いのまま薬草つみ