「海行かないか 今日で夏休み最後だろ」
涼しい部屋で読書でもしようかと思ったタイミングでスマホが鳴った。ピロンと軽快な音を立てている時点で部長からだろう、メッセージの宛主を見るまでもない。それにこんなことを送ってくる人は1人しかいない。そう確信して返信を打ち始める。
「嫌だよ 夏休み最終日なんて絶対人混み凄いし 大体何するわけ」
そこまで打ち込んだ後、少し言い過ぎたかと反省して文章を消した。折角恋人が誘ってきているのにこの返し方は流石に無いな。言い方ってものがあるだろ。言いたいことはそのまま、しかし若干オブラートに包んだメッセージを考える。前までの自分なら絶対しなかっただろう。
「こんな人多いときに海行って何したいの 何も目的もないのに行くのは時間の無駄だから嫌」
送信。自分もつくづく部長に甘いなと感じていると1分もかからずに返信が来た。もしかして待っていたのだろうか。そうなると割と本気の誘いなのかもしれない。
「えっ特に何も考えてなかった…散歩とか?」
「あっパトロール!パトロールしたい 海で人多いだろうし楽士のこととか聞けるかも」
これは海に行きたい気持ちが先走って何も理由考えてなかったな。取り繕うように言い訳を後出ししてきた様子から見るに、余程行きたいのだろう。「それならば人数多い方がいいのでは、帰宅部全員誘おうぜ」と意地悪く突っ込むこともできたが流石にそれはやめておく。拗ねると面倒なのは実証済みだ。まぁ情報入手のためのパトロールならば反対する理由も思いつかない。肯定の返事を打ち込んだ。
「わかったよ いつ集合すればいい」
「できれば今 もう劉都の家の前にキィトレイン停めてる」
断られる可能性とか考えていなかったのだろうか。なんだか自分が部長に甘いことを本人にも見透かされているようで恥ずかしい。事実だから仕方がないかと早々に諦めて外出する支度を始めた。
※
「楽士の情報そんなに集まらなかったな」
興玉駅から少し外れた場所にあるビーチは人が大勢いるものの、殆どが同じ中高の知り合いだったため目新しい情報は見つけられなかった。新しく分かったことは部長はクラスの女子に人気があって今日もプールに誘われていたこと、そしてそれを断ったことくらいだろうか。
「何で今日にしたの。同じクラスの人に誘われていたのに今日来たら気まずいとか思わないわけ」
のんきに笑う部長の隣で思わず可愛くない発言をしてしまった。部長が誘いを断ってくれて嬉しいと素直に伝えられていたならこんな性格にはなってない。そう思いつつもワイヤーの返信のように発言を編集できたらもっと上手く甘えられるのにと考えていると頭に掌の感触が伝わる。わしわしと雑に撫でられた。髪型が崩れるからやめろと言う前にぼそりと俺にしか聞こえないくらいの声量で話し始める。
「いや、逆に…というか見せつけたくて」
「は」
見せつけたいってそれってつまり。期待するように目線をあげようとしたら頭を抑えられて阻止された。部長の表情見ようとしてたのバレたか。横から「言うんじゃなかった、恥ずかしい」やら「穴があったら埋まりたい」と声が漏れている。
「部長でも言わなきゃよかったとか思うんだ。コミュニケーション強者っぽいのに」
「当たり前だろ。俺はそんなに器用じゃない」
あの帰宅部のメンツをまとめあげて機能させているのだから器用だと思うが、これは堂々巡りになりそうなので指摘するのはやめておく。今はそれよりも、隣で恥ずかしがっている部長を宥めてこの後の予定を決めるのが先決ではなかろうか。