「劉都、浴衣の着付けって頼めるか…?」
 部長が真新しい浴衣一式を携えて俺を訪ねてきたのは午後6時過ぎの出来事だった。何とも、クラスメイトに今日明日で行われる興玉夏祭りに誘われたらしい。高校生のノリで浴衣を着て盛り上がろうと言われたものの浴衣など着たこともないし、頼める人も見つからずほとほと困り果てていたところ、俺に白羽の矢が立ったというわけだ。確かに俺は浴衣の着付けくらいできるし、部長の判断は間違っていない。だけど
「(複雑な気分だ…)」
 クラスメイトと言っても男子のみだけでなく女子も来るらしい。それはつまり部長の浴衣姿を見てときめく女子もいるかもしれないということ。吟くん曰く、部長はそれなりにモテるらしいから気が気じゃない。本人は全く持って自覚がないから余計に厄介である。ため息を殺してひくつく頬を無理やり動かした。
「出来なくはないけど…部長、着崩れとかって直せるの?いきなり長時間の外出は勧めないよ」
「うっ確かに…でも浴衣持ってるって言っちゃったんだよな、どうしよう」
 見るからに部長が困っている。ここで俺が一緒に行こうか、と言えれば問題ないのだろうが俺がそこまで世話を焼くのは「仲の良い後輩」の枠を超えてしまう気がして、俺の気持ちが悟られてしまう気がして言い出すことはできなかった。今の関係性は心地良くて、手放す勇気は持ち合わせていない。
「あっじゃあ1時間ならどうだ! 1時間くらいなら着崩れないだろ」
「それはそうだろうけど…1時間なんて屋台とか花火少ししか回れないだろ 良いのか?」
 良いことを思いついた、と言わんばかりの部長に思わず突っ込んでしまった。きっとクラスメイト達に義理立てしようと考えているのだろうが1時間であっさり解散できるとは思えない。何かと理由を付けて部長を帰さんとするだろう。
「それなら…劉都が迎えにきてくれたら大丈夫だと思う。同じ部員の後輩と回るって言えばあいつらも納得するだろ」
「そういうものか?」
「何とかなるよ だから劉都、頼む」
俺の肩を掴んでじっと見つめてくる。どこか焦っているような様子に胸がちくりと痛んだが、そこまで言われて断ることなどできなかった。緩慢に頷くと部長の顔が明るくなる。そんなに浴衣姿を見せたい相手がいるのか、一体誰なんだと問い詰めたかったが俺にその権利はない。部長から浴衣を受け取って黙々と着付けを始めた。
✳︎
「肩幅に足開いて。…そう、そのまま。腰紐回すよ」
部長が持ってきたのは濃紺に染めたしじら織の浴衣に献上柄の灰色の角帯だった。脳内の片隅にあった知識を引っ張り出して着付けを進めていく。上前を重ねる所までは部長にやってもらい、腰紐を結ぶ所を少し手伝ってやる。腰紐を腰骨の位置に合わせて結んでいくから必然的に部長の腰に手を添わせる形になってしまい、声が震えてしまった。動揺を悟らせまいと努めて平静を装っているが、うまく隠せているだろうか。勢いのまま角帯を貝の口結びで締める。時間をかける方が自分の余裕が削れていくのは分かったからさっさと終わらせてしまおう。
「キツいところとかないか」
「あぁ、大丈夫だ。ありがとな劉都」
 襟合わせの部分を調整し、全体の姿を確認し終えるとふわりと部長が笑った。初めて浴衣を着たと言っていたがそうは思えない程様になっている。少し着崩して緩く着た方が格好良いと聞いたことがあるからそれを伝えようとしたがやめた。これ以上男前になってもらっては困る。
「あのさ、似合ってるか。浴衣」
絞り出すように出された声は掠れていて、どことなく欲が滲み出ているようなそんな気がした。
「え、まぁそれは…似合ってるんじゃないの」
その熱に釣られて俺も言葉が詰まってしまう。2人の間に微妙な沈黙が流れた瞬間部長の腹からぬっとキィが現れた。いつ見ても異様な光景だな。
「良かったな!ハンシン!!クラスのやつが浴衣姿見せれば絶対落ちるって言うから半信半疑で浴衣買ったけど報われたな!!」
「えっ」
「キィ!!夏祭りの時りんご飴買うから大人しくしてる約束だろ」
「なんで怒ってるんだ?2人は両想いってやつなんだろ?喜ばしいことじゃないか」
「部長…」
「やめろ そんな目で見るな」
「俺のこと好きなの?」
「………うん」
可哀想なくらい顔を赤く染めた部長は先程までの色男ぶりはどこに行ったのか、見る影もない。俺の視線に気づいたのか顔を横に逸らしたが、耳までしっかりと赤くなっているから誤魔化せていない。そんなところもまた愛おしかった。
「1時間後」
「え?」
「絶対迎えに行くから待ってて」
そっと部長に近付くと、びくりと肩が震えた。浴衣の袖を軽く掴み、腰を落とすよう促すと壊れたロボットのようにぎこちないながらも腰を落としてくれた。そして部長の胸辺りを軽く引っ張りシワを直す。いきなり顔の距離が近付いたからか部長の頬に朱が走った。
「なに、キスされるとでも思ったの?着付け直しただけだよ」
「あのなぁ…後で覚えてろよ」
これ以上虐めると涙目になってしまうだろうな。そう判断した俺はにこりと人好きする笑みを意図的に作って距離を取った。部長ははくはくと口を動かし、何か言おうとしていたが約束の時間が迫っていたためしぶしぶとクラスメート達の元へと向かった。いい気味だ、せいぜい1時間悶々として過ごすことだな。俺も浴衣を着て行ったら驚くだろうか。確か仕立てた浴衣があった筈だとクローゼットを開け、俺も夏祭りに行くための支度を始めた。また、1時間後。
取り敢えずここで終わりです 推敲して支部に載せます 見ていただきありがとうございました!!
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主劉 浴衣 
初公開日: 2021年08月11日
最終更新日: 2021年08月11日
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コメント
支部まとめに載せるもの アーカイブ残るかわかりません
RiJ見ながら書いてます ゆっくり書く
完成したもの→https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=15807545
主劉 ピアス
ゆっくり書きます アーカイブは残るか分かりませんストーリーに関わるような重大なネタバレはありませんが…
かmaぼこ
主劉 クソゲークリアしないと出られない部屋(キャラエピ・ストーリーネタバレあり)
ギャグです キャラエピ・ストーリーのネタバレが含まれますので良い方は 「yes」と入力していただけま…
かmaぼこ
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