遠見の神社でお祭があるね、という話を、わたしが四人だけのグループ窓に流したのが発端となった。
そっかぁ、もうそんな時期かぁ。いいなー。そういった平和なやり取りがあったのも束の間のこと。
『ねぇ、折角だからダブルデートしない?』
そう突拍子もなく言い出したのは燈子だった。
『いいですね!!! やりましょう!!!』
そしてそれに乗ってきたのは陽ちゃんだった。
わたしと佐伯先輩が止める間もない、ほんの数秒ほどの出来事でそれは決定事項となった。
……あとで個人窓で慰め合うものの、なんだかんだで互いに相方のそういうところも好きなので、結局はなぁなぁに終わってしまうのである。
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そんなわけで、祭の当日に四人で浴衣をレンタルしにお店へと向かうことになった。
集合場所はモールの一角。お店の前は迷惑だけど、外は暑すぎるからとの折衷案で。
そんな入口すぐの案内板の前に、予定の時刻直前になってようやく発起人が走ってきた。
「久し振りー」
そう手を挙げながら少し息を乱す燈子に、佐伯先輩がいつものように苦情を突き付ける。
「遅いわよ、燈子」
「ごめんて」
半ば恒例行事となった挨拶を済ませて、わたしたちは雑談を交わしながらお店へと歩き出した。
「まぁわたしたちは特に久し振りでもないけどね」
「こないだのカラオケ楽しかったですよー。相変わらず侑ちゃん上手い」
わたしと陽ちゃんの掛け合いに、むぅと燈子が膨れる。
「私も聞きたかったのに、ずるい」
「二人でいつも行ってるじゃん」
「私が侑の歌を聞けてないのがいやなのー」
「オーディション決まったんだからよかったじゃないの」
「朱里ちゃん――はデートとして、こよみちゃんと菜月ちゃんは?」
「こよみは原稿。菜月は逆にあちこち引っ張りだこだし」
「それもそっか」
女三人寄れば姦しい、というらしいけれど、四人も集まれば会話が途切れることがない。
そうこう話している内に、レンタルショップに着く。モール内にある至って普通のお店だ。
「なんかフツーだね」
「一体なにを期待してたのかしら?」
陽ちゃんの呟きに、佐伯先輩があからさまな溜め息を吐く。
「沙弥香の紹介だから、こう、ね?」
「なんかこう、老舗というかすごいところ連れていかれるのかと」
「お望みの場所に連れていってもいいけど、そっちをお望みなのね」
拍子抜けしたわたしたちのからかいに佐伯先輩の語調がひっそりと強くなり始めたので、すぐさま三人とも頭を下げて白旗を上げた。
逃げるようにして入ると、いらっしゃい、という声と一緒に、たくさんの着物がわたしたちを歓迎する。
「それじゃあ、またあとで」
すぐに目移りしそうになっていると、燈子がわたしたちにそう言ったので、わたしも苦笑を返す。
「佐伯先輩に迷惑かけないようにしてくださいね」
「そっちこそ、ハルのペースを引っ張られ過ぎないようにね」
「沙弥香先輩お母さんみたい」
ぶふっ、と燈子が噴き出して、ぷるぷると体を小さく震わせる。
「沙弥香ママ……」
「そこ、笑わない」
そんな会話を交わしながら、わたしと陽ちゃんと、燈子と佐伯先輩はそれぞれに分かれて動き始めた。
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『折角だから先輩後輩に分かれて相手の浴衣を選ばない?』
『オッケーです!』
そんな約二名の判定により、わたしたちは互いの浴衣を選ぶべく店内を巡り始める。
「どういうのがいいのかな」
案の定、わたしは悩む。
自分のことでも悩むけど、人のことでも悩むのには変わらない。
「流行りってどういう感じ?」
陽ちゃんがそう訊ねてくる。こうして指針を示してくれるのは地味にありがたい。
「なんかレトロ系が流行ってるみたい? ほらこういう派手なの」
「ふむむ。いいねー」
「わたしにはちょっと合わないけど陽ちゃんにはいいかも」
陽ちゃんは髪色も明るいし少し焼けてるから、色合いの強いのがいい具合にマッチする。
「ハルだからね!」
「うん、分かんない。逆に古典柄は大人し過ぎるかな?」
陽ちゃんとの付き合いも一年くらいになるので、こういう突拍子のない言動も乗ったり乗らなかったりできるようになった。
古典柄は地味というか……陽ちゃんの主張の濃さに浴衣が呑まれてしまいそうだ。
「こういうの? 侑ちゃんに合う気がする」
「ありがと。やっぱそういう無難なのが合うよね」
わたしはちんまいし顔も目立つようなものじゃないからなぁ。
「え、無難なの?」
「そうだね」
「じゃあ違うのにしよう。折角だしさ!」
にっこりと笑う陽ちゃん。
こういうところは燈子にそっくりだった。
「え? んー……まぁ今日は陽ちゃんが決めるんだから、任せるよ」
「ぎんぎらぎんにさり気なく、って感じがいいよね」
「どういうの?」
「さぁ?」
「語感だけで決めてない?」
「うん」
どっちだろう。
「侑ちゃんはさ、沙弥香先輩に似てるよね」
改めて浴衣を探していると、ふと陽ちゃんはそんなことを言ってきた。
「そう、かな?」
わたしからすれば全然上の人なんだけど。
「じっくり考えてから動くでしょ? わたしはほら、考えるより先に体が動いちゃうから」
「あーうん、確かに。それを言ったら、陽ちゃんは燈子に似てるかな」
「なんかそんな気はしてた」
あの人、考える前にキスしてきてたしね。
陽ちゃんはどうなんだろ。流石にそういうのは聞き出しにくいけど。
「それに優しいしね」
「優しいかなぁ」
しかしそっちの方は首を傾げてしまう。
どうなんだろう。わたしだって人並に怒ったりするし、嫉妬もする。
でも陽ちゃんは直感的ではあるけど、そういうのには鋭い方だ。なら、そう、なのかな?
全然自信がないけど。自分のことだから見え過ぎてるのか、それとも見えてないのか。
「なんていうんだろう。わたしに歩調を合わせてくれる?」
んー、と言葉を探していた陽ちゃんは、ややあってそう捻り出した。
「合わせられてるかな」
「わたしが走ってたら走って追いかけてくれる。でも、沙弥香先輩も侑ちゃんも、歩いてるのにわたしが合わせたくなって、いつの間にか歩いてることもある、感じ?」
「そっか」
陽ちゃんなりの表現は、なんとなく伝わったかもしれない。ふむと少しばかり咀嚼し、自分の言葉に置き換える。
「……その例えでいくなら、わたしは――あと多分佐伯先輩も――走るのが苦手なんだと思う」
「ふむん?」
「意味とか目標とか、そういうのがあんまりないからかな。走るだけの衝動が自分の中だけにはない、っていうか」
わたしの場合、それが優柔不断の一因になってるんだと思う。
ただ。
「でも、走ってる人と並んで走ったり、その背中を押したいって思ったりはする。いつも引っ張ってくれる――わたしを走らせてくれるから」
燈子は。
言うならばアクセルとブレーキの役割……と言えばいいんだろうか。互いに全然違うけれど、欠けてもよくない。そんな。
「そっか。やっぱり優しいんだ」
「そうなのかな。そんなこと言っときながらマイペースだし、我が儘だよ」
「そうだよ。だからわたしは時々一緒に歩きたくなるんだと思う」
「そっかぁ」
そういうこともあるのかな。逆だから分かんないけれど。
「侑ちゃん」
「うん?」
「惚気話って楽しいね?」
そう言って、陽ちゃんはにぃっと笑った。
「そうだね」
浮かべた笑顔はきっと、おんなじものだったろう。
自分の抱える想いを話せる相手がいるのは、楽しいことだ。
さぁ。取りも直さず、陽ちゃんをきれいに仕立て上げないと。
わたしと陽ちゃんは再び浴衣探しへと戻っていった。