お守り
 ――コンコン。
 扉から音がする。今夜来訪予定は特にない。ネロのノックの音ではないし、誰だろうか。思い当たる用事も人物もない。手入れしていた銃をテーブルにそっと置き、扉の前まで移動する。
「誰だ」
「レノックスだ、ブラッドリー」
「羊飼い?」
 意外な来訪者だった。扉を開けてやれば、ガタイの良い黒髪の男。顔を見ようとすると、少し見上げなければいけないのがいつも癪だ。
「こんばんは、ブラッドリー」
「おう、どうしたよ」
「ああ、実はお前に渡したいものがあって」
「渡したいもの? まあ、立ち話もなんだ。とりあえず入れよ」
「いいのか?」
「暇だしな」
 これがオーエンやらミスラやらなら渡したいというものを奪うだけ奪って扉を閉めるところだ。羊飼いなら俺に害をなすことはそうそうないだろう。背を向け部屋の中へと歩いていく。
「銃の手入れ中だったのか。邪魔してすまない」
「毎日やってることだ。構わねえよ」
 俺は元の位置に座りなおすと銃の手入れを再開する。座れよ、と視線で目配せしてやれば、少し遠慮がちに腰をおろす羊飼い。
「で、渡したいものってのは?」
「ああ、これなんだ」
 テーブルにこつりと置かれたのは小さな布の巾着。中に何か硬いものが入っているようだ。巾着の布には刺繡が入っており、少しだけ魔の力を感じる。
「これは?」
「ミチルたちと作ったお守りだ。お守りと言っても、そんな大層な力のあるものではないが」
 なんでも、今日の昼間にルチル、ミチル、リケ、レノックスの四人で出かけた際、魔力の宿った石をたくさん拾ってきたらしい。それをお守りの形にしたのがこれというわけだ。
 最後の確認をして、銃の手入れを終える。俺は置かれたお守りを手に取って、まじまじと観察する。
「石の魔力を布の刺繍で増強・安定させてるってところか」
「ああ、さすがだな」
「で? これを俺様にって?」
「ああ」
 相変わらず表情の動かない男だ。ポーカーフェイスとはまた違う、表情筋死んでんじゃねえかと思うことしきりだが、こいつが笑っているのを見たことがないわけではなかった。
 言っちゃあ悪いが、お遊びの延長のようなものだ。これを俺に渡してくる意図はあまり見えない。
「ルチルに効能を聞いて、ブラッドリーにも渡そうと思って」
「効能?」
「石に強い力はないから、魔除けとか、守護とか、幸運値がものすごく上がるとかはないんだが」
「おう」
「ちょっと風邪をひきにくくなるとか、身体が怠いのが少し軽くなるとか、なくしものが出てくるとか、そういう効果があるらしい」
「はあ」
 間の抜けた返事を返してしまう。効果を聞いてもますます俺様に渡す意味が分からない。まあ、羊飼いの考えることなんて大抵何もわからないのだが。
「で、なんで俺様に渡すんだよ。んなもん呪い屋とかに渡しときゃいいじゃねえか」
「もちろんファウスト様にはお渡しした。あとはフィガロ先生にも。ネロには四人で渡しに行ったし、ルチルはよくバーに行くからとシャイロックにも渡していたな」
 頭の中で想像する。まあ、おかしくない人選だ。それで行くと、やはり羊飼いが俺様にこれを渡してくるのはなんだか浮いたチョイスな気がしてならない。
「おめえはなんで俺に渡すんだよ」
「まだ身体が怠いかと思って、ちょうどいいと思ったんだ」
「あ?」
「夕方見かけた時にもまだ少し疲れて見えた」
「!」
 話が見えてきたぞ。こいつ、いや、くそ。早急に黙らせないと、次に何を言うのかわかってしまった。
「昨晩無理させてしまったから、まだ腰が痛いんだろう? これを持っていれば少しは楽になるかと思って」
「黙りやがれデリカシー皆無野郎!」
 テーブルに置かれたそれをひっつかんで投げつける。直線軌道で飛んで行ったそのお守りはレノックスの額を直撃する。戦闘の時はそれなりに動けるくせに、元戦士とは思えない反射神経だ。いや、避けるかキャッチャするかくらいしろよ。
 羊飼いは赤くなったデコをさすりながら、困ったようにこちらを見ている。こころなしか眉毛も下がり気味だ。くそ、さっきまで表情筋死んでただろうが。こういうときだけ動くのは卑怯だろう。
「すまない、何か気に障っただろうか」
 そして自覚がない。そういう男だ。悪気がないから、なおのことタチが悪い。これでキレてたら俺様の方が狭量みたいじゃねえか。
「……そういう気遣いはいいんだよ」
 絞りだした精一杯の言葉だ。こいつを相手にするといつも調子を狂わされる。今まで相手してきた奴らとは本当に勝手が違うのだ。俺はこの数分のやり取りでなんだかぐったりとしてしまう。
「そうか。だが、それを抜きにしてもこれはもらっておいてくれ。おまえに良いことがあれば、俺も嬉しい」
 そしてこれだ。さらりと随分気障なセリフを吐いていく。これで素なのだろうから頭が痛い。天下の大盗賊ブラッドリー様を捕まえてこの扱いだ。どっと力が抜けてしまう。
 再び差し出された小さなお守り。それを受け取って、はあ、とため息をつく。やりにくいったらねえや。
「今度から俺様に貢物をするなら上等な酒か肉か宝石を持ってきな」
「はは、晩酌のお誘いと受け取っておこう」
「ちげえわ、ばか」
おわり~!
見に来てくれた方ありがとうございました!
SSメーカー変換後Twitterにてアップしますので良かったら改めて読みに来てください。
お付き合いありがとうございましたm(*_ _)m
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右ブラワンライ:レノブラ「お守り」
初公開日: 2021年07月20日
最終更新日: 2021年07月20日
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