とある昼下がり。俺は一人のんびりと、木の下でゆらゆら船を漕いでいた。木の幹に寄りかかって、目を瞑る。葉の影に紛れて差す陽の光が、柔らかに瞼越しに届く。肌を撫ぜる空気の温度がとても心地良い。ざあざあと、風が木の葉を鳴かせる音も耳障りが良い。自然の空気と音が俺を包む。なんともまあ「お昼寝日和」というやつだ。
 物思いに耽りながら、俺は襲い来る眠気に抗わず身を任せる。ころりと身体を倒して草と土の匂いを肺の中へと吸い込みながら、本格的に寝る体勢をとる。布団をかけるわけでもない、きっとそれほど長く眠りはしないだろう。
 もう少し、あと少し。意識が途切れる寸前の、ふわふわと、現実と夢の境のような状態。夢……夢か。眠りが浅い分何かしらの夢は見るかもしれない。葉のざわめきが波の音のようだから、もしかしたら海の夢でも見るのかも、なんて。そんなことをうつらうつらと考えながら俺は眠りに落ちて行く……つもりだったんだけど。
 ――どすん。
「ぐえっ」
「おはようございます」
「ふ、ざけるなよ……おまえ」
 腹の上に遠慮容赦なく全体重で乗ってきた赤髪の馬鹿。普通に重いし苦しい。自分の身長がどれだけあって、自分の体重がどれほどあるか、わかっているのだろうか。
 せっかく気持ち良く入眠しようとしていたというのに、なんという仕打ちだろう。身体を包んでいた眠気は今の衝撃で逃げて行ってしまった。中途半端に覚醒した脳はもやがかかっているようで、なんだか上手くはたらかない。
「なに」
 俺は腕を目に当てながら要件を問う。場合によってはポッシデオも辞さない構えだ。そのためにも早く脳の覚醒を果たさなければ。腕をどけてしっかりと目を開き、その顔を視界に収める。はあ、何回見ても顔〝は〟綺麗なんだよなぁ。こいつの目元に隈がなかった頃は、どんな顔をしていたっけかな。なんてことを思いながらまじまじと見上げる。表情の変化はさほどない。向こうも俺をじっと見おろしている。
「あなたが、寝てたので」
「……で?」
「起こそうかと」
「俺はなんで起こされたのか聞いたんだけど?」
「……寝てたから?」
 話にならなかった。いや、まあミスラ相手に理性的で論理的な話ができるなんて思ってはいないのだけれども。それにしたって何の情報も得られなかった。起こされ損である。やっぱりポッシデオかな。
「起こして何したかったの」
「いえ、特に」
「はあ」
 溜息しか出ない。俺が温厚で柔和で優しくて懐の広い南のお医者さん先生でなかったら、今頃こいつは大変美しいマナ石となって俺の腹の中に収まっていたことうけあいだ。
「とりあえず退けよ。重いし苦しい」
「やです」
「はああ?」
 理解不能。ミスラ節炸裂。シンプルに面倒くさい。こいつの言語出力能力に期待はしないけど、意思疎通困難レベルになられると普通に困る。本当にこいつは何がしたいんだ。
「おまえは何がしたいの。どかないなら物理的に吹き飛ばすよ」
「はあ、気の短い人ですね。カルシウム? ってやつが足りないんじゃないですか? 賢者様が言ってましたよ」
「《ポッシデオ》」
「ぐえっ」
 とりあえず地面にキスさせてやる。上体を起こし、無様に崩れ落ちている長身を見おろす。うつ伏せのまま後ろ手に拘束し、その重ねた腕の上に全体重をかけて腰を下ろす。座り心地は悪いけど、拘束具合は丁度良いだろう。
「痛いんですけど!」
「知らないよ。で、なんで退きたくなかったの」
「あなたの命令を聞くのが癪だったので」
 子どもかよ。
「子どもかよ」
 あ、口に出ちゃった。まあいいけど。
「で、結局おまえは何がしたかったわけ。俺に構って欲しかったの?」
「気色悪いこと言わないでください」
「はあ、可愛くない」
 ――パンッ。
「ぎゃんっ」
「あはは、ぎゃん、だって」
「……ちょっと」
「はいはい、痛かったですね~」
 今しがた叩いたケツをズボン越しに撫でてやる。どうせ「自分は寝れないのに俺が寝てるのが腹立った」とかその辺の理由だろう。厄災の傷と俺が昼寝することに何の関係もないから、純然たる言いがかりな訳だが。
「おまえ、もう少し喧嘩売る相手は考えろよ」
「別に喧嘩なんて売ってないですよ。あなたが勝手に買ったんじゃないですか。年寄りは短気で嫌ですね」
 長い手足を投げ出して、汚れるのも厭わず、頬をぺたりと土にくっつけながら返事をしてくる。ほんと、こういうところ頓着ないよな、こいつ。
 なんだか可愛らしく挑発をしてくれているようだし、ご期待に応えて構ってやることにしようか。俺は完全に覚醒した脳みそで未来のプランへと思考を飛ばす。
「俺の昼寝を奪ったのは高くつくからな。夜、寝かせてやらないから覚悟しとけよ。ああ、元から寝れないか」
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ミスラ受けワンライ:フィガミス「お昼寝」
初公開日: 2022年02月06日
最終更新日: 2022年02月06日
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ミスラ受けワンドロ・ワンライ
第九回 お題「お昼寝」
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