「いや~、はは……何?」
「…………」
 そこは随分と味気ない部屋であった。色味の少ない棚と机と壁紙。四面には窓がなく、あるのは扉ひとつ。試しにノブを捻ってみるも、がちゃがちゃと音が鳴るだけで、扉が開く気配はまったくない。
「おまえ、心当たりは?」
「ない」
「俺も」
 困ったな。なんて一人ぼやきながら、さほど大きくもない部屋を探索する。壁をペタペタと触ってみたり、あちこちを開けたりひっくり返したりしてみる。その間オズは部屋の真ん中で突っ立っていた。こういうのは俺の役割だと思っているのだろう。まあ、間違ってないと思う。
 そうこうしているうちに、棚の引き出しに入っていた一枚の紙を見つける。お、やっと手掛かり。そう思ってその紙を手に取る。
「何か見つけたのか」
「うん。どれどれ……」
【約束しないと出られない部屋】
 ……ふぅん。
 正直この状況に対して特に思う所はなかったのだが、〝約束〟の二文字を前にして、急速に心が凪いで行く。どうせ双子先生あたりのいたずらだと悠長に構えていたが、俺たちに約束をさせようとしてくるあたり、警戒を高めなければならないだろう。俺とオズ、二人をこの状況に放り込めるということは、必然、相当な実力の持ち主であるはずだ。
「何と書いてあったんだ」
「ん~……」
 オズに正直に伝えるか悩む。ワンチャンオズの魔法で壁とか破壊できないだろうか。やるだけやってみてダメなら考えようか。
 やるのオズだけど。
「とりあえずさ、おまえちょっと壁か扉か、ぶっ飛ばしてみてくれない?」
「いいのか?」
 なんとこのオズ、建物の心配をしてくれていたらしい。賢者さまたちの教育の賜物だろう。初めの頃はミスラと魔法舎の屋根をポンポン吹っ飛ばしてた男だ。おまえが成長してくれてお兄ちゃん嬉しいよ……。なんてことを心の中で思いながら指示を飛ばす。俺はいつものようにサポートに回る。
「破壊はドアのみね。向きと範囲は俺が調整するからお前は出力少しずつ上げてって」
「わかった」
「いくよ。《ポッシデオ》」
「《ヴォクスノク》」
 火花のような稲妻が、バチバチと音を立てて、一直線に扉の方へと走っていく。着雷し、轟音が鳴り響くが、扉が破壊された気配はない。あー、これは……どうだろ。厳しいかな。少しずつ出力を上げるオズに合わせて、俺も魔法が逸れないよう道筋をひいてやる。
「フィガロ」
「なに」
「これ以上強くすれば部屋に魔法が満ちてしまう」
「そうだよねぇ」
 最後にひときわ眩い光を残し、オズの電撃が止まる。扉を見るが、そこら一帯が焼け焦げ煤けているだけで、ヒビひとつ入っていないことが見て取れる。だめだこりゃ。
「脳筋プレイじゃダメっぽいね」
「脳筋とは?」
「今はそういうのいいから……」
 さて、力でゴリ押せないとなると、オズの出番はそんなにない。頭脳担当は俺だ。少し考えよう。
 部屋に用意された椅子に腰かけ、思考を展開する。俺たちを閉じ込める目的、約束をさせたい理由、約束をして本当に扉は開くのか、犯人像、出るまでのこと、出た後のこと。
 ひとまず導いた結論として、犯人の目的は俺たちを殺そうとか、そういうことではないように思った。殺意や悪意にしては、要求が悠長すぎる。ならばなんなのか、と言われると困るわけだが。
 この間オズは黙って俺を見続けている。こいつは昔から俺の思考を邪魔したことはなかった。そういうところを好ましく思う。居心地が良い、というのはこういうことを言うのだろう。……恐らく。
 とにもかくにも。この部屋を出るには約束をしなければいけないらしい。ならばここでの最適解は「すぐに成就できるようなお手軽な約束を交わす」だろう。これで開かなければ、どの道手掛かりなしの振出しに戻ってしまうのだ。方針さえ決まればあとは実行あるのみだ。……少しくらいなら遊んでもいいだろうか。
「こほん。あー、オズくん」
「なんだ」
「俺がこの後お願いすることをやってくれるって、約束してくれない?」
「約束だと?」
 全力で怪訝な顔をしている。それはそうだろう。こいつに約束をするなと教え込んだのは双子と俺なのだから。
「悪いようにはしないからさ」
「…………この部屋に関係あるのか」
「まあそういうこと」
「わかった」
「え」
 もうちょい渋るかと思っていたので、案外すんなり飲んだことに少々驚く。こいつ本当にわかってるのかな?
「いいの? 約束だよ? 破ったら魔力なくなっちゃうんだよ?」
「破らなければ良い」
「……お前がいいならいいけど」
 お願いの内容でからかってやろうと思っていたのに。存外、想像以上の信頼を置かれているようで、なんだかむず痒くなってくる。
 いや、ここで引いたら負けだ! などと何と戦っているかわからないことを考えながら、オズと向き直る。
「じゃあ、俺がこのあとお願いすること、やってくれるって約束して」
「ああ、この後お前がねだることをしてやると、約束しよう」
 あーあ、本当に約束しちゃったよ。俺が悪い人だったらどうするんだか。まあ、南の優しいお医者さん先生は、悪いことなんて考えないけどね。などと、約束させた本人が言っているのもおかしな話だ。
「何をして欲しいんだ」
「そうだな……じゃあ、キスしてくれる?」
「は?」
「キスして、って言ったんだよ」
「……どこに?」
「子どもじゃないんだ、大人がキスしてってねだったら、どこにかはわかるだろ?」
「…………」
 俺は椅子の上。オズが俺の正面に立つ。見上げる俺、見下ろすオズ。俺は少し上を向いてやり、オズはそのまま俺の顎を掬う。窮屈そうに腰をかがめて、顔を近付けてくる。垂れた髪が俺の視界の光量を減らしていく。カーテンみたいだな、俺の部屋カーテン無いけど、なんて能天気なことを考えながら、ぱたりと目を閉じてオズの口付けを受け取る。
 背後で、かちゃ、という小さな音が鳴る。よかった、ちゃんと約束カウントしてもらえたようだ。
 すぐに離れて行ってしまった唇を少し名残惜しく思いながら、瞼を開く。
「結局何だったんだ」
「なんかね、約束しないと出られない部屋だったらしいよ?」
「なんだそれは」
 眉間に皺を寄せて質問してくる。それは俺も聞きたいけど。まあ、無事に開いたし、犯人探すのは部屋出た後でいいでしょ。ということにして、扉に向かう。
「フィガロ」
「なに?」
「なぜキスをねだった」
「え、気分? 別になんでも良かったけど。どうせならおまえのこと、からかってやろうかと思って」
「…………」
 ご不満顔である。そりゃそうだろう。ここを出たらご機嫌取りでもしてやろうかな。
 ふふ、と笑いながら扉に手をかける。がちゃりとノブを回し出る瞬間、くん、と腕を引かれ、後ろにバランスを崩す。
「うわっ」
 転ぶ、と思い、ぎゅ、と目を瞑る。だが、身体に衝撃は訪れず、オズの腕の中へと抱き留められ、先程よりも強引に、濃厚に、唇を奪われる。
「んっ」
 先程の触れるだけの物とは違う。オズの厚い舌が捻じ込まれ、俺の薄い舌を絡めとっていく。転びかけだった身体を支えるために、縋りつくようにオズの服を掴む。
 ギブアップ、とばしばし背中を叩いてようやく解放される。息を奪われ物理的に赤くなった顔でオズの方を見やる。
「口付けなど、約束せずとも、いつでもする」
 いや、そういうこっちゃないんだけど……。という俺の突込みは虚空へと吸い込まれていき、この謎の部屋を出てからは、オズの自室へと引きずって行かれたのだった。
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オズフィガ週ライ:第四回「○○しないと出られない部屋」
初公開日: 2021年08月28日
最終更新日: 2021年08月28日
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無人へのお題は『残された希望・君の総てを飲み干したい・夢は夢にしかならず』です。
無人へのお題は『残された希望・君の総てを飲み干したい・夢は夢にしかならず』です。
なしひと
140字 今日のテーマ→期待
思いつきで140字書きます。まあいつものやつです。30分以内に終わりたい。終わらなかったら一回区切っ…
夕緋
202009192109
新刊の下書きです。BF。A&E(性的表現なし) リーマンパロ的なものです
多花巣うみ