「星に願いをかけるならわしは愛おしいですね」亡失の御伽噺は呟いた。
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流しそうめんをやろう。と奏が言い始めたのが先程。その勢いに流されて言葉と眞那が首を縦に振ったのが数瞬前。すべてあっという間の出来事だった。彼女たちが言葉の世界に現れてから、時間の流れが加速されたようだ。
魔法で竹を組み合わせて装置を作る。竹を生み出したのは眞那の力で、当人曰く「蟲とか連れてくるなら得意だけど、青竹ってキャラじゃなくない?」とのことだ。しかし、彼女の魔力によって瑞々しく香る青竹は空中にずるりと引き出された。一瞬のできごと。あっという間に学院の真ん中に竹の塊が積みあがる。
「そらに伸びる高きもの。直ぐに伸びる硬きもの。そのかたちをつくりかえて。どうか、ぼくたちのために、この一時、その身をお貸しください」
物語を語るように、青竹へ語り掛ける。魔素を流し、するすると大量の竹を組み合わせてゆく。半分に割られ、組み合わされ、それは流しそうめんの装置となった。
奏はと言えば、食堂にそうめんと氷、つゆをもらいに走りだしていっていた。魔法に頼らず、自身の足で駆け出しているのが彼女らしい。暫しもないうちに戻ってくるだろう。
疾風みたいな人だ。と笑う。眞那も同意して笑った。胡蝶の悪夢は、蝶がその翅を舞わせるようにやわらかに笑う。指摘すれば、きっとその笑みを引っ込めてしまうのだろうけれど。
「星に願いを書けるならわしは、愛おしいですね」
言葉は呟いた。聞き取れなかったのか、ん? と眞那は首を傾げる。流れるそうめんを星に見立てて、それを掬うならわしは、言葉も知ってはいた。
その行いを自身がすることになるとは思いもしなかっただけ。七夕という物語をヒトが作り、語り継ぎ、ならわしを伝えてゆく。いざ体験してみれば(まだ準備をしただけだが!)それはなんと楽しいことか。
それは、訪問者である彼女がいなければ紡がれなかった物語だった。永久の物語。その一部として自身たちがあること。大きな物語の中に組み込まれてみること。自身とはひどく縁遠かったそれが、今はこうして身近にある。
「胡壺さんは、不思議だなぁって思いませんか」
「思うよ! 僕ら、お祭りに参加って柄じゃないし。なんでだろ~ってなるもん。そりゃ朧さんが提案してきたら叶うだろって思うけどさぁ……」
――彼女にはそういうパワーがあるよね。僕にはないもの――
手と首とを振って、しかしその苦笑は真実嫌がっている風ではない。振り回されるのが結局楽しいのだと、口よりなにより表情が物語っていた。
「持ってきーたよー!」
朧の名を抱くわりに、確固とした存在感でもって奏は帰ってきた。両手に茹でたそうめんの鍋を抱えている。
「もしかしてですけど、めんつゆと氷はもう一往復ですかね……」
「そうみたいだね……」
遠目に見てやれやれと笑う。準備だけでもひと騒動だ。こんなにも催しものが楽しいのだと、言葉は知らなかった。忘れていたのではなく、知らなかった。
彼女たちのおかげで知ることができた。だから、言葉は思う。
たまには、魔法でなくって、自分の足で、三人で並んで、めんつゆや薬味やその他を食堂まで取りに歩くのも、悪くないかもしれない。
それが、新たな物語になるのだから。