ウルダハの富豪が、腕利きの冒険者や傭兵を集めたのが一週間前。
その大規模商隊の護衛に就いたのが三日前。
その中で相棒を見つけたのが一日前。
護衛任務の成功を祝った豪勢な宴から抜け出したのが十数分前。
「おい相棒、しっかり立てよ」
「ん~……」
月が頂点に近付いたウルダハ。街灯の明るい通りは、未だに人の気配が途切れていなかった。
隣を歩く小さな相棒は顔を赤くし、肩をしっかり抱いていなければまともに立っている事も難しい。イシュガルドにいた頃からこいつが酒を飲んでいる姿を見た事は無かったが、まさか酒の匂いだけで酔っぱらうとは思いもしていなかった。いくらなんでも弱すぎるだろう。俺がいなかったらこの状況であの場をどうするつもりだったのか聞いてみたい。どうせお気楽な返答が返ってくる事になるだろうが。
俺の呆れを余所に当の本人は、うーだのあーだの呻きながら体を振り子のように振っている。
「あまり暴れるなよ。こけても知らないぞ」
「うふふ~、だーいじょーぶー」
締まりのない笑顔を見せたと思ったのも束の間、その体ががくんと落ち込んだ。躓いた、と気付いた時には腕の中から肩が滑り落ちていた。
「っ、おい!」
落ちた肩を掴もうと慌てて腕を伸ばす。しかし相棒は、躓いた千鳥足とは思えない程しっかりと踏み込んでいた。くるり、と目の前で白い尾がたなびいた。捕まえようと手を伸ばすも、軽い足取りでひらりはらりと躱されていく。その足捌きから、先程までの不安定さは一切感じない。一歩追いかければ一つ跳ねる。足を戻せば同じだけ戻ってくる。どうやら気が済むまでここから動く気は無いらしい。だとしてもこのまま放っておく訳にもいかず、ひとまずは気の済むまでやらせておく事にした。
「ふんふふ~ん……♪」
壁に背を預けて見物する。鼻歌交じりに踏むステップは、どこかから聞こえる演奏に合わせているらしい。石畳を小さく鳴らして舞う姿は、即興のものにしては些か出来すぎている気がした。
「何処かで踊りでも習ったのか?」
「んー。踊り子さんとねぇ、ともだちになったの」
芯の無い声でも、その足捌きは精細だ。軽やかに跳ねて華やかに回る。上体が動かないのは装備が邪魔をしているからだろうか。動きが制限されていても、それを感じさせないステップは見ていて飽きないものだった。
やがて穏やかな時間は終わりを迎える。最後に強く踵を鳴らせば、周囲から拍手喝采が響いた。いつの間にか野次馬が集まって来ていたらしい。にこにことお辞儀をしているあっという間に、相棒の小さい背が人混みに埋もれてしまう。それをかき分け、どこの誰とも知らない奴に掴まれかけた細い腕を取る。
「気が済んだならな宿に帰るぞ」
「んー。かえる~」
俺に腕を引かれながら野次馬に手を振るこいつは、今の状況が理解出来ているのだろうか。……出来てないだろうな。再び振り子の様に揺れだした頭を見て、大きな溜め息がこぼれ出た。