彼女は音もなく静かに鋭く息を呑んで目を覚ました。全身冷や汗をかいている。声は出さずにすんだので、隣で寝ている直哉は起きてはいないようだ。彼女は直哉の腕のなかからそっと這い出て声を殺して泣き始めた。
 彼女はひどい悪夢を見た。直哉にもう興味ない、用済み、要らないなどとひたすら罵倒される夢だった。彼女はいつそれが正夢になるかわからない恐怖とたたかっているので、そんなことはないと思いつつも夢の中の直哉の言葉ひとつひとつが彼女を確実に貫いていた。
「っ……!」
 できるだけ物音を立てないようにして静かにティッシュを引き抜き目頭を抑える。それはまたたく間に涙に濡れていって役目を成さなくなっていく。荒い呼吸を抑えるのに息も止まり苦しい。肩をガタガタと震わせていると背中から声がかかった。
「どないしたん。なんで泣いとるん」
 直哉が言いながら上掛けを剥いで半身を起こす。彼女は振り返り頭を下げる。
「申し訳ありません。起こしてしまいましたか」
「俺が気づかへんわけないやろ。それよりどないしたん。怖い夢でも見たんか?」
「……はい」
 直哉は冗談で言ったのだが是の返事が返ってきて驚いた。布団の上で胡座をかいて彼女に向き直る。
「泣くほどか」
「……直哉様に、嫌われてしまう夢でした」
 彼女は抽象的に濁して言った。夢の中で直哉に言われた言葉を自分の口に実際出して繰り返すことはとてもできなかった。
 彼女はず、と鼻をすすって用済みのティッシュをくず入れに放り込む。またそれが夢の中の自分と重なって勝手に萎縮する。
「アホらし。そんなことあるわけないやん。オマエは考えそうやけど」
「……そうですね」
 どこまでも自信なさげな彼女を直哉は静かに優しく引き寄せた。膝の上に横向きに座らせて彼女の肩を抱き背中をさすってやる。一応涙はもう止まっているように見える、その不安げな顔を見て直哉はカマをかけてみた。
「また誰かに何か言われたんか」
「、どうしてわかるのですか?」
「オマエのことなんか顔見たら全部わかるわ」
 べ、と舌を出して見せながら直哉が言う。実際彼女が不安定になるのは形上の正妻か、屋敷の者と何かあった時のことが多い。
 彼女が言うには、昼間屋敷の廊下で正妻とすれ違ったときに「役立たず」と呟かれたらしい。正妻様はいつも面と向かって嫌味を言ってきたり時には殴りかかる勢いで敵意を向けてくるので、珍しく静かなそれが逆に心に残ってしまったらしい。その話をしながら彼女は直哉の腕の中でまた小さく震えた。直哉は半ば呆れながら彼女の頭を撫でてやる。
「オマエは俺の側におればそれだけでええ言うとるやろ」
「はい……」
「こら簡単に眠れそうにあらへんな。白湯でも用意しよか」
「とんでもないです。直哉様にそのようなこと……」
「俺でも湯沸かすくらいできるで」
「そうではなくて……それなら私が」
「ええから黙っとき」
 直哉は彼女を自分の膝から降ろし、布団の上掛けを肩に掛けてやってから立ち上がった。ポットとやかんとどちらが早くお湯が沸くだろうか、などと考えながら、
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悪夢で目覚める話
初公開日: 2021年06月23日
最終更新日: 2021年06月23日
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二次創作、夢小説につきご注意ください。
じゅ、直