作業用BGM:サカナクション / 多分、風。 -Music Video-
https://youtu.be/8lx0vLTH_ygイトヲさん アスカさんのララちゃんと水晶公のお昼寝姿
さわさわと梢が葉をこすり合わせる音を立てる。同時に、クリスタリウムの紋章が描かれた帆が風を含んでたなびいた。
今日はやや風が強い。周りを山に囲まれたここは少しばかり風が冷たく、街を歩く民たちもいつもより着込んでいる者が多かった。
「寒くないか」
「んーん。ラハがあったかいからへーき」
「なら良いのだが……」
小さな体を左腕で抱き寄せる。すっかり冷えているであろう水晶の右手は、後ろ手に体重を支える役目を与えよう。
冷えた空気に、強く吹く風。ふたつの条件が合わされば、当然、雲なんてひとつもなく。
天上の世界は青のカララントが入ったバケツをひっくり返したような色をしていた。空の向こう側さえ見通せてしまいそうだ。
「あまり外に長くいると風邪をひいてしまう。そろそろ戻らないか」
「えー……」
こういう時の彼女の声は、少々不満げな、いまいち納得のいっていない時のものだ。
「んー…………ね、カバンとって」
「ん? あぁ」
右手を地から離し、姿勢を正す。傍らに置いてあるカバンの持ち手に指を二本ひっかけた。それを冒険者の丸い膝の上に乗せる。
「どうぞ、マイレディ」
「なぁにそれ」
私のおどけた声に、冒険者が面白そうにけらけらと笑った。彼女は無造作にカバンへ手を突っ込み、がさごそと中身を探る。
「よ、っしょ……えいっ」
「ああ、私がやろう」
出てきたのは、厚手の毛布。カバンの容積からはありえないサイズなそれの一端が出てきた。せっせと毛布を引っ張り出そうとする彼女の手を止めさせ、代わりに私が一気に引き抜く。
「それっ」
ばさり、気持ちの良い音を立てて毛布が宙を舞った。風に乗って砂や鉱石のかけら、更にはなにがしかの紙の切れ端のようなものもぱらぱらと飛んでいったが、今は彼女を咎めないこととする。
いったん冒険者を膝から降ろし、立ち上がる。ばさ、ばさ、と何度か毛布を大きく振れば、次第に何も出てこなくなった。
「そろそろカバン整理しなきゃねえ」
「そうだな、そうしてくれ。できれば、私に言われる前に」
「ちぇー……」
渋々といった顔で毛布を受け取った冒険者は、私にもう一度座るよう指示する。
言うがままにすると、不純物のなくなった毛布を肩にかけられた。その頃には、彼女が私に何をさせたいのかはとっくに分かっていた。右腕に毛布を巻きつけている間に、冒険者は毛布のすそと私の腕をかいくぐって先程までの位置に収まり、その時をいまやいまやと待ち構えている。
「さて、そうだな……カバンの掃除ができない悪い子は、毛布のおばけに閉じ込められてしまう……ぞっ!」
「ひゃあ!」
冒険者を抱きしめるように、その小さな体すべてを覆うように毛布をかぶせる。おあつらえ向きのように、毛布のふちにはいくつか紐が縫いつけられていた。それを適当に結び、隙間風の対策を済ませる。
「ふふー、あったかい」
外界と遮断された毛布の内側の世界は、冒険者のやや高い体温のおかげですぐに暖かくなった。じわじわと体の芯が熱を取り戻していく。私の体も少々冷えていたようだ。
その心地良い感覚に身を任せていれば、私の胸元に身を預けた冒険者がまばたきの回数を増やした。重さを増していくまぶたはあっという間に開くことを忘れ、くりくりした瞳を隠してしまった。
彼女の眠気を追い打つように、背中を指先で優しく叩く。かくり、冒険者の頭が揺れた。
「しばらくしたら起こそう。それまで、ゆっくり寝ているといい」
「……おやすみ」
「おやすみ」
しばしの空白の後、すう、と深い呼吸が聞こえた。安心しきった寝顔に口元が緩む。
「──ああ。今日も、良い天気だ」
再び見上げた空は、先程より青を深めている。その色を目に焼き付けてから、まぶたを閉じた。
次に目を覚ました時。もしかしたら、私の瞳は真っ青に染まっているかもしれない。
ED サカナクション / 目が明く藍色 -Music Video-
https://youtu.be/Xcj-SVs31cQ