ベランダに出て、折り畳んでいた小さな椅子を広げて座る。青い柵越し、夕日に焼けていく街並みを眺めながら、煙草に火をつけた。口の中に煙が満ちて、吐く。どこか遠くでクラクションが鳴っている。
全部、あいつのせいだ。
夕方になるとこうしてベランダに出て静かに煙草を吸うのは、いつしか習慣になっていた。習慣などと、健康的な言葉は相応しくないかもしれない。そう思いながら、足元の焦げた空き缶の中にある吸殻に目を落とした。
こんなに吸うようになったのはいつからだったか。煙草はやめろと、眉を顰めるうるさい誰かがいなくなってからかもしれない。
立ち上がって、青い柵に手をかけた。腕を組んで顎を乗せる。そういや、髭もしばらく剃ってない。でも別に、誰が気にするわけでもない。
そう考えながら、脳裏には怒り顔のあいつがいる。最後に見たあいつの顔は、泣いていたのに。
男の一人暮らしはなにかと大変だろうとおじさんは事あるごとに、俺の家へ行くようあかねに伝えていたのだという。
だけど、それはあいつの言い訳だと何度目かの週末には気づいていた。あいつの意思で、側にいてくれるのだと……俺は過信したのだ。
――もう、会いに来るの最後にする。
どうしてあの時喧嘩したのか、もう覚えていない。
そう言われても、どうせ週末になったらケロッとした顔で家に来るんだと思っていたのに、あいつは来なかった。その次の週末も、その次の週末も……ずっと来なかった。
こんなふうに終わる関係は、きっと普通なんだろう。ある日突然疎遠になって、そのまま。
だけど俺は、俺とあいつとは、どこか特別だと思っていたのもしれない。あいつの優しさに凭れかかって保たれていた関係の糸がぷつりと切れてしまったことを、中々認められずにいた。
そんなとき、雇われている道場で指導者同士の交流試合に出てほしいと言われて出場したものの、その試合で腕を怪我した。
大した怪我じゃない、おそらく俺より相手の方が重体だ。しかし、それが悪かった。
やりすぎだと、雇い主は怯えた光が潜んだ瞳で困った顔をしていた。怪我もあるししばらくゆっくり休んではどうか、そう言われて、わかりましたと答えた時、電話越しでもわかるほど声は安堵していて、少し笑った。
休職という形にしてもらえたことは、運が良かったんだろうなと他人事のように思ってまた煙を喫む。
あかねが若い男を実家に連れてきたと、なびきから聞いたのはいつだったか。
先ほどより深く煙を吸い込んだせいか、眉間に皺が寄る。
きっと、あいつが欲しかった言葉や態度は大したものじゃなかったはずなのに、俺は与えてやれなかった。
噛み潰した煙草の苦さが今更目に染みて、柵の上に投げ出した腕に顔を埋める。
容易く手の届く、ほんのすぐそばにいた時はいくらも気にかけてやれなかったのに、今になって四六時中、あいつのことを考えている。
昨日の夜に初めて出会って昼過ぎには居なくなっていた女の顔には靄がかかるのに、悲しげなお前の目だけが瞼の裏から消えてくれない。
また夜が来る。責めるような瞳から、もう俺のものではない笑顔から逃れるための、夜が来る。
そうさ、全部――
電話は鳴らない。鳴るはずもない。
――――
とりあえず今日はここまでにしますー!!!
これはも少し詰めて整理します🤔
明日は高校生2人の仲直り書けたらいいなと!