「なー、ごめんって」
机に向かう薄情な背中は、まるで俺がいないみたいな素振りで宿題にペンを走らせる。
絨毯にあぐらをかいて足を揺らしながら、もう一度、おーい、と呼びかけてもやはり応答はない。意地っ張りめ、と口を尖らせる。
ある時から、あかねは俺がどうすれば一番堪えるのか、わかるようになっていった。今現時点で無視されてるのと目を合わせてもらえなくなっているのはその一部だ。
「あかねさん?」
「……」
「あかねちゃん」
「……」
うーん、裏声でもだめか。
少し前までは、変な声で一回笑わせれば勝ちみたいなところもあったのだが、どうやら今日はだいぶへそを曲げているらしい。
あぐらをかいた膝に肘をついて、乱馬はうーん、と声を出さずに考える。ドアの方に視線を送って、また、風呂上がりというだけでなく湯気が出ているあかねの後頭部を、見ていた。
(ぜ……ったい、ふざけてる)
間延びした声に、どうせ許してくれるだろ? という自信が滲み出しているのが、背中越しでもあかねにはよくわかった。
だいたいいつもそうだ、乱馬は真面目に謝るということを――特にあかねに対して、全くもってしない。変な顔したり、変な声で呼んだり、笑わせれば勝ちだと思ってる。昔からいい加減な奴だったが、こうして近しい間柄になってからというもの、その態度は日に日に悪化しているとあかねは思っていた。この間の喧嘩の時だって、授業中まで変な顔で笑わせて、あかねがわかった、許す、と根負けするまでしつこいったらなかった。
(しかも、わかればいい、ですって。怒ってるの、私なんだけど?)
その時の苛々も上乗せされて、あかねは眉間の皺を深める。
もちろん、悪いところばかりじゃない。憎たらしいところは正直数えきれないけれど、あかねが頓珍漢な謝罪を笑って受け入れるたび、乱馬は、やけに満足そうに笑う。わかればいいんだと、妙に優しく、笑うのだ。
(……いや、違う違う違う、怒ってるんだってば私は)
机に突っ伏して、自分にだけ見える角度から見えた、油断し切った笑顔を思い出して、下唇を噛みながらシャーペンの先でぐるぐる、意味のない円を描いた。
(だから、今日はだめ、ちゃんと謝るまでは――)
「あかね」
その円に影が落ちたことに、肩を引き寄せられたことに、一瞬遅れて気がついた。咄嗟に顔をあげた先、まだ少し濡れた前髪が触れる。
「――っ」
「ごめんな?」
待ち侘びたはずの、謝罪の言葉。けれど、あかねにはよくわかっていた。少し細められた瞳と、悪戯っ子みたいなにんまりした笑い顔。
「あ」
あんた、いい加減にしなさいよ! そう言ったはずの唇は、馴染んでしまった感触に塞がれて自由を奪われた。ほとんど反射的にふりあげた手は、憎らしいほど手早く的確に捕まえられる。
この手際の良さ。これも、付き合いだしてからというもの、乱馬が覚えてしまった悪い癖だ。笑わせるのより、よっぽど性質が悪い。そういうことになだれ込んでしまえば、勝ち――いつしか乱馬は、そう学習してしまっていた。
悔しくてつぶらなかった瞳の先で、嬉しそうに細められる猫みたいな瞳。
「……っ」
その瞳がぱっと開いて、少しだけ離れる。
ほんのり滲む鉄の味。鼻先が触れる距離にあるもう一つの唇に、ぽつんとついた紅。
「……へぇ」
それを、細い舌先が確かめるように掬い取る。乱馬は少し考えるみたいに、首を曲げて視線を外した。
「やったな」
楽しげにそう囁いた吐息が唇に触れた刹那、また、唇が重なる。いつのまにか掴まれていたはずの手首の代わりに、指先が絡んで離れない。
反抗のつもりでぎゅう、と指先に力をいれたのに、それより強く握り返され、そうじゃない、と首を振った。
「――、は、あんたねえ……っ」
ようやく唇を離した聞き分けのない恋人は、やっぱりにんまり、楽しそうに笑っていた。
「ごめんな?」
「……」
二回目の謝罪にも、誠実さなんて感じない。首を傾げて、リズムをとるように絡み合った指を握ったり離したりする。
「……今回だけ、だからねっ」
そう言えば、乱馬はまた、あの時と同じ顔をする。他の誰にも見せない、油断し切った――安心し切った顔で、笑った。
そして今度は二人、同じ速度で瞼をおろして、もう一度確かめるように、唇を触れ合わせた。
――
はーーーーー
なんぞ
すいません雑になってしまった
とっ散らかりましたwwww
コメ欄の皆さまありがとうございます!!!
すがさんのすばらしけんかキッスイラストみんな見てね