「ふぅ」
刀を納刀する。
ってところで刀を持っていないことに気づく。
あ、そっか、刀持ってない状態でのことだったか。
ジジイとの戦闘が続いていたせいで、かなり入ってしまった。
これではジジイと変わらない。
「大丈夫? いち……」
「怖かった!!!」
目の前に土下座の姿勢でいる一護に手を貸すと、いきなり一護の顔がバッと上がる。
驚いたが、一瞬で思い立ち、
「ごめん」
「なんだありゃ?!」
「あはは……」
とりあえず笑って返すことしかできない現状。
さきほどしたのは、ただの溜めが長く、使い物にならない呼吸。
集中した分だけ威力が上がる呼吸だが、これほどまでの時間は戦闘では生まれない。
だからこそ、使い物にならない呼吸。
しかし、時としてそれを使うときが来る。
それが今だったということだ。
「おやおや黒崎さん、なーに土下座しちゃってるんスか?」
「うらっ?! 何いってんだ……」
浦原さんがどこからともなく現れる。
いきなり出現するのは驚く。
敵意がないから察知しづらいのは確かなんだけど、それ以上に気配を隠すのが上手い。
一護は、浦原さんの言葉に自分の姿を見る。
俺の呼吸の圧力に対して、一護は気合でなんとか乗り越えた。
更には、俺の一撃(刀なし)を自分の体を動かすという強硬策で避けていた。
意味わからない行動であったのは確かだが、結果として避けて生きることができている。
「これは勢い余って!」
「いやいやぁ、そんなに怖かったんスかね? 源氏さんのこと」
「それは……」
一護の言葉は尻すぼみになる。
言いたいことは分かる。
俺はその一護の微妙な表情に対して、ちらりと、後ろにいるジジイのことを見た。
「自身の価値観で、決めるがいい」
こういうとき、やはりジジイは厳しい。
……いや、優しいときなどなかったな、訂正。
「一護。
多分俺のことについて聞きたいと思うから、話す」
「源氏」
一護の表情は、申し訳無さそうな表情だった。
「では、黒崎さんの次の修行まで少し休憩にしましょう。
今回の修行の成果である、霊体での肉体以上の動き、という点では解消されたっすからね」
「……あ」
「おそらく、何度も何度も動いては源氏さんに斬られる未来を見た中で、霊体は常に氏の危険にさらされ、強化されて言っているはずです。
それを慣らすためにも、一度体の中に入り直しましょうか」
浦原さんからの助け舟。
俺は少しホッとしつつも、何を話そうかと、顎に手を当てた。
☆☆☆☆☆
「おっ」
「よっ」
一護が体の中に戻っている最中、少しの時間で自分が何を話すべきかと検討していた。
そこで、思った。
俺が話すには、俺、自分のこと知らなさすぎでは?
俺の正体だって浦原さんに聞いたくらいで、俺はただひたすら殺されそうになっていた人、だよ?
それで何を説明しろと?
いきなり森の中で3年間住んでて呼吸身につけた☆ なんて理解できるか?
「ちょ、待って」
「うん」
トイレとでも思っている表情を尻目に、俺は少し遠くで佇んでいるクソジジイに近づく。
「おい! ジジイ!」
「なんだ?」
「俺、自分の正体知らなさすぎなんだけど、どうすればいい?!」
「……浦原から聞いてないのか?」
「全部覚えれるわけ無いだろあんな話?!」
一応覚えてはいるが、説明できる自信がない。
というか、説明するにもクインシーの説明から……
「石田くん知ってるやん」
「ん? 石田……あぁ、そういうことか」
ジジイの反応に少し違和感を感じながらも、早く一緒に来いと待っていると、
「良い良い、お主の知っていること、経験をしたことを話せば良い」
「はぁ???」
何を言っているのだこのジジイは。
そんなことを言っては理解できないに決まっているではないか。
「今更源氏の実力を見て、その話を理解できないと思うのか?」
「いや、森に入っていたとて呼吸とは」
「それならば普通の人間なのに死神になる方が」
「……確かに」
ジジイとの少しの会話で言いくるめられた俺は、すごすごと一護のもとに帰る。
「大丈夫か?」
「大丈夫」
「……そうは見えないけど」
「別に気にするほどか?」
「俺から見れば即病院に行くレベルだけど」
手持ち無沙汰にしている一護に声をかける。
どうやら先程から俺の体のことを気にしてくれているようで、いい友達だなと素直に感じる。
けど、正直この程度の怪我で痛いとかやばいとか言ってるのは無理だ。
「あ、痛いには痛いのよ」
「痛いには痛いのか」
「だけど、これくらい無視できるくらいじゃないとやばいってだけで」
「痛みを無視?」
何やら変人を見る目で俺を見てくるが、不思議なことでも言っただろうか。
一護だって結構な大怪我をしていることに変わりはないのだから、どっこいどっこいなのでは?
というか、常中を行っていればこの程度の怪我は筋肉の収縮で結構塞がるし、自然治癒能力も上がるし、死に際分かるし、平気平気。
「んっと。
俺の話なんだけど」
「……あぁ」
「正直、信じられない話ばっかりだから、話半分にでも聞いてくれれば助かる」
「……覚悟はしてる」
「助かる」
いい友達だ。
固唾を飲んでいる一護に感謝しながら、俺は話し始める。
話す内容は、俺が石田くんと同じクインシーの系列の人間で、死神と似た戦い方で虚と対抗する人間だということ。
クインシーと同様、現在ではかなりの数の粛清が行われ、数少ない滅却師の一人となったこと。
そして、自分が滅却師だと知らず、生き残るすべを身につけるためだけに、ジジイにしごかれ、山の中で中学3年間を過ごしたこと。
そして身につけた、呼吸という技術。
体内にめぐる血流の流れ、そしてエネルギーの循環を、呼吸によって回すことにより超人的な力を得る術。
大雑把に、しかし簡潔にわかりやすく述べた。
しかしまぁ、話していて思ったのが、俺の人生やべぇ。
何をトチ狂った人生なのだろう。
正直、されると前世の話云々の話をしないと難しい部分があるので、なんと言い逃れをしようかと考えていたが、
「………………それだけ?」
俺の話を聞き終えた一護から出たのは、その一言だった。
「へ?」
思わず聞き返す。
いや、聞き返すだろ。
それだけ、とは。
思わずグーグル検索みたいな返しをシてしまいそうになったわ。
「源氏は、それで強くなってここまでしてるのか?」
「……まぁ、死にたくないし」
俺の真面目な言葉に、一護は空いた口が塞がらない様子、といったところだ。
何か不思議なことでも話しただろうか。
自身の話したことを反芻していると、
「いや、なんか……源氏っぽいなぁ」
「源氏っぽい???」
「なんか、こう、なんて言えばいいのかわからないけど、源氏だなぁ、って感じの理由で」
「答えになってないぜメン」
「普通、死にたくないからって理由で強くなるか?」
それは死なないために最低限の自衛を……というところで、気づいた。
ここまで強くなる必要ないのでは?
というか、逃げ特化した訓練をしていればよかったのでは?
頭の中でピースがカチリとハマった感覚。
「一護に正論を言われた……」
「なんで俺が正論を言うとだめみたいな感じなんだよっ?!」
「別に悪くはないけどムカつく~」
「ギャル風に言うなよ」
こうなってしまった原因を遡りながら、改めて反省する。
言われてみればここまで強くなる必要はなかった。
それこそ、昔の俺からすれば最低限の刀の扱い方だけ覚えて、それ以外は足回りに集中して鍛えるべきだった。
だけど、中途半端に力をつけてしまった。
「でもなぁ……。
後悔してないなぁ」
「っ……」
俺の口から出た言葉に、一護は言葉を呑んだ……様な気がした。
顔に手を当てているから、顔を見なかったから、分からなかった。
「どうして、源氏はそう言えるんだ?」
「確かに反省はある。
もっと強ければ、とか。
ここで逃げ切れれば、とか」
訓練してたときとかは基本反省してた。
生きて、なんとか生き延びて、反省して、次に活かす。
それだけ。
まじでそれだけ。
「でも、俺がここまで強くなっていたからこそ、俺は後悔しない選択をしてきた。
それは言える」
反省と、後悔は別。
俺は俺の選択を悔やんでない。
女の子に告白したことから、銀髪野郎に胸を刺されたことまで。
その選択は俺がした選択で、こうして生きているのは、ここにこの状態で生きているのは、全て俺が選んできたから。
「源氏は、すごいな」
「そうか?」
「すごいよ。
俺は、後悔ばっかだ」
「別にいいだろ、後悔」
「へ?」
なんださっきの俺みたいな顔嫌がって。
こんな場所で辛気臭い顔してると死ぬぞ?
俺は数回死んだと思った、ここで。
「俺は選んだから後悔しなかった。
普通はそんな意識して選ばないって」
普通に生きてきて、選択を強いられることはない。
一護だって、幽霊が見えるだの何だの言っておいても、結局は普通の人で。
死神になろうとその身に染み付いた普通は抜けない。
だからこそ、選択をし損ねる。
「大事なのは、それで死んでもいっかな、って思える選択をすること。
後はそれで死なないこと」
ちなみに俺は死んでもいいと思う選択はしてきたけど、絶対に死にたくない。
というかこれで死んだらマジで死ぬので死にたくないから死なない、という小泉構文なのでつまりそういうことだ(適当)
「とりあえず、俺の人生はそんな感じ。
今の目標は、俺を殺しかけたあの銀髪クソ野郎を半殺しにすること」
「えぇ……」
「ついでに朽木さんも救ってやるわ」
「俺が言うのも何だけど……可愛そうだなぁ、あいつ」
なんかくしゃみが聞こえたような気が……しなくもない。
生命の気配がないこの空間で、怪我だらけの俺は立ち上がり、呼吸を始める。
もちろん、息抜き。
「俺はちょっとちゃんと強くなるから、一護も頑張れよ」
「ハハハッ」
「どした?」
「いや、なんかさ、人間って結構死なないんだなって思った」
「……いやいや、日常に死、めっちゃ潜んでるから」
「ハハハハッ」
一護に笑われる義理はないが、笑っているくらいの一護のほうが丁度いい。
「じゃ、また」
「また」
軽く手を振り合い、俺はジジイのもとに向かう。
「おいジジイ」
「なんだ?」
「死闘しようぜ」
「よかろう」
瞬間、俺の体の塞がりかけの傷が、一気に開く。
汚い再戦の合図だ。