「なぁ、ヤミー」
「あん?」
今から行うのは、足止めだ。
ヤミーの気を逸らして、チャドと井上の命を繋ぐ。
あわよくば2人が逃げれるような状況を作る。
正直、人間でもないこいつらを足止めするとか、正気を失っていると思ってくれて大丈夫だ。
正攻法は力でわからせるのが一番いいのかもしれない。
けれど、そんなことできないし、したらどんな方法だろうと結果として俺が死ぬ。
今信じるのは、腕っぷしでもなんでもなく、人よりニ倍は生きている自分の舌のみ。
だから、まずは問いかけから行う。
「そんなゴミ潰して楽しいのか?」
「楽しいぃ? 何言ってんだよテメェは」
「違うのか?」
「人間だってやってるだろ? 蟻を潰したり虫の羽をちぎったり。
あれと同じだ、そこに感情はねぇ」
やっぱり。
この2人は、強い。
だからこそ、無頓着だ。
生き物の命に。
これが中途半端に強くて知恵が回るヤツだったら危なかった。
「なら逆にもっと面白くしてみないか?」
ちなみに今更だが、首輪のこともちゃんと考えてる。
俺だって仲間を助けたいから自分の身はどうなってもいい、なんて思っちゃいない。
いや思いたいけど俺は自分の命大事だからね?
俺はどっかのばかみたいなお人好しでもないので、勝率のある賭けを行う。
「なんだぁ? テメェが俺を楽しませてくれるのか?」
「まぁ極端な話、それでもいいさ。
ただ、俺は今手を出されないと……」
次の瞬間、俺の視界はブレる。
景色は前方へと過ぎ去り、背中に衝撃を感じる。
「おいおい、雑魚かと思ったら本当に雑魚じゃねぇかよ」
「……」
「ウルキオラも止めねぇよ!
ははは、お前本当にツイてねぇな!」
先程まで数歩先にいたヤミーの声が、遠くに聞こえる。
怒鳴り超えがでかいせいで、結構ふっとばされてもヤミーの声だけが聞こえる。
ま、調子に乗ってくれればそれで良し。
ちなみにさっきまで張り巡らせていた霊圧は、トンと消してある。
ヤミーからすれば、気絶したかのように見えるだろう。
「うし」
俺は、一切ダメージがない体で、霊圧を調整する。
俺は霊圧に関しては、虚圏に来るまでふわっとしか理解していなかった。
それこそ、殺気とかそういうのとごちゃまぜにして感じていた。
それが虚圏に来ることによって、純度の高い霊子空間によって、俺は霊圧の独特な感覚を理解することに成功した。
結果として、できるようになったのが、
「クソ……」
霊圧の調整を行うことができるようになった。
手加減を、覚えることができたのだ。
無呼吸呼吸により、俺は自身の中の手加減ゲージを覚えた。
今までは、呼吸による100と、息抜きによる0に使い状態と、通常の状態しか知らなかったから、できなかったこと。
「生きてやがったか。
しぶてぇやつだ」
「いきなり何すんだよ……。
こちとらお前らと違って頑丈なわけじゃないんだぞ」
「あぁすまねぇ。
ちょっと小突いただけでこれだもんな!」
腕を抑えて、少し足を引き釣りながら、苦しい声を出す。
霊圧は弱々しく、呼吸を浅くする。
チャドと井上も、俺の姿を見てこっちに駆け出そうとしている。
それを制するように、タイミングを見計らって、
「あぁ、そうだ。
これでも俺は今回のターゲットの仲間なんだぜ?
俺を利用すればいい」
「おいおい、それじゃあなんだ、オメェをもっといたぶればいいってのか?」
「そ、そんなことはいってな」
「あ? なんだってぇ?」
情けない声で命乞い。
しかも仲間まで売るような素振りを見せる。
そんな会話の最中に、ヤミーは耐えきれずに俺のことを攻撃してくる。
移動方法が旬ぽと似ているが、少し違う。
なんというか、スキーとスノボくらい違う移動方法で近づいてくる。
攻撃方法も、ちょっと面白い。
拳に霊圧を込めて殴ってる。
インパクトのときの衝撃は強くなってるから、これをあの二人が受けたら一発でひとたまりもなさそう。
いや、ダメージないけどね。
だってこれ、インパクトの瞬間を外して、霊圧のゆるいところに当たれば全然痛くない。
むしろ相手の当たり心地を調整するほうが難しい。
インパクト外しすぎると気づかれるし、当たりすぎると痛いし。
「オラオラオラ!」
ヤミーはそんな俺に構うことなく、連発で攻撃をしてくる。
ここまで予想通りな人格だと、転がしやすくて助かる。
ジジイもここまで下劣だったらいっその事清々しく殺せたんだけどなぁ。
そんなどうでもいいことを考えながら、俺は攻撃を器用に食らっていく。
ちゃんと利き手じゃない方の骨をおるくらいのパフォーマンスを見せないと行けない。
痛い。
「ははははは! おいみろウルキオラ!
あいつ虫みてぇにピクピク動いてやがる!」
「……」
「チッ、釣れねぇやつだ。
……あ? あいつまだ息があるじゃねぇか」
一応、霊圧は調整して、最初の頃から段階的に下げているから大丈夫なはず。
俺は折れた腕を抱きながら、ヨロヨロとした立ち振舞をする。
そうそう、チャドも井上も、そのまま黙って俺の殴られ様を見てろよ。
ん? なんか話してる?
「そろそろなにか来てもおかしくねぇから、こいつ殺るか」
お? 締め?
俺殺されるのには慣れてるから渾身の殺され上手さんですよ?
見せちゃいますからね。
そう行ってヤミーが俺のもとに高速移動して、俺の顔面をつかむ。
ゆるりと持ち上げられる体。
え、その持ち方首疲れるからやめてほしんだけど。
「このままオメェの首をもぎ取る。
泣いたって無駄だ、俺には顔が見えないからなぁ!」
顔面に霊圧の集まりを感じる。
いやぁ、流石に首もがれるのは経験ないからなぁ。
まぁでも、
「おい」
「あ?」
「俺のダチに、何しやがる」
オサレの化身登場しちゃいますからね?
☆☆☆☆☆
「源氏くん!」
「源氏!」
不思議な、光景だった。
いきなり現れた敵に、源氏くん。
私とチャドくんは、殺されると思っていた。
それが何故か今、源氏くんが殺されかけている。
仲間割れ? のようにも見える。
私はある種の確信を抱いていた。
源氏くんは、敵ではない。
源氏くんのおじいちゃんが話していた通り、裏切ってはいるけど、敵となったわけではない。
茶渡くんも、気づいている。
最初に違和感を抱いたのは、源氏くんが私達に迫るおっきい人を止めた時。
本来、あそこで止める必要はない。
正直、こんなことを言うのはいやだけど、私達を殺してしまっても、この敵としては大丈夫っぽい。
それでも、たつきちゃんもいたから抗おうと思っていたけど、敵わないのが心の底から理解できていた。
だから本来源氏くんは何もしなくてもいいのだ。
だけど、今はこうしてわたしたちの代わりに攻撃を受けている。
そうして、もう一つの違和感は、
「俺のダチに何しやがる」
霊圧が、キレイすぎる。
それこそ、普通に見ていたら気づかないだろう。
源氏くんの霊圧は、今も死にそうなほどに弱っている。
そう見える。
「お? オメェは……」
「ヤミー」
「あぁ?」
「そいつだ」
「いいねぇ!
楽しませてくれよぉ!」
「井上! こいつを頼む!」
黒崎くんに襲いかかる居館の人。
おそらく大丈夫だと思うけど、友達の襟を掴んで投げるのは良くないと思うよ。
源氏くんが空をボロ雑巾のように飛んで、こちらに来るのを見ながら、思い出す。
私は、源氏くんの普段を知っている。
もちろん、戦闘中にいきなり強くなることも知っているけど、クラスメイトとして知っている源氏くんは、もっと霊圧を揺らめかせていた。
それが、今はコップの水の様に凪いでいる。
弱々しいと評しても、それは間違いではないんだけど、それにしては、弱っているように見えない。
ちなみに、それとなくチャドくんに伝えたら、難しい顔? をしていた。
ドサッ
目の前に投げられる源氏くん。
受け身を取っていないあたり、本当に弱っているのかと思うけど、どちらにしても治療は行うべきだ。
「舜桜・あやめ、双天帰盾(そうてんきしゅん)、私は拒絶する」
盾舜六花を使って、目の前に転がる源氏くんを回復しようとする。
え?
そこで、再び違和感。
「源氏くん……?」
「どうした、井上」
「これって……」
もちろん、怪我はしている。
利き腕ではない方の腕。
骨がきれいに折れている。
治しやすいようにきれいに折れている。
体に擦り傷はある。
けど、軽くころんだ程度。
それ以外に、外傷がない。
これくらいだったら、すでに治しきれている。
もっとひどい怪我を予想していたのに、これはいったい……
「井上っ!」
そんな私の思考を遮るように、茶渡くんが呼びかける。
押される体。
後ろに倒れる私。
そして、目の前には、
左腕の、肩から先がない茶渡くんと、
「出番だ、やれ」
最後の一人の白装束の人が、源氏くんの首根っこを掴んで、空中に投げ飛ばしていた。