Felicitas
ハヤリュウ、年齢操作有(社会人設定でたぶん同棲中)
ホワイトデー話
 何度も時計を見ながら歩き続け、荒い息のまま開けたドアは普段より大きな音がした。
「遅くなった、いま帰った!」
「リュウジお帰り、お疲れさま」
「お帰りなさーい、リュウ兄」
 聴き慣れたハヤトの声に加えて、今日は明るい声が奥から響いてきた。ジャケットを脱ぎつつリビングに向かい見回す。次にキッチンに向かうと並んで振り返った二つの笑顔が見えた。視線はリュウジの帰りを確かめるとまたキッチンへと戻った。なんだかとても楽しそうにしている。
 楽しそうなミユの表情を見ると、兄としてはなんだか複雑にもなる。相手がハヤトだからいいのだが。まあハヤトでなくとも、ハヤトと俺くらいいい男なら許容してやるが、そんな男はなかなかいるまい。まあこんな当日にここにいるということは、まだそういうアテは無いのだろう。
 複雑にそこまで考えると、ようやく安心できる。
「もうっ、ハヤト君そうじゃないって」
「そんなこと言われても、ミユちゃん厳しすぎるでしょう」
 おっかしいな、こんなはずじゃなかったんだけどな……。ハヤトの呟きが聞こえてきた。自分のことは棚に上げて、ほらやってみれば意外と難しいんだと思いながら、シンクへと向かう。
 手を洗いながら、ちらりとカウンターになっている作業スペースを見る。食べやすい大きさのカップケーキはほんのり甘い匂いがする。どうやらもう工程はほとんど終わっていて、上に様々な飾りをしているところらしい。
 バレンタインにリュウジが作ったチョコレートに、ハヤトより物申したのはミユだった。型を貸した時に用途の説明は無かったのだが、まさかそのまま固めるとは思わなかったのだろう。「古代のアニメだってそんなの無いよ!」言われようは散々だった。リュウジとしては、我が妹なのに俺がそんな凝った菓子を作ると思っていたのかと言い訳くらいしたかった。
 次の参考にする。なんとかそう言い訳したところ、「次っていつ!」とホワイトデーに狙いを定められた。そんなやり取りを微笑ましく見ていたハヤトも、当然巻き込まれた。
「ハヤト君だって覚えるんだからね!」
 宣言どおりミユは、ホワイトデーのハヤトとリュウジの予定を確保してきた。誰よりやる気があったのはミユだから、朝呼び出しの電話がリュウジに掛かってきた時の不機嫌さは少し気になっていた。しかしこの様子だとあれこれ作っているうちに、楽しくなったのだろう。
 あれこれ言っている様子からして、ハヤトの出来もやはり散々なのだ。
 それでも二人で楽しく作ったのだろうと考えると、嬉しくなる。
 今更だが、あの大きな固い塊でもハヤトがニコニコと上機嫌だった理由が、わかる気がする。
「どうなんだ? ハヤトの力作は」
「うん、リュウジなら分かってくれるから」
「でもだって違うもん」
「違うってど……う……」
 並んでいるカップケーキを見たリュウジは、うまく考えられなくなった。
 確かに違う。
 二人の様子からして、飾りつけのクリームを絞っているのだとは思った。少し歪なクリームを、ナッツやドライフルーツな土で誤魔化した、手作り感のある小さな菓子。そんなイメージでいた。
「……」
「緑はさ、葉っぱの色だったんだよ! なのにハヤト君が」
「だって、俺だったらベースは緑でそこに白と赤が」
「……」
 そうだな、確かに花が緑で、縁に飾られている葉がピンクと白なのは、脳への理解伝達を滞らせている。しかし花だとわかる造形をしているそれは、意外と上手いななどという言葉が振れない。
 ミユの言う通り、ここまで綺麗に作ったのにどうして色を逆にした、となる。
 教え方が上手かったのか、元々素質があったのか分からない。
ワンライ執筆分はここまでです。
以下完成文貼り付けます。
Felicitas
ハヤリュウ、年齢操作有(社会人設定でたぶん同棲中)
ホワイトデー話
 何度も時計を見ながら歩き続け、荒い息のまま開けたドアは普段より大きな音がした。
「遅くなった、いま帰った」
「リュウジお帰り、お疲れさま」
「お帰りなさーい、リュウ兄」
「ただいま」
 聴き慣れたハヤトの声に加えて、明るい声が響く。キッチンに向かうと並んで振り返った二つの笑顔が見えた。なんだかとても楽しそうにしている。
 楽しそうなミユの表情を見ると、兄としてはなんだか複雑にもなる。ハヤトと俺ぐらいにいい男なら許容してやるが、そんな男はなかなかいるまい。まあこんな当日にここにいるということは、まだそういうアテは無いのだろう。
 複雑にそこまで考えると、ようやく安心できた。
「もうっ、ハヤト君そうじゃないって」
「そんなこと言われても、ミユちゃん厳しすぎるでしょう」
 おっかしいな、こんなはずじゃなかったんだけどな……。ハヤトの呟きが聞こえてきた。自分は棚に上げて、ほらやってみれば意外と難しいんだと思いながら、キッチンへと向かう。
 ちらりとカウンターを見ると、食べやすい大きさのカップケーキからほんのり甘い匂いがした。どうやらもう工程はほとんど終わっていて、様々な飾りをしているところらしい。
 バレンタインにリュウジが作ったチョコレートに、ハヤトよりも物申したのはミユだ。型を貸した時に用途の説明は無かったのだが、まさかそのまま固めるとは思わなかったらしい。「古代のアニメだってそんなの無いよ!」などと言われようは散々だった。リュウジとしては、我が妹なのに、俺がそんな凝った菓子を作ると思っていたのかと言い訳したかった。
 次の参考にする。なんとかそう言い訳したところ、「次っていつ!」とホワイトデーに狙いを定められた。そんなやり取りを微笑ましく見ていたハヤトも、当然巻き込まれるに決まっている。
「ハヤト君だって覚えるんだからね!」
 宣言どおりミユは、ホワイトデーのハヤトとリュウジの予定を確保してきた。誰よりやる気があったのはミユで、呼び出しの電話がリュウジに掛かってきた時に、不機嫌を堪えているのは見えた。しかしこの様子だとあれこれ作っているうちに、楽しくなったのだろう。あれこれ言っている様子からして、ハヤトの出来もやはり散々なのだ。
 それでも二人で楽しく作ったのだろうと考えると、嬉しくなる。
 今更だが、あの大きな固い塊でもハヤトがニコニコと上機嫌だった理由は、わかる気がする。
「どうなんだ? ハヤトの力作は」
「うん、リュウジなら分かってくれるから」
「でもだって違うもん」
「違うってど……う……」
 並んでいるカップケーキを見たリュウジは、うまく考えられなくなった。
 確かに違う。
 二人の様子からして、飾りつけのクリームを絞っていると思った。少し歪なクリームにナッツやドライフルーツを添えた、手作り感のある小さな菓子。そんなイメージでいた。
「……」
「緑はさ、葉っぱの色だったんだよ! なのにハヤト君が」
「だって、俺だったらベースは緑でそこに白と赤が」
「……」
 そうだな、確かに花が緑で、縁に飾られている葉がピンクと白なのは、脳への理解伝達を拗らせている。しかし花だとわかる造形をしているそれは、意外に上手いなどという言葉は振れない。
 ミユの言う通り、ここまで綺麗に作ったのにどうして色を逆にした、となる。
「残りはリュウ兄やってみる?」
「俺が、この花をか?」
 ハヤトに出来て俺に出来ないことはないと言いたいが、この花は結構大変ではないか。そもそも色が違うということは、三種類のクリームを飾り分けている。
 今日の主旨は、こんな高みを目指したものだったのか。まだ飾っていないカップケーキと、ハヤトが作った物を、リュウジが不安そうに見比べる。
 手は洗ったが尻込みしていると、ダイニングの方でミユのスマホから通知音がした。手にして通知を確かめると、ミユは手早く荷物を纏め始めた。リュウジにやってみるかと促したのに、ミユは帰り支度をしている。
「ハヤト君のせいで予定を変えざるを得ないんだよね」
「どういうことだ?」
「俺が上手かったからだってさ」
 ミユは鞄を肩に掛けると、玄関へと向かった。本当に帰るのかと心配になったリュウジに、タツ兄がそこまで迎えに来てくれているからと答えて、タツミが玄関に到着するのを待たずにさっさと行ってしまった。
 最後に「ハッピーホワイトデー!」と訳のわからない言葉を添えていった。
 この慌ただしさはどうなっているんだ。時間はまだそれほど遅くない。ミユの急な行動の意味が分からずに、ぼんやりとキッチンの入口から玄関を見る。
 ミユもいなくなって花はどうなるんだ。作るんじゃないのか。
 放り出されて視線をキッチンに戻したところで、ニコリと笑うハヤトと目が合った。
 笑顔に促され、ハヤトからコツを聞きながら飾り付けを始めた。
 やはり実際やってみると、そう上手くはいかない。やはり難しいな、リュウジが呟いたところで背後からハヤトの手が添えられた。添えられる声につられて、飾りはどんどん増えていく。
 どうだと確かめようと振り返ると、すぐ近くに楽しそうなハヤトの笑顔が見える。額が当たるくらいの距離で笑った。
「出来上がると、味が気になるね」
「確かめてみるか」
 後ろからのし掛かり、覗き込んでいるハヤトの心地良さを感じながら、ひとつを摘んでみる。焼きたてではないが、作りたてのほんのり温かみと甘さは、ふわりと広がり笑みを呼び込む。
 嬉しくなって、もうひとつ摘んだ。
「どう?」
「んー」
 ちらと横を見ると、目を輝かせて覗き込む表情が見えた。
 ふと思いついて機嫌良く目を細めると、ひと口齧っていたそれを、咥えたままハヤトの口内へ押し込んでやった。
 触れるくらい近くなって、ハヤトもようやく体勢に気が付いたらしい。手はすぐに動きを変えて、リュウジを引き寄せ直した。
 食べていたケーキはすぐに甘く消えて無くなった。今度はリュウジの方が目を輝かせて、ハヤトを覗き込んだ。
「どうだ?」
「んー、リュウジも確かめてみようか?」
「それはいいな」
 また一つ摘んで、今度はハヤトの口に押し込んでやる。
 ハヤトは咥えたところから、手も使わず一口にパクリと食べると、そのまま摘んでいたリュウジの指まで逃さず食べ始め、さらに笑った。
 上手く食われたことに嬉しくなって、ケーキをもう一つ押し込んでやった。
Fin.
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Felicitas
初公開日: 2021年03月13日
最終更新日: 2021年03月14日
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コメント
ハヤリュウ、年齢操作有(社会人設定でたぶん同棲中)ホワイトデー話
ワンライ自主練なので途中です。完成作は別途。
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