ある山奥に、村がひとつあった。地図にも載らなければ、旅人が訪れることもない辺鄙な村だ。
 平地よりも高くにあったその村では、常に雪が降っていた。村の人びとは、それが雪の女神を祀っているからだと教えられていたが、村から少しばかり離れた、少しばかり大きな村でも同様に沢山の雪が降っていた。
 屋根がひしゃげるほどの大雪は困る。それでも、雪の女神の元に供え物をすれば、村の人びとが食べていくのには十分なだけの食糧が女神からは与えられた。今年もまた例年の祭の時のように、村人の人数分トリネコの樹で拵えた人型を祭壇に捧げるはずだった。それが巫女のお告げであり、古くから伝わる教えだったから。
「お前たちはバカなのか」
 祭のために皆が集まった祭壇に、粗野な太い声が響いた。村には珍しい、遠方からの旅人だった。
「この地が貧しいのは雪のせいなのだろう。なぜ雪を降らせる神などを祭り上げるのだ」
「神は雪を降らせます。しかし、我々に必要なだけの食物をくださいます」
「だからバカだというのだ。お前たちは神に騙されている。俺はここよりもずっと暖かい土地で育ったから知っているぞ。雪が降らず、畑を耕すことができれば、腹一杯食べてもなお余るほどの食物が手に入る」
 腹一杯。という言葉に村人たちは興味を惹かれた。たしかに雪の女神は食物を与えるが、それは飢えて死なぬ程度であり、腹一杯からは程遠かったからだ。
 よく見れば、祭壇に土足で踏み入った野蛮な若者は、村のどの若者よりも体躯が立派なようだった。身丈は高く、手足は太く、骨の浮いたようなところは無い。暖かい土地で育ったからなのか、血色も良かった。
「だが、我々にはその方法はわからない。どうやって畑を耕せば良いのか、どのような食物を育てれば良いのか、なにも分からない。いままで通り、雪の女神を祀っていれば、飢えて死ぬこともない」
「やり方が分からぬのなら、俺が教えてやろう。まずはこのしみったれた雪を全て溶かすところからだ。なに、全てを溶かすには抵抗があるというのなら、ほんの少しのところから始めれば良い」
 ものは試しと、村の人びとは男に従った。始めは誰も住んでいない村の外れに畑を作った。太陽の神の加護を受けたその小さな土地だけは暖かく、地面を覆っていた雪は溶けていた。それでもまだ、雪の女神を祀る者はたくさんいた。同じように人型を祀り、同じように、十分からは少し足りない食物を得て暮らしていた。
 二年、三年と経つうちに、畑を耕す者の体躯は立派になり、雪の女神を祀っていた者達との差が顕著になっていった。
「我々も、彼らと同じように、自分たちの手で畑を耕して、腹一杯食えるようになるのがいいんじゃなかろうか」
 誰が始めに言ったかわからないが、いつの間にか、雪の女神を祀る者はいなくなり、村から雪原が消え去った。村は暖かな陽射しに照らされ、塞がれていた周囲の道は全て大昔のように使えるようになった。畑は大きくなり、村の人びとは腹一杯食物を食えるようになった。旅人が来てからすでに十年ほどが経っていた。
「まったく、ここまで来るのに時間がかかったものだ」
 畑を耕していた村人たちの耳に、たくさんの足音が届いた。金属同士の擦れる聞き慣れない音だった。
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即興小説30分
お題:宗教上の理由で大雪
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【書く前】
せっかく即興小説なんだから、予め構成考えるとかせずに好きに書いてみるのに立ち戻ってみる&朝30分はキツイから時間帯を夜に変えてみる実験
宗教上の理由で大雪? 大雪が降っているとある集落では食糧を得る代わりに、境界の教会にあるものを捧げていた。とか
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【書いた後】
ま~~~た村焼いちゃった。
結局勢いで書くと村焼きがちなんだよなああ。コメディじゃない、かつ、ハッピーエンド系を増やしていきたい。けど、村は焼きやすい。長編のバッドエンドは気が滅入るけど、短編ならバッドでもいいかな~とは思う。でもあんまり作品のバランス悪いのも……
今書いてる長編がハッピーエンドにしようと模索してるから反動でバッドにしがちなのかもしれないと考えるとバランス取れてるのかな?バランスとるために曜日毎にバッドかハッピーか分けるのも考えたけど、即興小説の面白みが薄れる気もするからもう少し試行錯誤
相変わらず誤字が多いから、新しいキーボードが届いたらどのくらい変わるか
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向き
【即興】其処退け、其処退け 2021-02-21
初公開日: 2021年02月21日
最終更新日: 2021年02月21日
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お題:宗教上の理由で大雪