目が覚める時、というのは非常に難しい感覚がする。
時として自ら這い上がるような感触だったり、時として風が吹くに自然に起きる、なんてこともある。
今回はそのどれもと違う、気怠い時の目覚めだ。
まるで体に重しが付いているかのような、まぶたにもそれが付いている感覚。
そんな感覚の時は、大抵記憶も混同している。
ぼーっとしながら起き上がり、いつもと違う布団に寝ていることに気づく。
なんで違う布団に寝ているのか。
そんな疑問の答えを出そうと頭が働き始め、
「一護……?」
ようやく眠る前の状況を思い出す。
急いで布団から飛び起き、あたりを見渡す。
そこは和室。
俺の家はボロアパートの一室で、和室とは縁遠い場所。
しかしこの場所を俺は知っている。
「浦原商店……?」
「そうじゃ」
「っ?!」
デジャブを感じながらも、気配のしない方向に対して体を向ける。
そこには、一匹の黒猫がいた。
「……夜一さん、でしたよね」
「そうじゃ。
よく覚えておるの」
「流石にしゃべる黒猫は記憶に残りますから」
こちらをじっと見つめる黒猫。
改めてよく見るが、何も普通の猫とは違わない。
しかし、今更ながら思うのは、猫の放つ気配ではない、ということだ。
人間が一番近いが、それでも気配が薄い。
そこにいるはずなのに、気を抜くと見失いそうなほどの気配の薄さ。
警戒はするが、恐らく今度もろくな抵抗ができずにやられる。
「なんで……ここにいるんですかね」
「申し訳ないが、お主を眠らせてもらった。
眠らせるのに使用したのは、儂自ら調合した薬じゃから、安心しろ」
「見知らぬ人の調合した薬で安心するのは流石に難しいですよ」
「そうかの?」
「そういうものです」
情報を引き出す。
知れば、何か糸口は見えるかもしれない。
「まぁまぁ。
貴様は一日寝ておった。
学校にも喜助が連絡を入れておいたようじゃから、今宵は休め」
「一日寝ていた?」
生憎ながら俺は腕時計を身に着けているほど時間にシビアな男ではない。
それに今は携帯という文明の利器のおかげで、別に必要もなくなっている。
「そこにお主の荷物があるから、確認すると良い」
警戒を解かず、黒猫の見ている方向を確認すると、そこには俺のいつも使っているバッグがあった。
黒猫も俺の警戒しているのを理解しているのか、手を出さないと言った様子(あくまでそう見えたような気がした)でいる。
バッグを確認。
中身は全部無事。
何かなくなっているということはない。
即座に携帯を取り出し、時刻を確認。
「本当に一日経ってる……」
「本来ならば一日今日の夜まで寝ている予定じゃったのだが、お主案外強いのぉ」
「それはどうも……」
時刻は昼。
ちょうど学校では昼休みになっているタイミングだ。
恐らく一護たちが登校していれば、飯を食っているタイミングであろう。
今から学校に行く、というのは単純に考えられない。
飯もないし、いま浦原商店だし。
ってか、思ったんだけど、この人ナチュラルに一日以上眠る睡眠薬俺に使ったって言ってない?
修行時代の時、最低限の知識と最低限の苦しみ(実体験)をさせられ、死なない程度の耐性をつけたから大丈夫だったが……。
「あの……喜助、ってのは浦原さんのことで大丈夫ですかね」
「あぁ。
あやつとは昔馴染みでの」
「それなら、今回の夜一さんの行動は、浦原さんも知っての行動なんですか?」
「…………あぁ。
儂は今回の虚騒ぎに対して、空座町にお主が入ろうとしたら、薬を使って眠らせてくれ、と頼まれた」
考える。
ひたすらに考える。
静寂が流れ、
「今、浦原さんはどちらに」
「連絡自体はしておいたから、そろそろだとは思うんじゃが」
「どもども~」
またも後ろから声がする。
浦原さんもなにげに気配隠すのうまいんだよなぁ。
浦原さんは、店に続くであろう方から現れた。
一瞬浦原さんの背に見える店の内装。
そっちか。
「喜助。
お主どうするつもりじゃ」
「えっと……」
俺の警戒心バリバリな様子を見て、浦原さんは困ったような表情をする。
実際にはハットのせいで表情はよく見えないのだが、雰囲気でわかる。
現状、浦原さんと夜一さんから何かしようという気配は感じない。
俺の気配察知は最低限の生前本能によるものであるため、あまり精度は高くないが、目の前の敵の敵意くらいは分かる。
畳に足をピッタリとくっつける。
いざとなった時、滑ると困る。
「えっと……お話、聞いてくれるっすかね?」
「眠らされて騙された状態でそれはどうなんでしょうか」
「……カマかけッスか?」
「どうでしょうか」
「アタシとしては、源氏さんとは仲良くやっていきたいんですが」
「俺もそう思いたいです」
なにもない和室に、少しの緊張感が走る。
俺も二人の一挙一足を見て、二人も俺の一挙一足を見ている。
そして俺は、
「よし!」
座った。
警戒を解き、足を組んで、胡座をかいた。
両膝に手を乗せ、大きく息を吸って、
「降参!」
無理ゲーと判断した。
☆☆☆☆☆
「いきなり降参! なんて言うから面食らったじゃないッスか」
「いやいや、逆にあの状態からは何しても無駄ですよ」
「そうかの?
本気を出せばいい線いくとは思うのじゃが」
「買いかぶりすぎです」
和室に持ってきてくれたお茶と菓子をつまみ、談笑する。
正直、俺としてはこの人達から逃げたいという本心はあった。
殺されないから大丈夫、ではない。
殺されないのが分かっているからこそ、何をされるのか分からないのだ。
だから、本当に逃げたかったが、もう無理だと判断した。
室内、刀なし。
霹靂一閃を防げる人に、俺に薬を瞬時に盛ることのできる猫。
無理。
無理オブザ無理。
「それで、話してもらえますか」
「一応、何を話せば良いのかお聞きしましょうか」
「……俺に隠していることと、昨日のこと」
「そうっすね……」
そして話されるのは、最初に聞いていた話とはまるっきり違う話。
もうめちゃくちゃ過ぎてまとめるのが難しいが、恐らく
・石田くんめっちゃ死神キライ
・石田くん一護に勝ちたい
・虚倒す数勝負だ!
・それであれ
「それで、アタシとしてはお二人の勝負の邪魔をしてもらわないように、源氏さんを遠ざけました」
「ちなみに、二人には」
「教えていません」
「……なんで俺がいたら駄目なんでしょうか」
「危ないから」
「眠らせる必要は?」
「死なれると丈さんが……」
「あのクソジジイは寧ろ俺が戦わないことに対してキレます」
少し固まる浦原さん。
何かを隠しているのは分かった。
だけど、それが何なのかは分からない。
「喜助」
そんな中、俺と浦原さんのやり取りを見て、夜一さんは静かに笑ってた。
浦原さんは、観念したかのようにため息を吐き、
「すいません、源氏さん。
ここらへんは隠させてもらえないでしょうか」
「へ?」
まさかの隠し事があるとアピールし始めた。
何を言っているのかは分からない。
というか、この人隠し事をしますって隠し事をする人に話してる?
どういう事?
「正直、一つ企てていることはあります。
しかし、それに関してはアタシの口からは正直に言えません。
なので、黙ります」
「いぃぃやぁぁ……
そんな話ありますかね?」
「正直、源氏さんとは一切関係ないことではあるので、これで源氏さんに危害が加わるとかそういうことではないです」
「……そうなんですか……」
まさかの浦原さんの発言に、少し面食らいながらも、俺からは同仕様もできない状況だということを理解する。
俺個人の力では、恐らく浦原産には敵わない。
だからこそ、言ってもらうには俺から言うに値する何かを、浦原さんに与えないといけない。
そんなものは俺にはない。
だからこそ、俺はこの言葉には、
「まぁ、はい。
俺に危害が加わらないのであれば」
「……ありがとうございます」
こう話すしかない。
自分が弱いのは知っていたが、こうしてそれを利用されるとムカつく。
だけど、それを表に出しても何かあるわけではない。
その後も、事の顛末や、事後処理はしっかり行ったことや、一護と石田くんは怪我はしたものの、特に命に関わることもなく、今日も学校に行っていると話を聞いた。
マントと少しのお金を俺はもらい、浦原商店を後にする。
少し歩き、俺は頭を強引に掻き、
「訓練するか」
マントを羽織った。
☆☆☆☆☆
「あの」
「なんだ」
「俺らって今から一人の死神のことを確認しに行くんスよね」
「あぁ」
「それなのになんで」
「隊長が|二人(・・)も必要ななんですか?」
「そんなカタイ事言わんといてな、阿散井ちゃん」