「つっかれたー!」
普段のパトロールも終わって部屋に帰ってくると、おチビちゃんは大きな声を出してソファに身を投げ出す。前まではそんな風にしなかったのに珍しい、誰かさんに似てきたのかな、なんて考えてしまう。キッチンに入ってミネラルウォーターを二本取ってごろんと力尽きているおチビちゃんへと一つ手渡す。
メンターの二人は夜に会議があると言っていたから戻ってくるのは遅い。大方リリー教官に捕まって飲みに行く可能性だってある。つまり今日はおチビちゃんと二人きり。クラブに行かずに帰ってきているのだって一緒にいられるからだ、なんて当の本人はきっと気付いてない。勘が上手く働いて尋ねられても「おチビちゃんが一人は寂しがるかと思って」なんて口に出してしまうだろうけど。
「おチビちゃん夜はどうするの?」
「ん? んー、ジャックに頼もうかな」
「今日は俺が作ってあげようか?」
「は?」
鳩が豆鉄砲を食ったような表情で俺を見て固まる。
「……クソDJも料理できんのか?」
「もちろん、簡単なのは一通りね」
「ふーん」
何度か瞬きをした後、僅かに上がった語尾を誤魔化すようにミネラルウォーターを飲みだす。もし動物の尻尾が生えてたらそわそわと落ち着かなく揺れているだろう。
少し前にキースが作った手料理が想像以上に美味しくて意外だったらしく、時間に余裕があればねだってる姿を見かける。その勝率は二割ほどだし、その勝因もディノが一緒にねだったからだけど。レトルトやジャックの手作り以外で手料理を楽しむということが一つの候補に挙がっているのは間違いなかった。
「……オムライス食いたい」
「ぷっ、お子様ランチには定番だね」
「うるせー、今日はその気分なんだよ」
「はいはい。作ってあげるから手伝ってくれる?」
「……仕方ねぇな」
本当に面倒な料理を提案してきたと思うけどキッチンに立つのが二人ならそんなに狭くはないはず。まずは材料を用意してこなきゃ、と零すと「おれが取ってくる!」とさっきまで疲れて横になっていた体を元気に動かして部屋から出て行ってしまう。本当お子様みたいだな、なんて小さく笑ってキッチンへと向かう。
俺が主体になってキッチンに立つなんていつぶりだろう。面倒だからあまりしてこなかったし、人に振舞うことだって片手で数えられる程度な気がする。それでもおチビちゃんがキースに向けた表情を俺もみたいな、なんて考えは俺だけの秘密だ。
帰ってきたら何から手伝ってもらおうかな。それに上手くできたら何かご褒美をねだってみようかな。おチビちゃんの反応を想像してみたら楽しくて、戻ってくるまでに緩んだ顔を直さなきゃと軽く頬を叩いた。