私たちは宇宙に行くことになった。
それは最初から決められた運命だったのかもしれない。宇宙に何か希望があるように思えたわけじゃなかった。それでも宇宙にはヒントとなる何かがあると思えた。
それだけの僅かな希望から決意をした。
それ以上の理由はなかった。
この地球には逃げる場所が無くなってしまった。この地球で安心して私たちが一緒に居られる場所がなくなってしまった。
選択肢は3つあった。
1つは諦めて、それぞれの終末を受け取りそれぞれの道へと帰ること。
2つはここで一緒に終わってしまうこと。
3つは皆で宇宙へと旅立って、そこで私たちだけの楽園を築き上げること。
その中でも、私たちは3つ目を選んだ。
それは悲しいだけの物語ではなかったからだ。
僅かに希望があった。
1つ目は何だかんだ生命として生きていけただろう。
そして、永遠に叶わぬ夢を思いながら悲しみを忘れるように、
我を塗り替えるように、同じ日常を繰り返すことになっただろう。
生きているけれど死んでいるような日々だろう。
それが嫌だった。
2つ目はここで永遠の幸せを止めてしまうことだった。
時と空間が私たちの愛を阻むのなら、
今ある絶頂の幸せの中で、覚めることのない夢の中で永遠を掴むことが出来ただろう。
でも、それは儚く優しい嘘で満ち溢れていて、それは古き良き「死」への肯定的な物語となったはずだ。
これは素敵な逃げ道だった。
けれど、私たちはどうしようもなく愚かだった。
私たちが感じている、この幸せを誰かにも感じてほしい。それを共有したい。
それが願いであり、生き物としての側面を持つ私たちの欠点だったのかもしれない。
3つ目の選択肢を選んだ。
失敗してもよかった。そこには永遠の愛が残るのだから。
どうせなら、次につながる選択をしたかった。
無音の宇宙の中でゆっくりと機体が月へと向かって進行する。
「あそこが私たちの新しい拠点になるのかしら」
ゴーグルの目を通して彼女は尋ねる。
「分からない。けれど、かつてあった医療タイタンの日誌から推測するに、
今もまだ希望となるタイタンが居るはずだ。」
機体は月へと向かって弧を描いて近づいていく。各々は過去を振り返って時間を過ごした。沈黙の時間だった。
白い建物がまばらに小さく見える、丸い地球から離れていく。高度に発展して人間が管理されるための星から離れていく。
離れていく。
けれど、その存在は大きく。私たちの心は強い思いに打ちのめされるのだった。星に拒絶された痛みを思い出すのだった。
機体の別窓を見てみると月が見えた。多くの建物があった。月はかつての人類による開発跡が残っている。持ち運ばれた材料と3Dプリンタで自動で建築が行われていた。現在は稼働していないようである。
現在地球にある建物よりも原始的であるため、技術も過去のものであることが伺える。
それでも、建物群たちは人が往来している様子を想像させた。
ここに住んで、開発を行っていた旧人類は地球に呼び出されて楽園の夢を見ることになった。
今は無人の廃墟と化している。
機体が月へと着陸する。
砂塵がふわりと舞う。
土に足を付けた。
周りを見渡す。
視界の端で人影を捉えたような気がした。
窓のある塔を見つめた。
灰色のアンドロイドがこちらを見つめていた。
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