話に夢中になっていた私達は、気が付けば王の間の目前へとたどり着いていた。この扉の向こうには、この国の王がいる。そう思うと、再び私の身体を緊張が包み込んでいった。ゆっくりと扉に手をかけるブレイヴ。そして扉が静かに開いていく。
扉の隙間から奥の様子が見える。今までにも増して、豪華絢爛な装飾。直線に伸びる赤いカーペットの左右に並んでいる数人の兵士。そしてそのカーペットのたどり着いた先、真っ赤な玉座に座る1人の人物。間違いなくあの人が、この国の王様なのであろう。
「ブレイヴよ、ご苦労だった。おぬしがイーナか?」
#61 きのうのつづき(なにもおもいうかばない)
「お初にお目にかかります王様。お会いできて光栄です。イーナと申します」
初めて目の当たりにする王を前に、私の声は震えていた。当たり前と言えば当たり前だが、今までの私の人生で王様と話すことなんて一度も無かった私。ここまで来る途中、何度も頭の中で王との会話をイメージはしていたが、実際に王を前にすると、緊張をするなんてものではない。失礼の無いように言葉を選ぶことするままならない。まともに顔を見ることすら、私には畏れ多くて出来なかったのだ。
「そんなに緊張しなくてもよいぞイーナよ。顔を上げよ」
そんな私の様子を見かねたのか、柔らかな声で私にそう声をかけてくれた王様。おそるおそる顔を上げた私は、初めてまともに王様と目が合ったのだ。
煌びやかな衣装に身を包みながらも、優しく気品溢れる笑顔を浮かべたまま、私を真っ直ぐ見つめていた王。王は顔の見た目こそ、人の良さそうなおじいさんと言ったような感じであったが、その真っ直ぐなまなざし、優雅な立ち振る舞い、そして声色と、どれをとっても一般人とは全く異なる独特な雰囲気を醸し出していた。
「ふむ…… 想像していたよりはずいぶんと可愛らしい姿じゃな。のうブレイヴよ」
「ええ、私も初めて見たときには驚きました。まさか、こんな可愛らしい少女が九尾の巫人とは……」
巫人……? ブレイヴも巫人のことを知っていると言うのだろうか?
ブレイヴの口から突如として出た『巫人』という言葉。王もブレイヴも巫人について知っていると言うのであれば、おそらく私が今日ここに呼ばれた理由も『私が九尾の巫人』であると言うことに他ならないのだろう。だがそれにしても話の先が全く読めない。私は勇気を振り絞り、目の前の王に尋ねた。
「……王様、失礼を承知でお聞きしたいのですが…… どうして私をここに?」
「そうじゃな…… あまり待たせるというわけにもいかぬし…… ブレイヴよ! 彼らを呼んできてはくれんか? すまぬがイーナよ。少し待っていてはくれんか?」
王の言葉を聞いたブレイヴは、王に向かって深く一礼をし、王の間を後にした。
ちょっと休憩します。