年明け三日目のこと
「・・・あ」
「・・・え」
幸運と言うべきなのか不幸と言うべきなのか。偶然神社の近くを通ったので行っていなかった初詣を
してしまおうと石段を登り鳥居をくぐろうとしたところでばったり沙月さんと遭遇した。
「奇遇ね、甘織」
「そうだね、紗月さん」
誰かと会話する気なんて完全になかったから、思考回路が全く働かない。
「きょ、今日もいい天気だね」
「そうね日が出てるけど風は冷たいわね」
「そうだね!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
会話が止まってしまった。
「お参りするために来たんでしょ?早くしてきたら」
「あ、うんしてくる」
鳥居をくぐって境内に入りお賽銭箱の前まで来る。
お賽銭を入れ二回お辞儀をし二回手をたたく。
(周りのみんなが喧嘩せず仲良く過ごせますように、あと真唯と恋人ではなく友達になれますように)
もう一度お辞儀をして神社の前から離れる。
戻ってくると、紗月さんが鳥居の前にある階段に座っていた。
「終わったかしら?」
「うん、終わったよ」
「ねえ、甘織少し話さない?」
そういうと紗月さんは階段をポンポンと叩く。
ここに座れってことかな?
「え、いいけど」
紗月さんの隣にわたしも腰掛ける。
「甘織は何をお願いした?」
「私はみんなが仲良く過ごせますようにって」
あと真唯と友達の関係になれますようにって
「甘織らしいわね」
「そうかな?紗月さんは?」
「私はまた真唯をぎゃふんと言わせるって」
「紗月さんらしいね」
「甘織って弱点もあるわけだし、いくらでもやりようはあるわ」
「いや、出来ればわたしを巻き込まない方法で戦ってほしいんだけど・・・」
「まだ、私一人の力じゃあいつには勝てないの。だから力を貸して甘織愛しているわ」
「いや、恋人関係云々はもう終わったじゃん!」
「大丈夫甘織なら出来るわ。例え話す内容が思いつかなくて、天気の話しかできなくても私はあなたを必要としているから」
「普通にディスるんじゃない!それにもうああいう写真撮るのもムリだから!」
話すこと思いつかなくて天気の話しかできなかったのは事実だけども。
「そう、残念ね」
紗月さんはそういうとふぅっと息をついた。
「甘織私の指さしてる方向を見てて」
「え?なんで?」
「いいから」
紗月さんは遠くの山の方を指さす。
「・・・別に何もないけど?」
「ほらあそこよ」
そういって紗月さんが指差しているところをわかりやすくするためか体を密着させてくる。
わたしは紗月さんの指差している方向を凝視するけど、鳥が飛んでいるわけでもなくてやっぱりなにも見えなかった。
何を見せたのかわからずじっと山を見ているわたしの頬にそっと柔らかくて暖かいものが触れた。
それと同時にカシャっとシャッター音が鳴った。
「え?紗月さんなに撮ってるの?」
「甘織、もう少し嬉しそうな顔できない?」とスマホの画面を見せてくる。
そこにはどこか明後日の方向をぼけぇっと見ているわたしと頬に口づけをしている紗月さんの顔がしっかり映っていた
「ちょ!?なに撮ってるの!?」
「何って王塚真唯をぎゃふんと言わせるための素材よ」
「素材って・・・ていうかもう恋人同士の関係は終わったじゃん!」
「でも、あなた言ってたじゃない友達同士のキスはノーカンだって。私たち友達でしょ?」
「確かに友達だし、それは言ったけども・・・」
「・・・・・・それにあなたとのそういう関係も悪くなかったし」
「え?紗月さんなんて?」
紗月さんの声は強く吹いたか風に遮られてよく聞こえなかった。
「なんでもないわ。今年もよろしく甘織」
「あ、うん。今年もよろしく」
「じゃあ、また学校で」
そういうと紗月さんは神社の階段を下り、家に向かって歩き出す。
その足取りが紗月さんにしては妙に軽いように見えた。