〆切に間に合うようにのんびりとやっていきます。 おわりです。ありがとうございました。
金曜日の放課後、若干の西日が差しこんできている教室には紗月さんとわたしだけ。真唯はお仕事、紫陽花さんは弟君たちのお迎えやら家事やら、香穂ちゃんは次のイベントに向けてのコス作り・・・要するにみんなは先に下校したあと。
紗月さんはというと今読んでいる本を読み終わってから帰るらしく教室に残っていてわたしはというとちょっと仮眠をとってから帰ろうと思っていたので紗月さんに付き添って教室に一緒に居残っていた。
窓の外、校庭からは元気に活動時間ギリギリまで部活動をしている生徒たちの声が遠く聞こえてくるけどそれと反比例するようにわたしと紗月さんの二人しかいない教室はしんと静まり返っていた。
「甘織あなた最近大丈夫?」
「うぇ!?な、なにについてですか!?」
ついさっき起きたばかりで誰かに話しかけられるなどと思ってもいなかったので思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「最近ずっと眠そうにしているから」
「あ、うんちょっと最近眠れなくて。」
紗月さんは本を読み終わったみたいで鞄に本を仕舞ながら声をかけてきた。
「夜遅くまでげーむでもしていたのかしら?」
「いやぁ、そういうわけじゃないんだけど」
寝不足の理由ははっきりわかっているんだけどちょっと話しづらくって私は言い淀む。
「・・・何か病気とか」
「そういうわけでもないんだけど・・・」
「何よはっきりしないわね」
はぁと紗月さんは頬杖を突きながらため息を吐いた。
「いや、ちょっと言いにくいというか立て込んだ事情があるわけでもないんだけどちょっと恥ずかしいといいますか」
「別に私と甘織の間柄なんだしもう恥ずかしいこととかないでしょ」
「そうかな???」
確かに一緒にお風呂に入ったりとかはしましたけども、それをしたからといってそれ以外の行為が恥ずかしくなるわけじゃないと思うんだけど・・・でも、まあ、紗月さんは親友だし紗月さんになら話してもいいかな。
「笑わないで聞いてほしいんだけど」
「安心しなさい。あなたの話が面白かったことなんて一度もないから笑うことはないわ」
「サラっとキツいdis市内で貰えますかね!?」
あったろ!わたしの面白い話で紗月さんが大爆笑したことが・・・・・・・・・いや、大爆笑はないな。いやでも!笑ったことぐらいなら・・・・・・なかったかもしれないけど!クスっと笑うぐらいのことは・・・・・・いや・・・うん・・・なかったね。ごめんなさい。
「いいから、早く話しなさいよ」
わたしは勝手にダメージを負ったメンタルを奮い立たせ覚悟を決めて少しずつなぜ眠れなくなったのかを説明し始めた。
「えっと実は最近映画を見まして」
「それで?」
「ネットで評判が凄く良くてタイトルだけ見てどんな映画化もよく調べないで見たんだけど、それが」
「それが?」
「えっと完璧にホラー映画で・・・」
「・・・ん?」
「で、その映画が怖すぎたせいでそれを見てからというもの夜が怖くて眠れなく」
「恥ずかしい話コンテストで優勝できそうね」
「そこまでじゃなくない!?」
話の途中で新しい包丁で野菜でも切るかのようにバッサリと言い切られた。
「私甘織のことまだよくわかってなかったみたい・・・実は小学生だったなんて気がつかなかったわ」
「いや、普通に高校生ですけど!?」
「普通の高校生はホラー映画見ただけで何日も寝不足になるぐらい眠れなくならないものよ」
「いや、だってすごく怖かったんだもん・・・」
紗月さんは見てないからそんなこと言えるんだ。というか普通の高校生でもホラー映画で眠れなくなる人は多分いるでしょ。
「大体いつから眠れてないのよ」
「見た日からだから4日間ぐらいかな・・・」
「4日って結構長いじゃない」
「え、そうかな・・・あ、でも今日はお母さんもお父さんも帰ってくるの遅いし妹も友達の家に泊まってくるみたいだからまた眠れないかも」
あははなんて自虐的に笑いながら頭をかく。
「それなら提案があるのだけど・・・」
「へ?提案?」
そういうと紗月さんはわたしに一つの提案をしてきた。
「うう、紗月さんありがとう」
「まあ・・・今日だけ特別よ」
家で夜一人だと眠れないわたしのために紗月さんの家でお泊り会が開催されることになった。現在紗月さんの家にお泊りセットをもって上がらせてもらっている。ちなみに泊まりに行くことを両親に話したところ『むしろ夜に家で一人なのは心配だったから安心だわ。ご迷惑のない様にね』と二つ返事で許可が下りた。
「あなたがここ最近眠そうにしていた理由がホラー映画とは思わなかったわ。あまりのしょうもなさ位に唖然としたけど」
「いや、わたしも正直ここまで影響受けるとは思っていなかったので。」
『ホラー映画は見たことないけどまあちょっとビックリして終わりでしょーw』なんて笑っていた過去の自分をぶん殴りたい。
「その、心配してたのよ」
紗月さんがぽつりとつぶやく。
え、もしかして最近わたしが眠れてなかったことを紗月さんが心配してくれていたなんて・・・
紗月さんは血も涙もない美人の悪魔だと思っていたんだけどどうやら勘違いだったみたいだ。紗月さんはわたしなんかにも優しい思いやりに溢れた美人の悪魔だったんだ!
「あなたが進級できるかどうか」
「そっち!?」
「正確に言うとあなたが進級できないことによって瀬名に要らぬ心労をかけさせるんじゃないかって心配していたわ」
「心配する対象がわたしですらないのかよ!?」
前言撤回わたしに対する思いやりは溢れていなかったようだ・・・
「今日は授業中も船をこいでいたでしょう」
「思えば授業中の記憶が若干なかった時もあったような気もする・・・」
最近授業のノートを見返したら途中から象形文字が書かれていたし内容も飛び飛びになっていた。
「ただでさえあなたは成績があまりよくないのだから一度授業についていけなくなると大変よ」
「それは確かにごもっともです・・・」
今のグループのみんなと仲良くできたのは完璧唯運が良かっただけだし、もし留年してひとつ下のクラスメイトたちと仲良くなるなんて絶対無理だ。よく知らない人たちに話しかけるなんて苦労は申したくない・・・
うぅ・・・留年したら二年生のクラスにいるみんなの元へ毎回遊びにいくんだけどそのせいで上手くクラスにも馴染めずクラス行事のときには腫れものみたいな扱いを受けるんだ・・・
「まあいいわ。授業で聞き逃したとこをは後で教えてあげるから。今日は母も帰ってこないからゆっくりくつろいで頂戴」
「え!?じゃあ二人きりってこと!?」
「そうよ」
さっきまで留年とかクラスで腫れものになるとか悩んでいたけどそんなことよりも巨大な問題がものすごいスピードで降りかかってきた。
紗月さんと一言で焦りまくっているわたしとは対照的に何事もないかのように紗月さんは波一つない夜の湖畔の様に落ち着いている。
「何か問題でもあるのかしら?」
「い、いやないですけど」
何を焦っているんだわたしは・・・別に男女で一つ屋根の下ってわけじゃないし何も問題ないはずだ。この前泊りに来たときは間違いでキスとかしちゃったけど、あの時は恋人同士ということだったからそういうことが起きてしまっただけで今は心が繋がった親友同士!なので何も問題は起きない・・・・よね?
「なに?襲ってほしいの?」
「どうしてそうなるのさ!?」
「あなたが変なこと考えるからよ。でもこのアパート壁が薄いから大声上げられたら困るのよね・・・まあ猿轡でもしておけばいいかしら」
「よくないから!?」
なんで大声上げる前提で対策を立てようとするのさ!?というかほんとにしないよね紗月さん。
「まあ、あなたの態度しだいね・・・」
「態度次第で襲われる可能性があるんですか!?」
この家の安全基準はどうなっているんだ・・・・サファリパークだってもうちょっと安全だぞ!?
「態度次第で外に放り出すわ」
「紗月さんが誘ってきたのに!?」
紗月さんの家に来てからごたごた言い合ったけど特に何もなくその日の晩御飯は紗月さんが作ってくれて家庭的な味でとてもおいしかった。
『材料費はちゃんと払ってもらうわ』とちゃんとお金を請求してくれる辺りも紗月さんらしい。
正直泊まらせてくれてご飯まで作ってもらったので材料費ぐらいならお安い御用だ。
こういう時にちゃんとお金を払えると対等な感じがするし紗月さんのお時間を使ってしまったという罪悪感とかも減るのでわたしとしてもありがたい。
ご飯を食べた後は紗月さんの家だと特に一緒に遊ぶものもないし紗月さんが『課題を進めておきましょ。それに甘織が授業で聞いていなかった部分を説明しないとだし』とのことでわたしの居眠りによって生じた授業の遅れを紗月さんが取り戻してくれた。
正直晩御飯のお金を払っただけなのにここまでしてもらうのは気が引けたけど、紗月さんは『別に気にすることじゃないわよ』との事だった。
うぅ・・・ありがとう紗月さんこのご恩は後で絶対返すから。
「少し早いけどもう寝ましょう甘織」
「まだ9時だし布団に入るにはまだ早いと思うけど」
「眠くないからと言って、ずっと電気をつけて起きていると睡眠時間が元に戻らないわよ」
紗月さんはさっきまで二人で勉強していたちゃぶ台をたたみ部屋の隅に寄せて押し入れから布団を出して敷き始めた。
「布団は二組でいいわよね?」
「え、それ以外の選択肢ってあるの?」
「あなたがどうしてもいうなら・・・その・・・一組にしてもいいけど」
「そ、それって・・・」
思わずごくりと生唾を飲んでしまった。
二人で寝るのに布団を一組しか敷かないのはもしかして同じ布団で寝るってことになるのでは?
同じ布団で寝るってことはわたしと紗月さんで同じ布団で一緒に寝てしまうってこと!?
というか紗月さん的にはわたしと添い寝したいってこと?というか添い寝とかしていいのか?恋人同士のときだって二組の布団で寝たのにいったいどういう風邪の吹き回しなんだ。
そもそも添い寝なんかして寝がえりをしたら紗月さんにちょっと触れちゃって『きゃ・・・』とか紗月さんがかわいい声を上げてしまってなんかちょっとあれな雰囲気にでもなったりしたらどうするのさ・・・
「私は布団でねるからあなたは床で寝るのよ」
「そんなことあるかよ!?」
「元気そうで良かったわこれなら床でもよく眠れそうね」
「寝れんわ!」
「大丈夫よ安心して頂戴。私は普通にぐっすり眠れるのだから何も問題はないでしょう?」
「わたしがちゃんと眠れないんですけど!」
「今現在ちゃんと眠れないのだから同じでしょ」
「いや、ちゃんと眠れるようにということで紗月さんの家に来たんですけど」
「そうだったかしら」
「そうだよ!?」
「図々しいやつね」
「いや、現状だけ見ればそうかもだけど!?」
流石に床で寝たことはないので必死に抗議する。
「お布団は二つがいいです!二つでお願いします!」
「そう、残念ね。じゃあ敷くのを手伝って頂戴」
紗月さんが押し入れから布団を出してくれたので、わたしはシーツを布団に敷いたり枕カバーを付けたりして紗月さんの手伝いをした。
「じゃあ寝るわよ」
「あうん、ってあれ?小さい電気は・・・」
「点けないわよ電気代もったいないし」
「あっはい・・・そうですよね」
うう、真っ暗だと眠れない気がするけど紗月さんの家の都合なら仕方がない。なんとか恐怖に耐えながら眠れるように頑張るしかない。
「はぁ、怖くて寝れないならそう言いなさいよ」
そういうと紗月さんは小さな電球をつけた状態にしてくれた。
「で、でも小さい電気なんて付けたら紗月さんの家の光熱費が上がって大変なことになってしまうんじゃ・・・」
「なに?あなたの家の電球はライブ用の照明か何かなの?」
「いや、いたって普通の豆電球です・・・」
強いて言えばLEDってことぐらいしか特徴のない普通の電気です・・・
「別にこれぐらいで馬鹿みたいに電気代かかるわけないでしょ。朝起きたら1円渡しなさいそれで許してあげる」
「うう、ありがとう。おやすみ紗月さん」
「ええ、お休み甘織」
まったく世話が焼けるわなんて言いながら紗月さんは布団に潜り込んだ。わたしもそれに倣い布団をかぶる。
おやすみと言って布団に入ったはいいもののまだ全然眠気は来ていない。今日は放課後にお昼寝もしてしまったし現状ホラー映画を見たせいで生活リズムがぶっ壊れているから普通眠る時間にも眠たくならないのだ。
取りあえず目を瞑っていはいるけど、まったく眠れる気がしない。なんなら外の風の音とか車が通り過ぎる音とかが妙に鮮明に聞こえて不安になってしまう。
そういえばこの前見た映画にも今と同じようなシーンがあった気がする。
主人公が寝ていると誰もいないはずなのに足音が聞こえてきてしばらくしたら耳元で名前を呼ばれてその瞬間に足を掴まれるんだ・・・
「甘織、大丈夫?」
「ぎゃあ!?」
うわあああ急に話しかけるな!?びっくりして大きな声上げちゃったじゃん!
「そ、そんなに驚かなくてもいいじゃない」
「いやだって紗月さんが急に話しかけてくるから」
「どれだけ怖がっているのよ・・・はぁ、しょうがないわね」
そういうと紗月さんは隣の布団から出て台所の方へ行ってしまった。
電気のついた台所から冷蔵庫を開けたり電子レンジを使うような音が聞こえてきて3分ほどたった後に紗月さんがマグカップを二つ持って戻ってきた。
「はいこれ」
紗月さんからかわいい猫がプリントされたマグカップを手渡される。中には暖かい白い液体が注がれていた。
「布団に零さないで頂戴ね」
「えっとこれは?」
「何ってホットミルクよ。暖かいものを飲めば眠れるでしょ」
「な、なんで?」
「なんでってあなたが隣でうんうん唸りながら眠れなさそうにしてたから」
「え、優しい・・・」
紗月さんが優しい・・・優しすぎて不安になるレベルだ・・・
っは!もしかして毒でも盛られているんじゃないか?
「安心しなさい、あなたに毒を盛るのにそんな搦め手は使わないわ。もしやるなら直接口の中にねじ込むから」
「わぁ心まで読んで不安を取り去ってくれるぅ、これなら安心だ・・・って安心はできないよね!?物凄く物騒なこと言ったよね!?」
ねじ込むとか言いましたよこの人。やっぱり紗月さんは芦ケ谷に這い出てきた美人の悪魔なんだ。
嫌がるわたしを縛り上げて『ふふっ今日の毒物はテトロドトキシンよちゃんと飲み込みなさい』とかいって嫌がるわたしの口の中に無理やり毒物を詰め込もうとしてくるに違いない。
「五月蠅いわね、あなたがそうしてほしいならやってあげるわよ」
ど、毒を盛られる!?
恐らく毒を盛ろうとしているであろう紗月さんにビビってがたがたと震えながら口と目を閉じていたら紗月さんの細い指がわたしの頬に当たった。
うう頬っぺたを引っ張って口を無理やり開けさせる気なんだと思って身構えていたけれど、紗月さんの小さな手はわたしを引っ張るわけでも叩くわけでもなく優しく細雪の様に淡く頬に触れているだけだった。
なにもされなかったので恐る恐る目を開けると、紗月さんが困ったような顔をしてこちらを睨んでいた。
「・・・友人のあなたが嫌がるようなことをするつもりはないわ」
「あ、あれ?・・・あ、ありがとうございます?」
紗月さんの小さな手は冷たくてさっきから馬鹿みたいに騒いでいたわたしの頭を冷やすには丁度良かったけど、さらりと友人なんていうものだからなんか恥ずかしくなってしまい逃げるように紗月さんの手から離れて持ってきてくれたホットミルクを口に運ぶ。
牛乳を温めただけの簡単なものだったけど熱すぎることはなく凄く飲みやすかった。暖かさがじんわりと体に広がっていく。紗月さんの優しさがここをにしみわたっていくみたいだ。紗月さんもわたしのすぐ隣に座りマグカップに口をつけ少しずつホットミルクを飲み始めた。
うう、優しい紗月さん本当にありがとう。
紗月さんは芦ケ谷に舞い降りた二人目の天使だったんだ・・・
「これを飲んで眠れないなら次は首を絞めていくしかないわね」
「まって」
思わず飲んでいた牛乳を吹き出しそうになってしまった。なに?なんなの?紗月さん実は物騒なことしか喋れない病気にでもなったの?
「友人を絞殺するのは心苦しいけどあなたのためを思ってなのよ甘織」
「さっき嫌がることはしないとか言ってたじゃん。というかわたしを亡き者にしようとしてない!?」
「意識が落ちるときは気持ちいいらしいから地獄で感想を教えて頂戴」
「殺す気満々じゃねえか!?」
さっきまで親友思いでやさしさに溢れた大天使の紗月さんはどこへ行ってしまったんだ・・・
こんなんじゃ情緒の寒暖差で風邪を引いてしまう。
「飲み終わったかしら?」
「え?」
「ホットミルク、飲み終わったら片付けてくるから」
「す、すぐ飲み終わるから待ってて!」
「別に急がなくていいわよ・・・」
急に隣に座っていた紗月さんがわたしに寄りかかってきた。
な何事!?実は本当に毒を盛ってて紗月さんが間違えて飲んじゃったとか!?
「昼間はごめんなさい」
「・・・え?」
急に紗月さんの口から謝罪の言葉が飛び出す。
「そ、それは何について?」
「あなたが怖がってたことを馬鹿にしてしまったから」
「そ、それは普通にわたしがビビりすぎていただけですし」
「それでも言い過ぎたわ」
「そうでもないと思うけど」
「じゃ、コップ片付けてくるから」
「あ、はい」
そういうと紗月さんは逃げるようにマグカップをもって台所の方へ歩いて行ってしまった。
やっぱりなんやかんや文句とか暴言とか脅迫とか言いつつも相手のことを気にして謝ってくれるしわたしのためにホットミルクを作ってくれたりしてくれて紗月さんは友達思いで優しい人なんだよなぁ。
台所から聞こえる洗い物の音を聞きながら暇になってしまったのでふと部屋の中で視線を回すと、紗月さんが先ほど片付けた机の脇に本が積まれていた。
いつも紗月さんが読んでいる本だろうか。タイトルが気になって丁寧に積まれた本を一冊手に取ってみる。
「・・・実はえっちな小説かも知れない」
実際この前貸してくれた小説はえっちな小説だったしありえない話ではない。紗月さんに弱みに成りえるかもしれないとちょっとした冒険心で手に取った本へ視線を落とす。
『不眠症の直し方』
「・・・ん?」
もう二冊ほど手に取りタイトルを確認する。
『睡眠障害への対応』『よく眠れる方法』
こ、これって・・・もしかして紗月さんわたしのために?そういえばここ最近ずっとわたしのこと気にかけてくれていたような気がする・・・
「何を見ているの甘織」
後ろから人を殺めていそうな悪魔の声がすり抜ける。こ、殺される!?
「ヒィッ・・・み、見てませんし気づいてませんけど!?別に紗月さんが大親友のわたしのことをしんぱいして興味もない本を図書館から借りてきてわたしのために読書の時間を潰して読んでくれてそれを実行するために紗月さんがやるはずもないお泊り会にわたしを誘ったなんて気づいてません!!」
殺さないでくださいとバリアを貼るように言い訳を重ねていく。
「なに?私があなたの心配をするのはいけなかったかしら?」
「い、いやそういうわけじゃないですけど・・・」
「じゃあなによ」
「い、いやその・・・紗月さんがわたしの事を心配してくれて嬉しかったといいますか・・・」
思わず喋ってしまったけどこう面と向かってお礼を言うのってなんか恥ずかしい。不意打ちだったし紗月さんにしてはあんまりに純粋な好意だったので多分耳まで真っ赤になっていて紗月さんの顔を直視できない。
「べ、べつに・・・」
「別に?」
「別にあなたのためじゃないわ少し睡眠のことに興味があっただけよ最近眠れない日が多かったし少しでも睡眠の質が上がれば自分のQOLが上がればいいと思って自分のために借りた本よ。それにあなたのことなんてあんまり心配していないし今日泊りに誘ったのだって別に親友だから少しは助けてあげようとか思ったわけじゃないし瀬名のためにあなたの勉強を見るつもりだっただけよ、調子に乗らないで頂戴。」
「ツ、ツンデレだ」
「っふん」
シュっと風切り音を鳴らし紗月さんがその場に置かれていた一番分厚い本でわたしのこめかみをはたいた。
「ぐぁっ」
わたしの額からパコーンといい打撃音が鳴った。
「これ以上調子に乗る様なら外に放り出すわ」
「ご、ごめんなさい」
「まったく親友だからって眠そうにしているあなたを助けるんじゃなかったわ」
「助けられというてなんだけどそれは言えてると思う」
「別に何か返ってくるわけでもないのに何をしてるのって感じだわ」
「い、いや!そんなことないよ甘織れな子はちゃんと恩を返せるいい女ですよ!」
「・・・絶対に要らないわね」
「自分で返礼を求めたのに!?」
そういうと紗月さんはまた自分の布団へ戻っていったのでわたしも同じようにまた布団にもぐった。
さっきとは違い今はいい時間だし流石にもう眠れるはずだ。
「ねえ甘織。ふと気づいたのだけど」
「え、なに。紗月さん怖い話ならなしだよ」
「違うわよ。私はあなたの親友だから間違えてあなたを助けようととしてしまった可能性が高いわ」
「い、いや間違えてはいないと思うけど・・・」
「だから親友をやめれば助けようとする気も起きないんじゃないかしら。」
「え・・・・・・・・絶交ってこと・・・」
そ、そんな・・・
「悪いほうに考えるわね」
「悪いほう以外にないでしょ!?」
「あるでしょ」
そういうと紗月さんはわたしの布団へ侵入してきてそのままわたしの体を押さえつけた。
「寝る前に運動するとよく眠れるらしいわ。それと初めてのことだから上手くできないかもしれないけど我慢して頂戴」
「え?」
翌朝布団の中では黒水晶のような髪を紗のようにまとっただけの紗月さんがすぅすぅと静かに寝息を立てていてわたしはというと。
「・・・一睡も出来なかった」
眼の下にクマをつけながらぼーっと朝日が昇るのを眺めていた。昨夜のことはもういろいろと凄くってあんまり覚えていないんだけど紗月さんのその・・・あれやこれやが凄くってずっとわたしはやられっぱなしで全然休憩もないまま気づいたら夜が明けていた。
というか結局夜眠れなかった・・・まあいいや、今日はもう朝だから起きていよう。
そう思いながら隣で気持ち良さそうに寝ている紗月さんの頬を少しだけ撫でた。
おわり