◆きりやん視点
はい、徹夜何日目かのきりやんです。
…馬鹿してます……
徹夜をする事は慣れてるから余り苦では無かった、のだけれども。
あまりの忙しさに、ろくに食事を取れていなかったことが幸いしてか否か、猛烈な吐き気と戦う羽目になってしまった。
地獄もいい所である。
総統(笑)のNakamuの補佐と、自分の仕事、外交官としての情報収集と、他の幹部がやらかしたりやってなかったりして提出が間に合わなそうな書類の手助けと……そんな生活をしていたらこのザマだ。
小さい頃から薄々感ずいてはいた。
遊び疲れて寝て食事をすっぽかしたりで、食事が長い間取れなかった時。
力の入らない身体を無理矢理動かして遊んでいたら、胃が締め付けられるような、そんな違和感に駆られ、胃液が上がってきて、吐きそうになってしまった。事があった。うん。
思い出せば子供らしいとも言える馬鹿な話だが、今の自分の状況がその時と近しいもので、馬鹿だと笑い飛ばせない。
常に胃が締め付けられているような、奇妙な感覚に、波のある吐き気と、気持ち悪さと、徹夜による頭痛と視界の悪さ。
ほぼ満身創痍でよろよろと廊下を歩いて、トイレに向かおうと角を曲がった。
「?!きりやん様っ?大丈夫ですか…?」
「ぇ……?あ、うん。大丈夫。」
ところで、一般兵とぶつかりかけた。
一瞬の疑問を出しかけた顔を何とか笑顔に変えて、背筋を伸ばして答えた。
此処は幹部棟だ。
兵士棟とは違う。
幹部棟に入っていいのは、俺ら幹部と総統(笑)であるNakamu、そして幹部補佐官に任命された数名の兵士と、幹部に呼び出された者くらい。
きんときが兵士を呼び出しているような素振りは無かったし、なにより放送も入っていない。
幹部補佐官に任命された兵士が付けている勲章も無い。
…誰だ?
これしきのルール、この軍の兵士なら全員把握しているような当たり前の事。
それなのに破っている、という事は、高確率で観光客だろう。
観光客じゃなかったとしても無断での幹部棟侵入は罰則の対象。どっちみち捕えなければならない。
え〜え〜……タイミングが最悪なのだが…
狙ってるだろ最早……
護身用の短剣は腰にある、睡眠導入剤も袖に仕込みがあるし、踵の仕込みも何時でも出せる。
…よし、吐き気が収まったタイミングで行こう。
じゃないと死ぬ。
大事なことなので2回言っとく。
死ぬ。
揺れ動いているような気持ち悪さが、漸く静まる。
すれ違って後方10m先にいる兵士を目の端で捉え、短剣を持った。
踏み出した右足を軸に180度回転、ぐらつき掛けたのを左足を後ろに着くことで堪え、また踏み込んで勢い良く飛び出した。
相手も気付いたのだろう。
咄嗟に長剣を抜いて応戦してくる。
はい、幹部に向かって剣抜いた時点で観光客確定。お疲れ様でした。
受け止められた短剣は弾かれ、身体が後ろに飛んだのを受身を取ってダメージを流しつつ、素早く立ち上がる。
早く決めないとまた吐き気が……
なんて考えてたら登ってくるからダメだ。
首を横に振って、また短剣を構える。
きんときに連絡を入れれば良い話なのだけれど、そんな考えは俺の頭の中には無かった。
「クソっ!がっ!!」
そう声を荒らげる相手は隙だらけで、袖の裾から睡眠導入剤を取り出して投げた。
パリン。
硝子の小瓶が割れて中から液体が飛び出す。
綺麗に当たったらしく、相手は直ぐに倒れてしまった。
念の為武器を取り上げながら腕を掴んで地下牢まで引き摺る…と言いたいところなのだけれど。
地下牢までが遠過ぎる。
普段ならそんなこと、思いもしないのだけれど、自分の体調が不良なだけに、軽い移動ですら苦痛だと感じてしまうのだ。
「あ〜あ〜あぁ〜…!!」
声を出して気を紛らわす。
……紛れるとは思わなかったが。
両手で眠っている観光客を引き摺って、階段を降りる。
…痛そう。
階段を1段降りる度に、ガン、ゴン、と頭を打ち付けている観光客に、起きた時に記憶がちゃんとしているか心配になってしまった。
多分…大丈夫、だろう。そう信じたい。うん。
唐突に上がってくる吐き気に立ち止まりながら、襲いくる頭痛にふらつきながら、長い長い階段を降りて、廊下を歩く。
ここ、どこ?
俺いま何階降りた?
まだ地下じゃないんだっけ。
遠い、遠すぎないか…Nakamuに打診して見ようかな…多分無理だろうけど。
あのパンダは1回決めた事を曲げるのが大嫌いだから…
纏まらない思考。
散漫する注意。
ぼぉ〜っと歩いて、漸く地下室の扉の前まで行く事が出来た。
ご飯出来たやっぴー。