Episode5【想い、音、歌、重なって】
天使の存在は絶対のモノ。
彼らは自らこそ、神の示した本来あるべき人の姿であるとする。
自分たちこそが、この世の理を示すもの。
自分こそが、神に与えられた【正義】であると。
それが、人道を外れたものであったとしても。
先だって、定期テストが行われた。
結果としては、案の定Cクラスの殆どが退学処分となった。
ノアが所属する音楽部では各クラスで何名か昇格があった。
Bクラスへ昇格3名。
Aクラスへ昇格5名。
Sクラスへ昇格1名。
先日出会った伊咲凪はというと、無事Aクラスへの昇格が認められていた。
だが、同時に彼女にはSクラスに昇格はできないという通知も来ていた。
場所は変わり、司令部では新たなSクラスの顔合わせを行っていた。
その中で一際メンバーの注目を集めていたのは、文学部の学生だった。
「雅号、キャロルの名を頂きました。英国文学の専攻ですよろしくお願いいたします。」
白杖を手に持つ彼女の目線はどこを向いているかわからず、瞳も白く濁っていることから彼女が盲目なのだということは皆すぐに分かった。
その日は何事もなく、顔合わせのみで終了した。幸い、初陣にはならずに済んだようだった。
ノアは一人、寮の中庭へと行くと、甘い菓子の香りが鼻をくすぐった。
「ノアじゃないの!一緒にお茶でもどう?」
東屋にいたのはマリーだった。手元にはクリームと果物で飾り立てられたケーキ、入れたての紅茶が並んでいた。
「またお前か。菓子ばかり食って太るぞ。」
「太らないもん!ノアってなんでそんな嫌味なのよ!」
怒りをあらわにするように頬を膨らませてみると、ノアはそれを無視して物思いに耽り始めた。
ノアは、あることで悩んでいる。
ルートが斬られてからというもの、彼はどうにも夢見が悪い。
誰とも知らぬ者が剣を持ち、あの天使たちを率いている。その中に聞こえる少女の声。その正体もわからぬまま、彼は夢で藻掻くことしか出来なかった。
ノア、と声をかけてくるのはマリー。その声に目線だけを返事とすると、いつもとは違う真剣な眼差しで見つめ返してきた。
「ノア、私たちは共鳴者なんだよ。悩みがあるなら聞くし、戦場に立つときは一緒だよ。分かってる?」
「お前を戦場に送るつもりは微塵もない。だってお前は──」
「子供だから?そう言いたいんでしょ。ノアの言いたいこと知ってるよ。」
心を見透かされている気がした。無邪気なその瞳は全てを知っていると言わんばかりに、彼を見つめる。
「俺は、過去が無い。お前にはある。戻る場所があるだろう。俺とは違う。」
「帰る場所がないなら作ればいいよ。ノアは私の共鳴者。だから私の隣がノアの帰る場所。」
どうかな?と首をかしげるマリー。ガラスのように透き通ったその瞳には明るい未来が映し出されている。
だからこそ、ノアは共に在ることなどできないと考えるのだ。
たとえ自分の名前が【希望の箱舟】であったとしても──。
彼は、忌まわしき過去の呪縛から逃れることなど出来るはずがなかった。
薄々感づいている。
彼は彼自身の正体に、過去に気が付いている。
ルートを斬った天使の言葉、時折見る悪夢、そして一房だけ白い髪。
だが、その答えは最悪で、ノアという存在を否定しかねないものだからこそ、彼は目を背け続ける。
「戦うのは、俺一人だ。手が血に染まるのは俺一人だ。だからお前は、お前は──」
「戦うな、でしょ?またそんなこと言うのね。いい?私たちは共鳴者。二人で一つ。だったら、ノアの闇は私も半分持たせてよ。二人で持てば少しくらい軽くなるよ。」
自分よりも遥かに小さなその体が、その手が、これ程までに大きく見えるとはノアは思ってもいなかった。
言うなれば慈愛に満ちた聖母のような、全てを包み込んでくれる優しい風のような。
思えば、マリーの側にいることが余りにも少なかった。ノアは自然と彼女を避けていた。ここまで一緒に、近くにいることは初めてだった。
なんて、心地いい。
気が付けば二人はいつの間にか声を重ね、歌を重ね、想いを重ねていた。
美しく、優しいハーモニーは学院中へと響き鳴り渡っていた。
160号@cocoacandiangel
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芸術に愛されるべき物語第5話【ベッター用連載】
初公開日: 2020年12月16日
最終更新日: 2020年12月16日
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ベッターにて連載中の作品です
第五話を書いてます