Episode6【メタトロニアにて】
静かな世界。機械の音がこだまする部屋に彼はいた。
完全なる存在は何時だって人の求めうるもの。
完全なる『光』になるために、この世に彼を生み出した。
光があるところ、必ず影が存在することを失念したままに──。
『天使の審判』
彼らは自分たちをそのように名乗るようになった。ミューズ達を敵対視して、世界を壊す『悪魔』と認識している者達だ。
では、そもそも彼らはなぜそのように動くことになったのか。
そもそもは、『天使の審判』などと小難しい名前ではなかった。この名前になったのはつい最近、それも半年ほど前である。
元は、『天使の声を聴く会』として動いていたただの新興宗教だった。その頃はいたって平凡で、キリスト系の新興宗教であることくらいしか特筆することがない。
だが、ある時から幹部たちに天使の名前を付けるようになった。その中で、現在の『天使の審判』で主格として動いている天使がいた。
彼はいつもこう語る。
「ミューズとは、女神などではなく、悪魔に誑かされ、自らの身をも悪魔へと変質させた者たちなのです。人は人の身であることこそ、主の思し召し。我らは主に、我らが父に逆らう者へ天罰を下すのです。」
その天使の名前を『ラファエル』という。
そもそものラファエルとは、守護天使の監督役として有名な存在で、決して天罰を下す役を持っているのではない。
つまり、彼は戦闘向きではない。
他の天使の名を持ったもの達が今日も今日とてカノンを壊すことだけを信じて動いている。
ここまで言えばどうにもファンタジックな世界を持っているが、それは違う。
郊外にある彼らの施設、通称『教会』ではファンタジックというよりSFめいたことが行われていた。
教会に出入りするのは天使を信奉する多くの科学者たち。中の施設はと言えば、見たこともないような巨大な機械が並び、何やらおかしな音がしている。
液体の流れる音、空気が入っていく音、機械特有の電子音。
その先にあるのは、多数の培養槽。全てにカバーがつけられて、中はあまり見えないようになっている。
外側の端末で内部に関する操作を行うようで、いくつもの培養槽の前に白衣の人間が並んでいた。
この場所は、全ての天使の生まれる場所、謂わば聖地。
その名を『メタトロニア』、数々の聖典にて上がる天使の名前をもじったものだ。
全ての天使は言うが、『天使の審判』においては天使は二つに分かれる。
生まれながらの天使か、『転生』を果たした元人間か。
生まれながらの天使は最初から、細胞一つの状態からメタトロニアで作り上げられていく。
打って変わって、元人間の場合、幹部により、人間として一度殺され、その後メタトロニアで作り変えられていく。
自らを変質させたモノを『悪魔』と呼ぶ彼らは、変質させた己を『天使』と呼ぶ。
彼らは自分が見えていない。
人と違うものへ天罰を下すと言っておきながら、自分たちが同じ状態になっていることに何も気が付いていない。
何処までも悲しい者たちなのだ。
「天罰を下すことこそ、我らの生きる意義。ならば、今度は掃討することとしましょうか?ねぇ、ガブリエル。」
その場にいた二人は互いに白い髪、白い肌でどこまでも純白だった。
ポニーテールに結んだ方がラファエル。そしてショートカットの男性的な見た目をしているのが先ほど呼ばれたガブリエル。
ガブリエルの名前はかなり有名ではないだろうか。受胎告知の天使の名前を持った彼は、男性的であるものの、どこか女性的で、美麗な青年であるということが窺える。
「我らが父へ反旗を翻したのならば、それを打ち倒すは我ら天使であるべきだ。そして、相手は『ルシファー』ならばこの俺が出ることこそ運命ではないだろうか。」
「それでは、お願いしても?」
「俺が『ルシファー』を引き付ける。そして、ほかの天使たちでカノン本部を落としてくれ。」
「それは素晴らしいことです。あそこには多くの罪人がいますからね。指揮は私に任せてくださいな。」
『ルシファー』とは、かつてここに所属していた天使の現在の名前。
嘗ては『ルシフェル』、最も尊く最も美しく、最も強い天使の名前であった。
彼は今、カノンに所属している。
一房だけ白い髪を残して、『ノア』として、歌い続けている。
彼らからしてみればノアは裏切り者だろう。
ならばどこまでも追い詰めて、罪を裁くはずだ。
この戦いは全て、『ノア』から始まった。
カノンに大きな災厄が降りかかることをまだ誰も知らない。
160号@cocoacandiangel
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芸術に愛されるべき物語第6話
初公開日: 2021年03月10日
最終更新日: 2021年03月10日
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