クラブに行くと言いながらタワーを出て数時間後にフェイスは帰ってきた。その手には紙袋がぶら下がっている。もう見慣れたとはいえ、パトロール以外でファンから貰うことはあっても遊びで行くクラブではこういうものをあまり貰ってこないのに。早く帰ってくるし今日は珍しい日なのか、と考えながら視線を戻した。
「おチビちゃんはい、あげる」
「……は?」
かけられた声によって視線は再び戻る。ん、と突き出された袋とフェイスの顔を交互に見てから覗いた袋の中には黒とピンク、金と黒がそれぞれ中心の布地。物の正体は頭の中に思い浮かんだものの、何故これをフェイスが持っていておれに渡しているのか。
「なんだこれ」
「ぬいぐるみでしょ」
「いやそれは見たらわかんだろ」
「いつも遊んでる女の子からお店で見つけて可愛かったから~だって」
消えてくれない疑問をぶつけているおれをよそに、ガサガサとフェイスが袋から取り出したのは持ち主とそっくりなぬいぐるみ。二頭身のデザイン故に細かいところは省略されているけれど誰をモデルにしているのかは一目で分かる。
「だからって本人にそのぬいぐるみ買って渡すか?」
「そう言って断ったんだけどね。家には既にいるから~って押し付けられちゃった」
「マジかよ」
ビニールを外された小さなおれがぽん、と手の上に乗る。ヒーローになればこういったグッズも作られるということは知っているが、いざ自分の分身のようなものを目の前にしたらどうしたらいいのだろうか。どうするのが正解なのだろうか。
「だからって俺、ぬいぐるみ持っていたいとは思わないから、はい。せめて自分ぐらいは可愛がってあげたら?」
「俺だって自分のはいらねーよ」
「それじゃあこれでどう?」
手の中から抜け出していった小さなおれはフェイスが抱えて、その代わりにフェイスの分身が手の中に納まった。
「は?」
「お互い自分のは持っていたくないんだし、だったらそれぞれで持っていたらいいんじゃない?」
「は?」
名案だと言いたげに微笑みながら話すフェイスの言葉に思考が追い付かない。いや、なんでそうなるんだよ。何故か機嫌がよくなったフェイスは自分のスペースに移動しながら手の中にいるおれの頭に口付けている。おれ自身にされたわけじゃないのに驚いて小さく体が跳ねる。
「それじゃ、おやすみおチビちゃん」
「っ、まてまてまてまて! なんかおかしーだろ!?」
ベッドサイドにぬいぐるみを置いて撫でるそぶりをした所で我に返って声を荒げた。その声に驚く様子もなくフェイスは振り返っておれを見る。
「なな、なんっでぬいぐるみにき、キスしてんだよ!」
「なんでって。別に良いでしょ? 俺の物なんだし」
「そうじゃなくて!!」
心臓はうるさいのに、顔が熱い。それでも冷たい部分の理由は自分自身のことだからよく分かっていて。じっと見つめている瞳が楽しそうな、愛おしそうな色をしておれの視線を絡めとって離さない。その視線に食べられてしまいそうで、ごくりと喉を鳴らす。
「ほ、本人がいるんだからおれにしろよ!」
「……アハ、そうだね。可愛いおチビちゃんにもしてあげないと」
一歩、二歩と大股で移動すると直ぐに至近距離になる。足が長いの本当にむかつくな。おれも将来はこれぐらい、いやもっと大きくなってやるけど。無理やり思考をずらしたところで頬に手を当てられたら目の前の物へと引き戻される。甘い飴玉みたいな瞳に影が落ちたと思うと、唇に柔らかくて温かい感触。キスをされている。それは啄むような優しいものだけど、何度もされるだけでさっきまで冷たかったところも熱くなっていった。
「これで満足?」
「……っせ」
「俺はまだ足りないな、」
「ん……っ」
一度離れた唇がもう一度合わさって、今度はさっきよりも深くなっていく。結局お前がしたいだけじゃねぇのかよ。それは声に出してもきっとそのままフェイスの口の中に消えていってしまう。まぁおれも同じだからいいけど。恥ずかしいことは言葉にしないままフェイスの首の後ろに腕を回した。