つやつやと光を跳ね返す米の塊が、口の中へ消えていく。その様を、知らず知らずのうちに凝視していた。
「食う専門」と自称はすれど、肥前は大食らいでも早食いでもなかった。他の刀と同じ量に盛られた食事を他の刀と同じ速さで食べる。それを「食う専門」と称するのは、単に面倒なだけなのか、それとも自分には向いていないと断じてしまっているのか。真意を尋ねたことはないが、きっとどちらもなのだと陸奥守は思っている。
 しかし、肥前の食いっぷりは確かに「食う専門」と呼ぶに遜色ない。量を食べるわけでもない、食べるのが速いわけでもない、けれど、実にうまそうに食すのが肥前忠広という刀だった。顕現してすぐの頃、厨の番人の片割れたる燭台切をして「作り甲斐がある」と言わしめたこともある。続いて南海の食の細さを案ずる言葉が飛び出たので陸奥守としては複雑な心境だったが、少なくとも肥前は厨連中に好意的に受け入れられていることが分かって安堵した。胃袋を掴まれている刀はたいてい厨の番人に頭が上がらないので。南海の食事量も時間の経過と共に増え、本丸で生活していくに問題無いと判断できたのも幸いだった。肩の荷が降りたことに若干の寂寥感を覚えたことは陸奥守しか知らないことだ。
 肥前の一口は大きい。縦にも横にも口を広げ、四角く空いた空洞でもって目当ての食品にかぶりつく。一息で握り飯が大きく削られていったが、一口の大きさに反して頬を膨らますことはしない。己の口の大きさを把握して、それに見合うだけの量を口内に迎え入れる。箸遣いが上手なわけでも所作が優美なわけでもない、どちらかと言えば粗っぽい動きであるのに品を失わないのはそれが理由だった。中にものが入っているときは口を開かないとか。本刃にとっては無意識のうちにできてしまうことなのだろう。
 顎が規則正しく上下する。米を噛み締めた肥前の目元がほんの少しだけ緩んだ。
 目は口ほどにものを言う。言葉にしない代わり、肥前の目がうまいと語る。それを見るのが、陸奥守は好きだった。
 一口の大きさの分だけよく噛んで、ごくんと喉仏が上下する。すぐさま再び口が開かれてーーばちりと目が合った。その眉間に皺が寄せられるより早く、目を反らす。物言いたげな視線が突き刺さってくるのを我関せずと黙殺して、目の前の握り飯にかぶりついた。
 次の瞬間には舌へ広がった酸味に飛び上がることになるのだが、食事中に余所見をしたことへの罰かもしれない。不意打ちの衝撃に悶える陸奥守を見て、肥前がふっと目元を緩めた。
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向き
おにぎりを食べるひぜむつ
初公開日: 2020年11月26日
最終更新日: 2020年11月27日
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