椎名さんからメッセージが届いたのは昨夜のこと。
メッセージで、好きだと伝えられて、私は何を返していいのか分からずに、『わかりました』とだけ返事をした。
もっと気の利いたことを送るべきだとわかっているのき、動揺した頭では何も出てこずに、ただメッセージの画面を見続けて、何度も送られた文字列を確認した。
(……本当に……私のことを……好き、と……。
でも、本当なのでしょうか?)
人から好意を持たれることなんてないと思っていたからこそ、どうしても不安が拭えない。
いっそ冗談だと言われた方がしっくりくる。
本気ですか?と送るのも、内心をそのまま文字に載せて、嬉しいですと送るのも憚られて、何度も文字を入力しては消してを繰り返しているうちに次のメッセージが来た。
『明日、休みだから、朝から遊ばないっすか?
10時に駅前のコンビニ前で待ち合わせで』
何も言葉がまとまらないうちに既読がついてしまった。
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(……何も送ることができずに、当日の朝になってしまうなんてぇ……我ながら最低ですぅ。
でも、なんて……?
告白の返事すらまともに送れなかった自分が、まさか『楽しみにしています』なんて送れるわけもなく……うぅ、せめて待ち時間には送れないようにと家を出ましたが……。
やっぱり……ドッキリとか……なにかそういう……?
椎名さんが来なければ、いっそ楽になれるのに……)
昨日の夜から頭の中は混乱していた。
嬉しい。
困る。
本当に?
……私でいいのか?
感情と疑問が渦巻いて、言葉でもうまく伝えれる気がしないのに、文字にして相手に伝えるなんて、そんな無理難題、不可能だ。
家を出て、指定の駅前のコンビニに向かう。
冬の始まりをつけるような冷たい風は頬を冷やして、温まりかけた空気はわずかに息を白くした。
いっそ、待ちぼうけを喰らって、やはり自分なんて……と思って、来た道を戻る方が精神衛生上はずっといい。
そういう扱いのほうがしっくり来ると思うのに、他でもないニキがそんなことをするとは思えず、その信頼が淡い期待を高めていった。
何度も返事を返そうと歩きながらも立ち止まって画面を見るけれど、いざとなると何を書いていいのか分からず、やはり画面を消して早く歩くことだけに集中した。
(……うぅ…っ、予定よりも20分も早く着いてしまいますぅ……返事も返せずに、こんなことだけは俊敏で……いえ…ですが、お待たせするよりはずっと……)
曲がり角を曲がって、その先は待ち合わせ場所のコンビニだ。
中で待つべきか、外で……?なんてことを曲がる直前までは考えていた。
(……あ…っ)
コートの上に黄色のマフラーを巻いて、そこに顔を埋めるようにしてスマホの画面を見入ってる、あれは見間違えることなくニキだ。
入り口から離れた壁にもたれるように、じっと画面を見てる。
(……本当に……?
嘘ではなく?)
気付いてしまったら、急にこれ以上近寄ることが怖くなり、マヨイは立ち止まるとスマホの画面をつけた。
『着きました』
送った瞬間にニキが顔をあげてあたりを見回している。
逃げたいような、
駆け寄りたいような、
相反する感情で身動きが取れなくなっているマヨイを見つけると、ニキはぱっと顔を明るくして駆け寄ってきた。
「マヨちゃん!
本当っすか?嘘じゃないっす?」
「あ……っ、は、はい。
私です……」
ニキのことをどんな顔をして見たらいいのか分からなかった。
未だに心のどこかで騙されているのではないかと不安に思っているのに、それ以上に……顔が……。
巻いていた赤いマフラーに顔をうずめて、なんとか目より下を隠す。
たぶん、いま、人には見せられないような顔をしてる。
「……突然、あんなこと送ってごめんっす。
怒ってない?」
「……怒る…なんて……。
私こそ……何もお返事できずに……すみません……あの……本当に、なんて……お送りすればいいのか、わからなくて……」
どんどん語尾が小さくなる。
肝心なことは聞けない、
触れれない。
本当に、私でいいのか?
なんてことは。
「……来て、くれないかと思ったっす」
「え…?」
その発想はなかった。
改めてニキを見ると泣きそうな顔をして、笑っていて、頬や鼻が寒さで赤くなっている。
どちらかと言えば、笑っている印象が強いニキのこんな表情は見たことがなくて、マヨイは思わず言葉に詰まった。
「来てくれたってことは、期待してもいいっすか?」
真っ直ぐマヨイの目を見据えて、ニキが縋るように聞いた。
乞うのは、私の方なのに。
「……本当に、私でいいんですか……?」
「マヨちゃんじゃなきゃ、こんなこと言ってないっす」
一瞬、頭が真っ白になった。
未だに信じられないと思っている自分がいるのに、まっすぐ自分を見つめるニキの視線に嘘はなくて、不安な自分よりもずっと信じることができそうだった。
「あの……な、なにをどうしたらとか……その……私、こんなんですし……わからなくて、椎名さんにご迷惑をおかけするかも、しれませんが……でも……うぅ…っ、よろしく…お願いします!」
何を話しているのが自分でもよく分からないまま、混乱した頭で目が回りそうだった。
勢いよく頭を下げるマヨイの頭上で、堪えきれずに笑うニキの声が聞こえる。
「なははーっ、もう、緊張してたの、僕だけじゃなかったっすね?
よかったっす」
張り詰めていた糸が切れたかのように、ニキが明るく軽やかにそう言うとマヨイの顔を覗きこんだ。
「僕のほうこそ、よろしくお願いするっす」
「こちらこそぉ……」
もはや何のお願いなのか、わからなかった。
まともに目を合わせれないマヨイの視線の前をとろうとニキが追って、だんだん何をしているのかも分からなくなってきた。
「マヨちゃん」
「はひぃ……」
「好きっすよ」
(ひぃいいい!?)
疑心暗鬼の向こう側に、受け止めることが困難なことが待ち構えているなんて、知らなかった。
赤くなりどろどろに溶けた表情を見られたくないのに、ニキはそんなマヨイを見て嬉しそうにしている。
10時を告げる時計の音が鳴った。
「まずは何するっすか?」
「……お任せしますぅ」
「そうっすねぇ……なんかあったかいもの、飲んでもいいっすか?」
少し血色がよくなったとは言え、どこか寒そうなニキを見て、マヨイは迷うことなく頷いた。
「……そこで、マヨちゃんの気持ちも聞きたいっす!」
「わ、私のことは気にしないでくださぁい!!」