石畳は冷たかった。真冬の寒さを吸って氷と同じように冷え切った石畳。靴で踏みしめている限りその冷たさに気付くことはない。早足で抜けていくなら尚のこと。
 どこか外国の風景を真似ようとしたであろう、テラコッタ色をした早朝の通りに人影はほとんどなかった。
 ほとんどだ。ゼロではない。私と、それから目の前に急に現れた青年は存在していた。
「なにか用かね。急がねばならないんだが」
「絵はいりませんか。あなたに必要なとびきりの絵です」
 もじゃもじゃと鳥の巣みたいに絡まった頭をした青年は、人好きのする笑みを浮かべて言い放った。
「必要か必要でないかは私が決めることだ。君が決めることではない」
「それでもきっと必要です。色はいいですよ。こんな冬でも暖かい」
「……悪いが失礼するよ。会議に遅れるのでね」
 暴言のひとことでも吐きつけてやろうかとも思ったがよしといた。いつどのようなときに品格が失われるかなどわかったものではない。だが、頭のおかしい──外も中も。──青年を長々相手にするほど暇ではなかった。
 その場を足早に去る。部下にもよく歩くのが速いと文句を言われるその足で石畳をリズミカルに踏んでいけば小気味よく音が鳴る。
「いえいえ、そのようなつれないことは言わないで」
 息が止まった。なんの音もさせずに、青年はいつの間にか目の前にいた。いったいどのような靴を履いているというのだ。
 いや、靴の問題ではない。この青年は目の前に唐突に現れたのだ。初めて会ったときも今も。
「なんだ。金が欲しいのか。生憎だが現金はほとんど持っていなくてな」
「欲しいんではないんです。絵を欲しいと言っていただければ」
「絵が欲しいと言ったら君は去るのか」
「必要な絵をお渡ししたら」
 青年の笑顔に、騙してやろうなどという小ずるさは見えない。
「で、あれば欲しい。絵が欲しい」
「言葉ではなく心で言ってください。心の底から。思いっきり」
 自分の額に青筋が立つのを感じた。いまのいままで絵など欲しくなかったが、このくだらない問答から解放されると考えたら、俄然欲しくなってきた。
「絵が! 欲しい!」
 人のいない通りに大声はよく響いた。山彦みたいにして何度も響く自分の声に、動いてもいないのに体温が上がる。
「では、こちらがご所望の絵となります」
 気付けば手元には小さな額に納まった絵があった。あの青年は消えていた。
 橙と赤。陽射しの色がそこには残っていた。
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即興小説15分
お題:絵描きの靴
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【書く前】
珍しくわりと普通のお題来た。絵描きの靴ってなんか文学っぽい。
絵描きの靴は絵の具に塗れていなかった。みたいな、呼んでる側からしたら微妙によくわからない、センター試験の問題に出てくるタイプの文学作品っぽいの
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【書いた後】
通信の状況が悪かったのか、即興小説側にコピーできずに終わった。そして書いてる最中何回も止まっちゃった。
このサラリーマン(のつもり)は心が寒々してたからキツネ的なものが現れて絵を置いていったみたいなそんな感じ。いつも地の文が多くなりすぎるから、会話文とのバランスはそこそこ良かった気がする。
それにしても、打ち間違いと変換ミスがすごく多いな~
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