フリスク視点のメタフリ短編小説です。
 途中休憩も挟みつつ、最後まで書き上げたいと思います。
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【短編】メタフリ
 とても、とても悲しい夢を見た。
 ……気がする。
「……どんな夢だっけ」
 胸にぽっかりと穴が空いたような喪失感は間違いなく残っているのに、肝心の内容は頭からすっぽ抜けていた。悲しい夢だったことは確かだから思い出さなくてもいいんだろうけど、気になるものは気になる。怖いもの見たさ、野次馬の気分だ。
 誰かと何かを話していたような……と記憶を掘り起こしながらベッドから出る。授業は休みだけどママは仕事で学校に行っているから、今日はぼくが家の掃除当番なんだ。加えて宿題もしないといけないからおちおち寝ていられない。
 部屋のカーテンを開け、ぽかぽかと暖かい朝日を浴びて大きく伸びをする。今日はきっと素敵な日だ!
「……あれ?」
 さあ着替えよう、としたところで、窓の外に見慣れた一台のワゴン車が停まっているのが見えた。ママの車じゃない。確か……メタトンが運営しているテレビ局のロケバス。
 どうしてここに、と思っていると、ワゴン車の後部座席のドアが開いて一人のモンスターが降りてきた。間違えようもない、メタトンの姿。────その姿を視認した瞬間。
「……!」
 さあーっ、と体中の血の気が引いていくのが分かった。暖かい陽の光を浴びていたはずの体がみるみるうちに冷たく凍り付いていくかのよう。
 慌てて部屋から飛び出し、二階の自室から一階の玄関へ向かって階段を駆け下りる。着替える暇もなく玄関のチャイムが鳴る音を聞きながら走って、震える手でドアを開ける。
「やあ、ダーリン! おはよう────」
「────メタトン!」
 彼の挨拶も遮り。自分でも分かるくらい涙を含んだ声で叫んで、メタトンに飛びついた。
「だ、ダーリン!? どうしたの!?」
 後に聞いたところによれば、ぼくの家の近くでロケをすることになったから収録前に一言挨拶をしに来たらしい。玄関先でぼくに一声かけて、すぐに車に乗ってロケ現場へ向かうつもりだったようだ。
 なのにぼくが泣きながら飛び出してきたものだからメタトンもとても驚いた様子。メタトンの胸の中でボロボロと涙を流すぼくを抱きとめてくれた手はとても優しかった。
 ────部屋の窓からメタトンの姿を見た瞬間、思い出した。今朝見た夢のこと。
 夢の中でぼくと話していた相手はメタトンだった。いつもはぼくと視線を合わせるために屈んでお話してくれるメタトンが、その夢の中では棒立ちで、小さなぼくをとても冷たい表情で見下ろしていた。
 そして、その表情とほとんど差異なく────冷たい声で言ったんだ。
「別れよう」って。
 すごく悲しかったし、動揺した。突然の別れの言葉にわけが分からなくなって「どうして!?」と聞くと、彼はロボットらしく感情のこもっていない声で「もうキミのワガママには付き合いきれない」と一言。その後は言葉もなく、踵を返して立ち去っていく。
 追いかけた。追いかけようとした。でもまるでぼくだけが水の中にいるかのように足が重くて動かず、「待って」と声を出そうにも過呼吸を起こしたのかどんどん苦しくなっていく。
 見慣れた背中が遠ざかっていく。一度も振り返らない。ぼくと歩調を合わせて歩いてくれる優しい彼はいなかった。必死で手を伸ばすぼくのことなんてもう捨て置くように、遠く、遠く────
「と、とりあえず、お邪魔してもいいかな!? 変なウワサ立てられたらダーリンも困るでしょ!?」
 グズグズと泣いているぼくを軽々と抱き上げ、家の中に入ったメタトンがドアを閉める。リビングに運ばれてソファの上に座らされた。
「ご……ごめ、ん……」
 夢だと分かっているのにショックが大きくて、謝る言葉にも嗚咽が挟まれる。突然泣き出したものだからメタトンはきっと驚いただろうな、と思って涙の理由を説明しようとしたけど、メタトンは「ゆっくりでいいよ」と急かさないで待ってくれた。
 メタトンには急かされなかったけど、多分このあと撮影なんだろうなと察したぼくの心の中は申し訳なさでいっぱいになった。どうして衝動的にメタトンの前で泣いてしまったんだろう。どうにか取り繕って「お仕事頑張ってね」って送り出すか、どうしても涙が抑えきれないならいっそのこと居留守でも使えば良かったのに。
 何度も「ごめんね」と謝り、それに対して「いいんだよ」とメタトンが慰めてくれる。このやりとりをもう何度繰り返しただろうか、やっとまともに喋れるくらいに嗚咽が治まったのは、随分と時間が経ってからだった。
【22:50くらいまで休憩します】22:34
【戻りました】22:52
「落ち着いた?」
「うん……ありがとう」
 謝ると逆に気を遣わせてしまうので、素直にお礼を言った。いつの間にかメタトンが用意してくれていたホットミルクを一口、口に運ぶと、動揺のあまり冷え切っていた体が再び優しく温まっていく。……ヒトの家で勝手にキッチンを使っていることには、もう今更咎めてもしょうがないことなので何も言わない。
「それで、何があったのか聞いてもいいかい?」
 ぼくの肩に手を回して抱き寄せるメタトン。安心させようとしてくれているのだろう。別れを告げられたあれはただの夢だったと頭では分かっていたけれど、こうやって優しさを示されると改めて安心する。
 安堵のあまり、正直に話した。夢の中でメタトンに別れを告げられて、追いかけようとしても足が進まなくて、メタトンに置いていかれてしまったこと。
 両手で包んだマグカップの温かさが余計に口を柔らかくした。そして話し終わったことでぼくも気が抜けて、「ほんと、メタトンってばひどかったんだよ!」と言いながら顔を上げ────
「……メタトン?」
 嫌な予感。見上げたメタトンの顔は夢の中の彼とは違ったけど冷たい印象を受ける無表情で、微かに口の端が引き攣っているように思えた。
 まさか……正夢になるんじゃないか。そう思って冷や汗をかいたぼくだったけれど、メタトンは今の一瞬の冷たい顔から一変、火が点いたように怒り出す。
「ダーリン、まさか本当にボクがキミと別れようって考えるなんて思ってないよね!?」
「え、ま、まさか、そんなこと……」
「だってニンゲンの『夢』って、深層心理とか、願望が出てくるんでしょ!? まさかボクにフラれるとか思ってる!? それともダーリンの方がボクと別れたいなんて思ってる!?」
 メタトンにとってもぼくの話は予想外だったのだろう、さっきまでのぼくも相当だったけどメタトンの方もとても動揺していた。両肩を掴まれてガクガクと揺さぶられる。危うくホットミルクをぶちまけてしまうところだった。
「お、思ってない! 思ってないよ!」
「本当だろうね!? ウソだったら許さないよ! もう一生キミのこと離すつもりないし、万が一にでもボクと別れたがったり逃げようとしたりしたらボクだって何するか分からないからね!?」
「突然のヤンデレ発言やめて!」
 まったく、さっきまでは泣いているぼくを落ち着かせるのに必死だったのはメタトンの方だったのに。今度は今にも爆発しそうなくらい狼狽しているメタトンをまだ目が赤いぼくが落ち着かせようとするという、そんな奇妙な空間がこの場に出来上がっていた。
        *
 さて、今度はメタトンが落ち着くのを待ち。
「ごめんね、ボクが取り乱しちゃダメだよね……」
「ううん、ぼくの方こそ紛らわしいこと言ってごめんね」
 まったくだよ、という言葉は飲み込んで無難に謝罪の言葉を返しておく。メタトンは「それにしても」と言いながら、何故かぼくのために用意したはずのホットミルクを飲んでいた。
「夢の中のボク、本当にとんでもないことを言ったね。ダーリンと別れるなんて天地が引っ繰り返ってもあり得ないし、ダーリンはワガママなんて滅多に言わないのに! むしろもっと言ってもいいくらいだよ!」
 とメタトンは言ってくれるけど、そんなこと言われてもわがままなんて言おうにも言えない。言ったらまた困らせるだろうな、という理由と、わざわざわがままなんて言わなくてもメタトンは充分ぼくのことを甘やかしてくれているから言う必要がないんだ。
「えー? ボクはダーリンにたくさん言いたいワガママがあるのに?」
「あるんだ……」
 知らなかった。今でも充分欲望に正直に生きているように見えるけど、これでもまだ我慢してるんだね……
「ねぇ、何かないの? 難しいこと考えなくていいよ、例えば……ダーリンがやりたいこととか?」
「ぼくがやりたいこと?」
「ダーリン、今日は学校お休みでしょ? 宿題や家事のお手伝いも大事だけど、せっかくのお休みにダーリンがやりたいこと、試しに言ってみてごらんよ?」
 やりたいこと。しないといけないことじゃなくて、ぼくが今日、やりたいこと。
 ……やりたいことはある。でもきっと叶えられない。……ううん、『わがまま』なんだから、駄目元で口にするだけならタダかな。そう思って遠慮がちに、でも耳の良いメタトンには聞こえるくらいの声で言ってみた。
「……今日一日メタトンが一緒にいてくれたら、夢のこと忘れられるかも」
「……そうきたか」
 案の定、メタトンは再び困った表情になった。
 うん、分かってる。だってメタトン、ロケバスで来たってことは今からお仕事だよね。分かっててお願いしたから、メタトンの困る姿を見て申し訳ないと思うことはあっても、ガッカリすることはなかった。
「……いや、待てよ」
 もういいよ、大丈夫────とぼくが言う前に、頭を抱えて唸っていたメタトンが真剣な顔つきになった。何かを思いついた様子。────なんとなく嫌な予感がする。
 その予感はすぐに的中する。まるで名案が浮かんだとばかりに笑顔をぱーっと花開かせたメタトンは、有無を言わさずぼくの体を抱き上げてこう言ったんだ。
「ダーリンも一緒に番組に出ればいいんだ!」
 と!
「待って、それは急すぎ……!」
「そうと決まれば善は急げだ! ただでさえ時間押してるんだからすぐに行こう!」
 手足をバタつかせて抵抗しても何の意味もなかった。ぼくを抱えたまま家から飛び出したメタトンはまるで我が家にそうするかのように玄関の鍵を閉め、ずっと外で待たせていたロケバスのドアを開けてぼくの体を中に放り込む。
「ち、チビっ子!?」
 運転手はいつものバーガーパンツだった。やっと上司が戻ってきたと思ったら後部座席に親善大使が投げ込まれる、という一生のうちになかなか見られない光景を見た彼は、ぼくに続いて車に乗り込んだメタトンに驚きの目を向ける。
「ダーリンも一緒にロケに行くことになったから! さあさあ、早く車出して!」
 運転席の後ろから座席を蹴っ飛ばして急かすメタトン。逆らえないバーガーパンツは鍵を回してエンジンをかけながらもさすがに状況が理解できていない様子。
「いや、そいつパジャマのまま連れて行くんですか!?」
 良かった、気付いてくれた。そう、着替える間もなかったぼくはパジャマ姿のままなんだ。このままテレビに映るなんて考えたら恥ずかしすぎる!
 きっとメタトン自身、ぼくと一緒にテレビに出られるということが嬉しくて服装のことなんて眼中になかったんだろう。ゆっくりと動き出した車の中、ようやっと気付いたかのようにぼくの姿を上から下までまじまじと見て────とっても良い笑顔で親指を立てる。
「問題ないよ! とってもステキなパジャマだ!」
「問題ありすぎだよ!」
 と言い返したぼくの声は、ドアも窓もしっかりと閉められた車の外にまで聞こえることはなく。
 それなりに大騒ぎしていたはずなのに、ぼくは誰にも助けを求めることもできずロケ現場まで拉致されてしまうのだった。
【終了しました。推敲タイムに入ります】23:37
【推敲終わりましたので終了します。お越し下さりありがとうございました!】23:49
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【短編】メタフリ
初公開日: 2020年09月30日
最終更新日: 2020年09月30日
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