ここはミーン工芸館の中にある黒鉄工房。私は永久氷晶の加工をお願いしに来ました。初めて訪れるところはいつでも少しドキドキしますが、今回はガイアも一緒にいるおかげでワクワクの方が大きかった気がします。なぜガイアが一緒に来てくれたのかというと、あの出来事がきっかけでした。
光の氾濫の影響ですべてのものが活動を停滞している『無の大地』。その場所を甦らせるために、罪喰いの最初の一体と思われる『エデン』を操作して擬似蛮神を召喚。それを撃破することによって大地を励起させてきました。最後の属性である蛮神シヴァは憑依型と聞き、私の体に憑依させることを提案したんです。サンクレッドには反対されましたが、大丈夫だと押し切ってしまったのは、多分早く一人前になって安心させたいと焦っていたのかもしれません。その結果、制御出来ず暴走してしまって……。そんな暴走する私を鎮めて救い出してくれたのが、闇の戦士であるスピネルさんとガイアでした。
ガイアとは闇の巫女だからとかそういうことは関係無く、ただ歳の近い友達でありたいとずっと思っていました。彼女は記憶がないこともあって中々心を開いてくれなかったけれど、私は諦めずに話しかけ続けました。助けに来てくれた時に自然と二人で笑い合えて、私の声は届いていたんだなって、友達って自然に笑い合えるんだなって嬉しい気持ちでいっぱいになったのを覚えています。
この時に拾った永久氷晶をネックレスに加工してもらいに行こうと約束して、今日を迎えたのです。
工房にはクラフターとしても活躍されてるスピネルさんが事前に話を通してくれたと聞いています。早速、経営者のイオラさんに声をかけ、バッグから永久氷晶を取り出してネックレスにできないかとお渡ししました。快く引き受けてくれたイオラさんは私たちを見比べると、二人で着けられるようにお揃いにしよっか、と提案してくれました。思いもよらない提案で、私達は一瞬目を合わせたけれど、同時に頷くだけで言葉を交わす必要はありませんでした。
「それでお願いします!」
「このイオラさんにまっかせなさい!」
「変なデザインにしたら、承知しないわよ」
「だ、大丈夫よ! うちには優秀な職人が揃ってるんだから!」
数日後に受け取る約束をしてイオラさんと別れ、次の目的地オカワリ亭へ向かいました。オカワリ亭では評判のコーヒークッキー購入する予定です。
「いらっしゃいませだニャ!」
店主のハンジ・フェーさんにコーヒークッキーをくださいとお願いすると、今日のは闇の戦士様特製だニャ!と教えていただきました。
「……氷晶もクッキーも直接あの人にお願いしても良かったんじゃない?」
「えっと、ほら……。一緒にお出かけするのも目的だから!」
スピネルさんの意外な活躍を間接的に知って、私達は顔を綻ばらせながら次の目的地である彷徨う階段亭へ向かいました。そこでみんなと合流して、お茶会をする予定なんです。
「そういえば、あの人はなんで一緒に来なかったのよ」
歩きながら話をしていると、ふと思い出したようにガイアがスピネルさんのことを聞いてきたので、水晶公に会いに行ってるよと教えてあげました。
報告はサンクレッドが行ったはずでしょ、と首を傾げるガイアにそういえば知らないんだったと、二人の関係をこっそり耳元で囁きました。
「……へぇ。闇の戦士様もやる事やってんのね」
一瞬驚いた表情になったと思ったら今度は意地悪そうな笑顔でそんなことを言うのだから、つい笑ってしまいました。だって、この前まで自分の正体に関すること以外に興味を持ってくれなかったガイアが、恋バナに興味を持ってくれたんです! なんだか嬉しくなっちゃいました。
「闇の戦士であるスピネルさんと、クリスタリウムの統治者である水晶公との恋物語なんて、なんだかおとぎ話みたいだよね」
胸をときめかせ、憧れにため息を漏らすとお子様ねなんて言うんです! ちょっと悔しくて頬を膨らませながらガイアはどうなのって聞き返しました。
「そうね……明日もあるか分からない状況だったのだし、考えた事もなかったわ」
これからはそんな出会いがあるといいわねって真面目な顔でつぶやいたから、好い人が見つかったら教えてねって顔を覗きこみました。
「……なんだか根掘り葉掘り聞かれそうだからイヤよ」
「そ、そんなことないよ!」
クスクス笑いながら歩いていたら、いつの間にか目的地に着いていて、奥の席から手を振るスピネルさんを見つけました。まだサンクレッドとウリエンジェが来ていないみたいで、おひとりでお茶を楽しんでいました。二人が到着するまでのづこしの時間だけでも恋バナの続きをしようと思い、紅茶を二人分頼み席へ向かいました。
手始めに水晶公との馴れ初めを聞いてみようと心に決めながら。