つかささんのエアスケブ
「ニャンに「お前ら付き合ってるんだな」と言われて恥ずかしくなってみんなからの視線を意識してしまうみたいな甘酸っぱいお話」
買い出しメモを眺めながら店へと向かう足取りは軽やかだ。
「よぉ、相棒」
突然、背後から声を掛けられ肩が跳ねる。振り向くとエスティニアンが不敵な笑みを浮かべで近づいてきた。
「驚かせないでおくれよ。で、なんか用かい?」
笑いをこらえながら肩に腕を回してくる彼の行動に怪訝な表情で返事を返す。
「いやなに……知らぬ間に男が出来ていたとはな、と思ってな」
「んぁ!?な、なんで知ってるんだい…!?」
伝えた記憶がないと驚いていると、態度でバレバレだ、と堪え切れずに彼は
笑い出す。慌てて理由を聞き直しても、さてな、と言って立ち去る彼の背を見て、思わず立ち尽くす。
その後、顔を赤く染めて逃げるスピネルと追いかけるグ・ラハを見かけるようになったというのはまた別のお話。
アスカさんのエアスケブ
「作業中に寝落ちしたスピネルさんをよしよしするラハくん」
黒いエプロンを身に付けて、腰でキュッとリボンを結ぶ。腕を捲り、
蛇口を捻って念入りに手を洗う。よし、と手にしたアップランド小麦を
ボウルに流し入れる。鼻歌を歌いながら生地を捏ね、ファイアシャードで程よく温めながら発酵させる。待っている間にローズシュリンプとエディブルオイスターの下処理を済ませて生地の状態を確認。うん、良い感じだ。鍋を準備し、下拵えした具材は一旦保冷庫に入れる。あとは発酵が終わるまでのひと時、日当たりの良い窓辺にある椅子に腰掛けてレシピ本を捲る。
さて、バゲットとブラッドブイヤベースに合うのはどれかねぇ。
今日は久々に一日休みで、夕方にはラハが帰ってくる。気合を入れて
夕食作ろうと朝から食材を自ら調達に行っていた。
鳥のさえずりが心地よい子守歌となり、お日様の暖かい抱擁は程よく
疲れた身体を優しく包み込んでいた。
ガチャ、と玄関の扉が優しく開く。
「ただいま……っと、珍しいな」
彼の視界に入ったのは彼女が窓際で気持ち良さそうに眠る姿だった。
「こんな所で、風邪ひくぞ」
毛布を静かに掛けて髪をひと撫で。太陽のように明るく少し硬めでコシのある彼女の髪が指の間をすり抜ける。優しく微笑んだ彼はそっと髪に
口付けを落とし、彼女の持つレシピ本を起こさぬようにとそっと抜き取る。
そして、彼女直筆のレシピを愛おしそうに指なぞりながらキッチンへと向かう。
あんた程上手には作れないがな、と呟きながら。
じたさんのエアスケブ
「振り回される新人君(じたさんちの子)」
「ラハ、教えて欲しい事があるんだけど」
憧れであり皆の英雄。そして密かに想いを寄せている相手でもある彼女から声を掛けられた。改まった顔つきで聞いてくるものだから、何か問題があるのではと思わず息を飲んだ。
「キスってどうやるの?」
「キスか……ってキス!?」
色恋沙汰に疎いと思っていた彼女の口から出た言葉に驚き、思わず声が上擦ってしまう。彼女にそういう興味が沸いたきっかけは何だろうか、
まさか想い人が出来たとしたら…いや、これは告白のチャンスなのでは、と脳内が混乱して思考が暴れまわる。
「り、理由を聞いても……?」
走り出す鼓動を抑え込み、出来る限り冷静を装い質問をした。
「それは……」
「――……!」
「あ。アリゼーが呼んでる」
彼女はちょっと行ってくる、と軽快な足取りで去っていく。結局何故
あのような事を聞いてきたのかはわからずじまいだ。
「……ま、あんたらしいな」
溜息をつきながらも優しい眼差しで彼女を見送った。