「行け行け行け!」
レジスタンスのリーダーであり、アキラをこの戦いに引き込んだ男、タナカ(※ここは前に出す)の声が地下空間に響く。アキラは大人たちに混じって重い小銃を抱えて走っていく。
横目に見えたのは、かつてキョウコがささやかな私物を持ち込んでいた部屋だったような気がした。
足元に転がっている死体は、いつか挨拶を交わした老人だったような気がした。
しかし、アキラの意識はもうそこにはなかった。それらは、これまでの生活は、「拝水」に支えられたこの世界での生活そのものが、偽りだとわかってしまったから。
通路の曲がり角に飛び込むと同時に銃弾が足元をえぐる。硬いコンクリートの床に転がり起き上がったときには、すでに敵の銃口がこちらを向いていた。
時間が止まったような錯覚の中、頭の中いっぱいにキョウコの笑顔が爆発的に広がって全身がこわばる。視線の先にいる敵の指が引き金を引く動作が異様にはっきりと見えた。
死ぬ、と思った瞬間、敵の影からもうひとつの影が飛び出した。タナカだった。
タナカが腰だめに構えたナイフが敵の脇腹に深々と突き刺さったのに数秒遅れて、敵の小銃がその頭を吹き飛ばした。
両者がもつれ合ってくずおれてから、ようやくアキラはふたつの死体に駆け寄った。
タナカの顔はもうそこにはなく、苦しみも悲しみも見出せない。――どんな顔だったかも、思い出せない。
アキラは震える指先で、それでもなんとかタナカが懐に隠していた爆薬をベルトから取り外す。この爆薬であの「神像」を破壊することが、レジスタンスの最終目的だった。
リーダーは死んだ。仲間もあとどれほど残っているかわからない。ならばもう、自分がやるしかない。
通い慣れていたはずの「神像」への道のりが異常に遠い。このまま、ずっと目的地にたどり着けないのではないか、そんな思いが肩に手をかけるのをアキラははっきりと感じた。戦闘による高揚感と疲労感のせいか、幻聴すら聞こえてきた。
なにも知らなければよかったのに。幻聴はキョウコの声で言った。
そのままでよかったのに。幻聴は父の声で言った。
知らなければ、この世界は壊れなかったのに。幻聴は母の声で言った。
うるさい、とアキラは叫ぶ。それはもう喘鳴でしかなく、少年の叫びは地下の暗闇に反響することさえない。
「神像」への道は屍で舗装されていた。無数の屍が、むしろ導くように「神像」までの道を成している。激しく上下する肩から小銃が滑り落ちるのを他人事のように感じながら、アキラは半ば無意識に懐にしまった爆薬を取り出した。
見上げる「神像」は、変わらずその双眸から涙を流している。その涙は、誰に、なにに、向けられたものなのか――もうわからない。