呼び出された英霊を前に、マスターはパチクリとして固まっている。隣にいるマシュも驚いたように口に手を当て、マスターの上着を掴んでいた。
「…ルーラーです。よろしくお願いします、マスター。」
「よ、よよよろしくお願いします…!海兵さん!!」
「はい。」
にこりと笑った海兵のルーラーは、長い尾を揺らして握手を返した。マスターは興味津々に服を見、尾に触れて騒いでいる。マシュの嗜める声も届かず、ルーラー自身も困惑した様子でマスターから尾を離した。
「ええと、とりあえず他の方にご挨拶と、周囲の探索をしてきても構いませんか。」
「あっ、それならマシュに案内してもらって!ついでにご飯も食べてくるといいよ!今日のご飯はエミヤお手製オムライスって言ってからね。」
わっ、と話すマスターは海兵の手を引き、部屋の外へと歩き始める。さらりとした軍用手袋を物珍しげに摩るその様子に、海兵はそっと手を引く。
「あ、ごめんね。嫌だった?」
「いえ、こう…不慣れでして。」
「そっかそっか。」
すると誰ががマスターを呼び、はぁいと返事を返して彼女は走って行く。前を見ないと転ぶと言うのに〈また後でね〉と手を振るものだから、海兵とマシュは手を振り返して見送った。
嵐が過ぎ去るように静かになった廊下を、マシュと海兵は案外雰囲気良く話しながら歩いて行った。途中で見かけたサーヴァントに挨拶をし、どう見ても人ではない者もいるけれど…?と首を傾げ、説明を受けつつ食堂に辿り着き。
「ここが食堂です!」
とマシュがニッコリ笑って、奥のキッチンを示す。フライパンを手に何かを作っている彼がエミヤなのだろう。
まだ昼前だからなのか食堂にはあまり人がおらず、奥の席に青い人と、黒く怖そうな人がいるだけだ。その青い人がこちらに気付き、おぅ!と片手を上げて歩み寄ってくる。
「新入りだな?俺はクー・フーリン。あいつはオルタ。困り事があったら頼ってくれな。」
「私は…海兵をしていました。ルーラーです。よろしくお願いします。」
「名は伏せる、か。まぁよくある事だ。そのうち教えてくれりゃ嬉しいってな。」
おいオルタ!とクーフーリンは黒い人を呼び、呼ばれたオルタはのそりと立ち上がって寄ってくる。
「よろしくお願いします。」
「…小せぇな。」
とだけ言って戻って行った。マシュいわく、いつもの事なので気にしないで良いらしい。
その後エミヤとも挨拶を交わし、オムライスを貰うとマシュと一緒に食べ始める。どうですか?と聞いてくる彼女の顔は緩く、なかなかに幸せそうだった。それだけオムライスは美味しいし、更に人柄も良いのだろう。
「彼は料理が本当に上手なのですね。」
「リクエストとかあったら…あちらの箱に入れるといいですよ。作ってくれますから!」
へぇと話を聞く海兵に、マシュはカルデアの事やここで暮らすサーヴァントのこと、そしてマスターのことをとても多く話してくれる。マシュはマスターが本当に好きなのだろう、話のほとんどはマスターに関することだった。
時折質問を挟みながら話を聞いていた海兵だったが、その肩にエミヤがポンと手を置く。
「少しいいかな。聞きたいことがあるんだが…。」
「構いませんよ。どうされましたか?」
なんだろうか?とエミヤを見上げる海兵に、彼は声を小さくして尋ねる。
「オムライスの味はどうだろうか?」
するとマシュは小さく笑い、とても美味しいですよと頷いた。これもいつもの事らしく、エミヤは少々心配性らしい。料理がきちんと美味しくできているか、それぞれの部屋が綺麗に掃除されているか、シーツは行き届いているか、洗濯物はきれいになっているか、等々気がかりらしかった。
「見てたところ、君には合わなかったのかもしれないと思ったんだが。どうだろうか?」
「いえ、とても美味しいですよ。」
「…それは…本当のことか?」
何かに勘付いたエミヤは、隣の席に座ると再度訊ねる。マシュは首を傾げながらオムライスを食べ、海兵は問の圧に苦笑いを浮かべながらお茶を飲む。
「私は割と初期に呼ばれてね。多くのサーヴァントを見てきた。多少だが反応で察することはできる…つもりだ。」
「ふむ…なら、距離感というのもご存知なのでは?」
初対面で問い詰めるのは…と海兵はゆるりと笑いつつも、語尾を濁して指摘する。エミヤはその指摘を肯定しながらも、食い下がって話し続けた。
「サーヴァントだろうと治るんだ。」
すると海兵はいいことを聞いたとばかりに笑い、オムライスを食べ終えると手を合わせる。そう言えばサーヴァントの中に名医や医神がいるとマシュから聞いた。ならば少し見てほしいものがある、と立ち上がったところでマスターが戻ってきた。
「んれ?どうしたの?」
「マスター、彼女は味覚障害だ。」
「えっ、海兵さんそうだったのですか?」
驚くマシュは申し訳ないことをしたとばかりに謝り、マスターはオロオロと狼狽え、エミヤはそうだろう?と海兵に確認をとる。
「…おい。」
新たな声が頭上から掛けられてので、海兵は首を逸らして真上を見上げた。そこにはオルタが立ち、トゲトゲとした尾をゆっくりと揺らしている。海兵は細く長い己の尾を収納するかのようにくるりと巻き、蛾の目の腰布の中に隠し込んだ。
「サーヴァントは食わなくても死なねェ。」
「…なので、別にいいかと思ったのですけど。」
「コイツは世話が過ぎる。」
「のようですね。」
オルタと海兵はエミヤを見て溜息をつき、そのまま何を言い合うでもなく別れていく。海兵を追いかけて行ったマスターとマシュは忙しなく、オルタの後をついていくクーフーリンはニィッと笑ってオルタに何か言っている。
残されたエミヤは完食されたオムライスの皿を手に、少しばかり後悔して両者を見送った。